「カナト様……このようなことをしてもいいのですか?」
「うるさい! クビにするぞ!」
クビにする、クビにすると言われながらもワタナベはカナトの護衛を続けていた。
そもそもカナトはわがままで、護衛も護衛というよりお守りのような側面が強い。
ワタナベの前にも護衛は何人もいた。
しかしどの人もカナトのわがままについていけずに辞めていったのである。
そんな中でもワタナベは根気良くカナトに付き合っている。
実際の雇用主は父親のヤヒコであるし、カナトがただのわがままでワタナベをクビにすることは難しい。
カナトのわがままに耐えられるということで、ワタナベもまだクビにはならなかったのだ。
そんなワタナベを引き連れてカナトがやってきていたのは、町中にある古い神社であった。
もはや管理する人もおらず、荒れ放題になっている神社は周辺の住民からも良くない目で見られている。
なんの神社なのか忘れられたようなところに、わざわざカナトは訪れていた。
神頼みなんてカナトはしない。
神社に来たのには理由がある。
「本当にこんな町中にモンスターが?」
「書庫の禁止区域で見たんだ。間違いないよ」
「禁止区域って……大丈夫なのですか?」
王親家には大きな書庫がある。
多くのモンスターの資料が保管してあり、その中には禁止区域という場所が存在していた。
当主以外は決して入ってはいけないと厳しく言いつけられていて、ほとんど当主のように振る舞っている父親のヤヒコですら立ち入らない。
「あのせいで私、怒られたんですよ……」
「俺の役に立って怒られるなら本望だろ」
そんなこと本望なはずがないとワタナベはカナトの後ろで渋い顔をする。
「このことがバレたら……」
先日カナトに言われるがままに禁止区域に入ろうとしてワタナベは怒られた。
その隙にカナトは禁止区域に入っていた。
カナトが禁止区域に入ったことやそこで何かを見たことがバレたら、怒られるどころじゃ済まなそうだとワタナベは思う。
「大丈夫だよ」
「そもそも何をしにここに?」
とりあえず車を回してみたらここに連れて来させられた。
カナトが何をするつもりなのかワタナベはよく分かっていない。
「キズクが連れてる犬っころもそうだけど……実はうちでは封印しているモンスターがいるんだ」
境内に向かう階段を登りながらカナトは得意げな顔をして説明する。
「封印しているモンスター?」
「そうだ。今でこそ世の中は平和に近く安定しているが、昔はモンスターが溢れて大変だった」
「ずっと前のことですね」
「覚醒者の人手は足りず、強いモンスターを相手にするのは難しかった」
何十年も前、ゲートが急に現れた。
ゲートからモンスターが溢れ出し、人々を蹂躙した。
銃火器は弱いモンスターに通じても強いモンスターには通じず、このまま世界はモンスターに支配されるのだと誰もが絶望の最中にいた。
そんな時に現れたのが覚醒者である。
魔力と呼ばれる力を操り、モンスターを戦える能力を持った特異な存在。
覚醒者の出現によって人類は反撃の力を得て、長い時間をかけて失われたものを取り戻していった。
しかし反撃の道も決して平坦なものではなかった。
今でこそモンスターやゲートの数は少なく、覚醒者の数や質も安定している。
ただ当時は覚醒者の数がゲートに対して圧倒的に足りなかった。
攻略が間に合っていなかった実状があったのである。
「そんな時に活躍したのがうち。王親家なのさ」
「王親家が、ですか?」
「そう。王親家はモンスターと契約するテイマーとなる人が多いんだけど、それは初代となる曽祖父がそうだったからだ。そして曽祖父はモンスターの力を利用してモンスターやゲートを封印したんだ」
倒すことはできないが、ある程度はどうにかせねばまともに集中して攻略もできない。
そこで王親家の初代当主はモンスターの力を利用してモンスターやゲートを封印するという方法をとったのである。
「単純に手が回らなかったのもあるけど、強いモンスターを倒さずとっておいて契約できる誰かが出るのを待ってたってこともあるらしいんだ」
いつか攻略するつもりもあったが、強いモンスターと契約できるような人材が出た時に契約してもらおうなんて考えもあった。
どこにモンスターが封印されているのか、それが禁止区域の資料に書いてあったのである。
神社が建てられたのは、神社ならば簡単に土地に手を出したりする人がいないだろうということからだった。
「ここには強力なモンスターが封印されてるんだ。あの犬っころになんか負けない……俺だけのモンスターが」
なぜそんなに執着心を持っているのか。
ワタナベにはよく分からない。
そんなにこだわらなくともきっとヤヒコならば良いモンスターを用意してくれるだろう。
「まさか封印を解いて契約を試みるつもりですか?」
「当然だろ? 俺のモンスターなんだ」
いつの間にカナトのモンスターになったのだとワタナベは顔をしかめる。
「……転職したい」
ワタナベはカナトにバレないように小さくため息をついたのであった。
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