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謀略、変化、奥の手7

「お金持ちのボンボンなのか……?」


「よせよ。俺が万年貧乏だったの知ってるだろ?」


「うむ……確かにそうだな」


 回帰前のキズクはとにかく貧乏だった。

 ノアと出会ってからそれは変わらなかった。


 キズクの食費を削ってもノアのご飯にしていたことだってあったものである。

 お金持ちであったことなど一度もない。


「これほどお金がありそうなのに、支援してくれなかったのか」


「しょうがないよ。母さんは家と疎遠だったみたいだからね。俺にだって話してくれたこともなかったからな」


「そうなのか。んー……ではどうやってここのことを?」


 母親であるレイカが話もしなかったのに、どうやってレイカの実家のことを知ったのだ。

 ノアは小さく首を傾げた。


「祖父……つまりは母さんの父さんが死んだ時に相続の話でね。当時もう母さんはいなかったから俺に話が来たんだよ。ちょっとしたお金だけもらって終わりだったけど」


「なるほどのぅ。だが……どうにも助けてくれそうな感じは……」


 話を聞く限り支援をしてくれそうに聞こえない。

 回帰前の苦しい時ですら助けてくれなかったのに、訪ねたからと今助けてくれるだろうか。


「物は試しさ。ダメだったらダメだったで別に考えてることもあるから大丈夫」


 キズクはなんだかんだで世界の終末まで生き延びたのだ。

 これから生きていく、ということだけに焦点を当てればやれることなどいくらでもある。


「ともかく行こうか。俺もそう簡単には諦めるつもりないし」


 キズクは門に近づいていく。

 門の前に立つ男二人が一度視線を合わせる。


「失礼ですが何か御用でしょうか?」


 右に立っている方の男が前に出てきてキズクを止める。


「北形武蔵(キタカタムサシ)さんにお会いしたくて来ました」


「……御約束は?」


「ありません。ですがこうお伝えください。“北形麗華の息子、キズクが祖父を訪ねてきた”と」


 門の前に立つ二人の顔に驚きが広がった。


「それは……本当ですか?」


「嘘なら罰を受けるのは俺です。だけど無視して本当だったら罰を受けるのはおじさんたちですよ」


 二人は再度顔を見合わせた。

 キズクの前に立つ男はそのままに、もう一人の男が頷いて門の中に入っていく。


「物々しいのぅ……」


 キズクにしか聞こえないぐらいの声でノアが呟く。

 孫が家を訪ねてきただけなのに緊張したような張り詰めた空気をしている。


 リッカも空気を感じ取ってキズクにくっつくように横にいる。

 キズクが堂々として目を見つめていると、相手の方が気まずそうに顔を逸らす。


 それなりに人生経験もあるのだからキズクの方が肝が据わっている。


「お待たせいたしました。お入りください」


 程なくして中に入った男が戻ってきた。

 門は開かれっぱなしで中に入るように促される。


 とりあえず、会ってはくれるようだ。

 門の中に入ると少しアプローチの距離があって大きな家が見える。


 純和風な豪邸である。

 そのまま家に向かっていいのかなと振り返ると門はすでに閉じていて、門番の男性は門の外に出てしまっていた。


「キズク様でいらっしゃいますね」


 とりあえず家に向かえば誰かいるだろうと思って、また前を向くと家から女性が出てきた。

 肩口で髪を切りそろえた妙齢の女性で腰に帯剣している。


「ご案内させていただきます、重山由依(シゲヤマユイ)と申します」


 シゲヤマはまだ若そうだが、確かな魔力を感じる。

 それなりに強い覚醒者のようだ。


「御当主様のところにご案内します」


 シゲヤマは何の感情もない目をキズクから外して振り返ると歩き出す。

 キズクも軽くため息をついてついていく。


「使用人……?」


「いや、ギルドの人だろうね。まあ使用人でも似たようなものだけど」


 ノアが小さくつぶやき、キズクも小さく答える。


「ギルド?」


「ああ。北形家は家で覚醒者のギルドを抱えてるんだ。ギルドそのものは別のところに建物あるけど、こっちの方に鍛錬とかで出入りしたりしてる人もいるんだ」


「ふぅん、よく知っておるな」


「調べたんだよ」


 これは回帰前の知識ではない。

 スマホを使って調べたものであり、現在の人生で知った知識である。


 今時は広く情報が転がっているからネットも便利なものだ。


「北形家は単に家がデカいだけじゃない。覚醒者を多く輩出している覚醒者一族なんだ。だから家人が集まったギルドを最初は作って……そして今ではそれもそれなりに大きくなってるんだ」


「家族経営の会社が大きくなったようなものか」


「だいたいそんな感じ。シゲヤマさんも……使用人の可能性もあるけどギルド関係で雇われているかもしれないね」


 覚醒者を単なる使用人として雇うこともあり得ない話ではない。

 だがシゲヤマは歩き方にも無駄が少なく、武人といった佇まいをしている。


 雑用をしているだけの人には見えない。

 おそらく才能を見出されて、ここで鍛錬しているのだろうとキズクは感じた。


「モンスターはそのままで構いません」


 キズクは靴を脱いで上がる。

 中にはリッカの足の汚れを気にする人もいるが、シゲヤマはそのままでいいという。


 ただぶぜんとモンスターと言い放つのは気に食わないなと思った。

 しかしここで要らぬ争いをしてもしょうがないので何も言わないでおく。

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