『事故渋滞に巻き込まれてしまいました。到着が少々遅れます』
簡潔なメッセージ。
時にはこうしたことがあるのもしょうがない。
自分で事故を起こしたわけじゃなく、事故による渋滞に巻き込まれてしまったのならあまり心配もいらない。
「うーん、でも暇になっちゃったな」
帰る気満々でいた。
教科書もカバンにしまってあるし、いつサカモトが来るかも分からないのに勉強するのもなと悩ましい。
「……コンビニでも行こうかな」
少し経済的に余裕もできた。
回帰前ならコンビニに寄って買い食いなんて考えられなかった。
でも今はちょっとぐらいならいいだろう。
軽く何かをつまみながら待っていようと考えるとワクワクしてきた。
教科書で重たくなったリュックを背負って学校を出る。
学校周りはもうだいぶ人がまばらになっている。
部活の声がグラウンドの方から聞こえていた。
「もしもっと早かったら……何か部活でもやってたのかな」
今から部活に入ることはない。
高校に進んでもどこかの部活に入ることはないだろう。
でももう少し回帰する時点が早くて、余裕があったのなら部活動に勤しむことがあったかもしれない。
「まあでも覚醒者だしな……」
覚醒者は一般人よりも能力が高いために、スポーツ分野においては色々と制限を受ける。
むしろプロになろうと思ったら覚醒者は禁止されているスポーツの方がほとんどなのである。
キズクは一応小さい頃から覚醒者だ。
部活としてスポーツを楽しむことはできるだろうが、大会なんかに出ることはできない。
なかなか難しい問題である。
「まあどの道、部活もそんなにやり込むわけじゃないしな」
やったとしても中学の間だけだろう。
どうせこれ以上時間を遡ることはないし考えるだけ無駄である。
「それより何買うかだな」
初めての買い食い。
何を買うのかよく見極めなければいけない。
どうせなら少し多めに買っていってリッカとノアと分け合って食べられればいいな、と考えながらコンビニに入った。
お菓子もいいが、今回はホットスナックとか簡単に食べられそうなスイーツを選んだ。
「うーん、意外とイケるな」
こうしたものを手軽に食べられるのも今の時代の特権である。
世界が荒れ果てるとコンビニになんてものはなく、食料すら厳しい時代だってあったのだ。
気づいたら厳しい時代だったのでコンビニで買い食いなんてこともやらなかった。
コンビニで買える食べ物のクオリティの高さにキズクは感動すらある。
「……ん?」
学校近くまで戻ろうとするキズクは急に何かを違和感のようなものを覚えた。
なんだか嫌なものを感じる。
キズクは世界の終わりで生き延びた。
弱かったからということもあるのだが、何度も死線を潜り抜けてきたのである。
キズクが生き延びた大きな要因の一つに第六感がある。
ヤバそうとか大丈夫そうなどの感覚がキズクは優れていたのである。
今キズクの勘は危機を知らせている。
良い予感が外れることはあっても嫌な予感というものが外れた試しはない。
誰かが悪意を持ってキズクのそばにいる。
とりあえず見える視界に人はいない。
「誰かにつけられてる……」
キズクは食べていたチキンのゴミを袋に入れるフリをして落とす。
少し遅れてゴミを落としたことに気づいたように装って、後ろも軽く確認する。
サッと隠れる人影が見えた。
確証とまではいかないが、九割方つけられているとキズクは感じた。
「こんな白昼堂々と襲撃?」
夕方に差し掛かっているけれど、まだ日も出ている時間帯だ。
「……いや、俺だからか」
普通狙うなら夜だろう。
だがキズクがターゲットだとしたらそう簡単な話ではない。
キズクは今北形家に身を寄せている。
学校が終われば北形家に帰るのであり、夜も基本は北形家から出ない。
覚醒者も多くいる北形家に忍び込んでキズクを襲うことはかなり難しい。
そうなるとキズクを狙うチャンスは北形家を出た時である。
具体的には学校に行く日中だろう。
だが授業中に狙うなんてことは余程のことがない限りしない。
ターゲットとなるキズク以外の人の目が多いし、すぐに通報されてしまうことになる。
日中の中でも狙うなら下校時だろう。
人が少なく油断しがちである。
キズクがキズク自身を狙うとしてどこが一番良いタイミングかと考えた時にそうなるのだ。
「そうなってくるとサカモトさんも怪しいな」
事故に巻き込まれて遅れるというのも急に怪しく思えてきた。
サカモトが裏切っているとは思わない。
だが事故で渋滞が起きているのはどう考えてもタイミングが良すぎる。
人為的な事故かもしれない。
「チッ……どうする……」
学校に着いてしまうとまた襲撃の難易度が上がる。
おそらく学校に着く前に襲いたいはずだ。
もう襲われるのに時間がない。
だが今のキズクには武器もなかった。
不安になってくるとサカモトすら本当に味方なのかと疑わしく思えてしまう。
事故なんて本当はなくて……という考えが頭をよぎる。
「もう来る……」
ざわざわとした嫌な気配がより大きくなった。
後ろにいる。