「先制攻撃!」
チラリと下を見て影を確認する。
真後ろに人が立っている。
相手が動くのを待ってからでは手遅れになる。
キズクは振り返りながらコンビニの袋を振る。
「うっ!?」
買ったものもそんなに多くない。
重たくない袋で殴られてもダメージはほとんどない。
だが何も警戒していないようなキズクがいきなり振り返って攻撃すれば驚きがあるだろう。
「グレイプニル!」
「な、なんだと!?」
武器はなくとも力は使える。
キズクは手からロープの能力であるグレイプニルを伸ばす。
後ろに立っていた男は知らない人だった。
短いあごひげを生やしたいかつい顔をした男の手にはナイフを持っている。
明らかに敵なので容赦せずにグレイプニルを相手の体に巻き付ける。
「がっ……ぐっ……」
相手を捕らえたのに嫌な予感が収まらない。
「これでまだ終わりじゃないな」
話を聞こうと思っていたけど計画を変更する。
グレイプニルをさらに伸ばして、あごひげ男の首を締め上げる。
あごひげ男はグレイプニルから脱しようとナイフで切りつけるも、グレイプニルには傷一つつかない。
契約スキルによって生み出されたグレイプニルはただロープとは違う。
絶対に切れないのではないかというぐらいの頑丈さを誇っていて、ちょっとやそっとじゃ逃れることなどできないのだ。
「このガキ!」
異常を察して他の男が角から飛び出してきた。
キズクに首を絞められて顔が青くなっているあごひげ男を見て、怒りの表情を浮かべている。
ロン毛の男は剣を手にしていて殺気立っている。
どう見てもあごひげ男の仲間である。
「やっぱりまだいたか!」
やはり仲間がいた。
予想はしていたものの、敵が増えたことは厄介だなと思わざるを得ない。
縛りつけたあごひげ男はまだ気を失っていない。
今の所、同時に出せるグレイプニルは一本だけであるし、実はグレイプニルを伸ばせる長さにも限度がある。
体や首を縛りながらもう一人も相手にはできない。
ロン毛男はキズクに敵意を向けていて、見逃してもくれなさそう。
「誰か! 助けてください!」
近くには住宅がある。
全ての家が無人なんてことはないはずだ。
子供が助けを求めればきっと誰かしら通報でもしてくれる。
騒ぎになれば相手も手を出しにくくなると思って叫ぶ。
「ふっ、無駄だよ!」
キズクに迫る男がニヤリと笑って、手のひらほどの大きさがある水晶玉のようなものを取り出した。
「音を遮断する魔道具か!」
こんなことなら危険を感じた時点でさっさと警察にでも連絡しておけばよかったと悔やむ。
可能性はあると思いつつも、平和な時代に昼間から本当に襲われるなんてないだろうと慢心があったのだ。
ましてや今は北形家の保護がある。
だがそんなことも乗り越えてしまうバカがどの時代、どの場所にもいることを忘れてはならなかったのである。
逃げられたかもしれないし、通報できたかもしれない。
めんどくさいトラブルは避けたい、何も起こらないだろうなんて勝手に期待して今悪い状況になっている。
回帰前は嫌な予感がしたらとにかく行動していたのに、平和な時に来て少し鈍ったものだなと反省する。
「さっさとこのガキ、片付けるぞ!」
「……やってみやがれ!」
もはや逃げるのも難しい。
こうなったらサカモトが来てくれることを期待するしかない。
けれどキズクだってただやられてやるつもりはない。
隙を見て逃げ出すつもりはあるし、なんなら上手く戦えるなら倒したっていい。
「こいつ!」
グレイプニルを伸ばせないのなら伸ばさず戦えばいい。
キズクは縛りつけたあごひげ男を、鈍器さながらにロン毛男に向けて振り下ろす。
流石に仲間に攻撃はできないのかロン毛男は飛び退いてかわし、キズクのことを睨みつける。
縛りつけたあごひげ男は武器にもなるし盾にもなる。
「卑怯な……」
「いきなり子供を襲う大人に言われたくないね!」
卑怯だと言われようとこれもまた立派なスキルの使い方だ。
キズクはあごひげ男を回転させて勢いをつけるとハンマーのように振り回す。
かなり大雑把な戦い方なので相手に当たるとは思っていない。
しかし時間さえ稼げればいいとめちゃくちゃに振り回す。
首を締め上げられながら物凄い勢いで振り回されるあごひげ男はたまったものじゃないだろうが、キズクの方も余裕がないのでひたすらに振り回す。
「ふっ!」
「げっ!?」
このままでは埒があかない。
ロン毛男が振り回されるあごひげ男を受け止める。
大きく押されたものの、あごひげ男を止められてしまった。
「オラっ!」
「うっ!」
ロン毛男が縛られたあごひげ男をぐいっと引っ張ると、力負けしてキズクまで引き寄せられてしまう。
「死ねっ!」
剣がキズクの頬をかすめる。
キズクの戦い方に少し動揺しただけで、まともに戦えばロン毛男も弱くはない。
「くっ!」
気絶するまでもう少しだったのに、あごひげ男を縛っていたグレイプニルも解けてしまう。
「さっさと動け、バカ!」
こんなガキにやられるなんてとんだアホだとロン毛男は咳き込むあごひげ男を蹴り飛ばす。
踏んだり蹴ったりで可哀想な人である。
「そんなもの通じるかよ!」
自由になったグレイプニルをロン毛男に差し向けるけれど、流石にそれで捕まるほどロン毛男もバカじゃない。