「……リッカのことも忘れてないよ」
キズクスペシャルから我に帰ったリッカが口先をキズクの太ももに乗せる。
心配するような目つきからキズクは情けなくないと言っているような感じもした。
「一歩……踏み出してみるよ」
「キズク……」
どうせ何もしなくても世界は滅んでしまうのだ。
それならば少しぐらい勇気を出してみようとキズクは思った。
「今度はもう手放したりしない」
キズクの目には固い決意の光が宿っていた。
「世界を救えるかどうかは分からない……でも…………もう諦めるのは嫌なんだ。全部を誰かに持っていかれることは我慢できないんだ」
「うん、いいと思うよ。キズクが誰かの犠牲になることなんてないんだよ」
「ありがとう、ノア。俺にチャンスをくれて」
「この結果は君が君自身で掴み取ったものだよ。僕の力だけじゃなしえなかった。君の優しさが他の子たちの協力を呼んだ。彼らが協力してくれたからこうして時を戻せたのさ」
「そういえばみんなは?」
「魔法の糧と消えた」
最後までキズクのそばを離れようとしなかったモンスターたちは時間の魔法の糧となって消えてしまった。
そのことを知ったキズクはショックを受けたような顔をする。
「そんな……」
「彼らが望んだことだ。それに今はもう時間が戻ったから彼らが消滅した事実も無くなった」
時間が回帰したので全ての出来事が無かったことになった。
キズクのためにと身を捧げて消滅したという事実も無くなったのである。
「あっ、そっか」
「彼らがいたという事実も無くなってしまったけどね」
「また会えるのかな?」
「多分難しいだろうね。こうして回帰した時点もう世界は変わり始めている。もしかしたら会えるかもしれないけど、その時には彼らには回帰前の記憶もないんだよ」
「そうなのか……」
「彼らのことはどうしようもない。でも彼らのことを忘れないでやってくれ。それが彼らに対する最大限の感謝と愛を示す方法さ。たとえ伝わらなくともね」
キズクは静かに頷いた。
目を閉じると今でもお世話をしていたモンスターの顔が浮かぶ。
まだ戦えない、力が弱いと最終決戦に残されたモンスターであったけれども、キズクは心を込めて大切に世話をした。
キズクはモンスターの恩返しを忘れないだろう。
それが精一杯、キズクにできる全てであるのだから。
「一歩を踏み出すとは言ったものの……どうしたらいいのかな?」
世界を救う。
そんな目標はできたけれど、あまりにも大きくて抽象的である。
一歩で世界を救えるところなんていけるはずもない。
「君は君らしくいればいいんだよ。底抜けに優しくて、モンスターを愛していて、諦めることない君のままで」
「俺のままで……それでいいのか?」
「それでいいんだ。まだきっと色々実感もないだろ? 少しずつ前に進んで……そして進んでいった先にキズクの、みんなの未来があるはずなんだ」
世界を救うための正しい方法なんてノアにも分からない。
でもキズクならできるはずだと信じている。
今はまだ何もかも始まったばかりだ。
少しずつ進んで失った自信と奪われたものを取り戻し、自分なりの道を見つけていけばいいのである。
「力を失った僕だけど全力でキズクをサポートするよ!」
「……分かったよ! 俺らしく前に進んでみる! だからリッカ、ノア……よろしく頼むよ!」
「もちろんさ!」
「ワフっ!」
ノアは翼を広げ、リッカもよく分かっていないけれどとりあえず元気になったキズクを見て尻尾を振った。
急に始まった二回の人生をキズクは今度こそ前を向いて走り抜けてみようと心に誓ったのであった。