「こいつらを誰が送り込んだのかも分かっています」
「ほう」
ムサシの殺気が少し収まる。
「わざわざここに連れてきた……ということは何か目的があるのだな?」
「もちろんです」
「言ってみろ」
「こいつらを送り込んだのは王親家。俺の腹違いの兄弟とその母親です」
ムサシの眉がピクリと動いた。
「兄弟……お前には弟がいるな。そいつが暗殺者を送り込んだのか」
「その通りです」
ムサシは男たちのことを見た。
本当かどうかは男たちの口を割らせればすぐに分かるだろう。
少し殺気を放っただけで恐怖に震えるような素人なら口を割らせることも難しくない。
「……なにをするつもりだ?」
「二度と俺に手を出すなと北形家から警告してください」
暗殺者まで送り込んでくることは予想外だった。
今回はたまたま生き延びることができたが、まだ弱い今の状態では次は助からないだろう。
やはりというべきか前回の警告だけでは足りずに手を出してきた。
今回のことで諦めるとも考えにくい。
ここらで一つ少し大きめの問題にしてしまうのがいい。
おそらく男たちを警察に引き渡したところでカナトはお咎めなしだろう。
カナトと男たちを結びつけるような物的証拠はない。
きっと警察では男たちも口を割らず、キズクを誘拐しようとしたなど言うに違いない。
たとえ明確な証拠がなくとも押し切れるような力が必要だ。
そしてカナトが今後手を出しにくくなるような警告も必要である。
少なくとも今は北形家に保護されていて、手を出せば北形家との問題になると相手に知らしめるのだ。
「なぜわざわざそのようなことをしなければならない?」
ムサシは冷静に返した。
北形家から警告を出すということはカナトのみならず王親家との問題になる。
わざわざそこまでする必要があるのかとキズクを見る。
「今回ご当主様は約束を破りました」
「何?」
すんなり聞き入れてくれないだろうとは思っていた。
だからどう説得するかについても考えてある。
「三年間俺と母さんを保護してもらう約束です。保護、という言葉には生活的なところで守ってもらうこともそうですが、身体的なところでも守ってもらうことも含まれると思ってます」
キズクは頬を指差す。
可愛さアピールではない。
頬にはナイフでつけられた傷がある。
「どう思いますか?」
事故が偶発的なものか、意図して起こされたものかは分からない。
何にしてもキズクは襲撃され、怪我をした。
約束と違うじゃないかという話なのだ。
「今後も同じ起こるかもしれません……守れないこともあるでしょう。でも守ろうとしてくれることが大事だと思います」
サカモトが処罰されるのも困る。
約束を破ったと責任を追及するつもりはないが、保護するつもりなら動いてくれとキズクは要求しているのだ。
実際守れるかはその時の状況によるが、保護する姿勢というのもまた大事だろう。
「……ふっ、そうだな」
わずかな沈黙があって、ムサシは軽く笑った。
「確かにお前たちを保護すると約束した。それには身体的な保護も含まれていて、保護のためには予防的な措置も必要だろう。キズクのいう通りだ」
もちろん四六時中護衛をつけて守ることを望んでいないのはムサシも理解している。
「今からでも約束を守ることで、許してはもらえないか?」
「もちろんです。あとこいつらのこと任せてもいいですか?」
「こちらで処分しておこう」
キズクはニコリと笑うと頭を下げる。
「上手くいったでしょ、母さん」
「ふふ、そうね。今日は疲れてるでしょう? 部屋に戻ってなさい」
「分かった」
「……父さん、私からもいいかしら?」
キズクと、男たちを連れてサカモトが部屋を出た。
完全にキズクが部屋を離れるのを待ってレイカはムサシに視線を向ける。
「なんだ?」
「禁制を解いてもらえるかしら?」
息子が襲われた。
こうなるとただ守られているだけではいけない。
レイカも前に進む覚悟を決めた。