デスサイズがさらに大きくなり、両手鎌として扱えるほどになってからしばらくして。
俺は10歳の誕生日を迎え、この村では大人として扱われる年齢となった。
この世界では、これと言って成人の基準が決まっている訳では無い。
一応、お酒を飲んでもいいと言われるラインが15歳からなので、15歳を大人として扱うのが一般的ではあるが、人口が少なく労働力の確保が難しい田舎の村なんかは10歳辺りから既に大人として仕事を任される。
当然俺も、10歳になったので何らかの職を手にしなければならない。
この村での主な就職先は農家だ。孤児院の子供の場合は、そのまま孤児院を手伝って教会所属の見習いのして働くことも出来るが、多くの場合は農家の方に人を取られる。
子供がいない農家の所に養子に出されたり、普通に雇われたりするわけだな。
なお、まだ10歳ならば孤児院から追い出されることは無い模様。
シスターマリーも暇じゃない。子供の面倒を見てくれる人が必要なので、15ぐらいまでは孤児院に居させて貰えたりする。
まぁ10歳になったからと言って、いきなり家を追い出されても困るわな。
そんな中、俺が選択したのは冒険者であった。
冒険者。
この世界における何でも屋であり、非合法な仕事以外はなんでも請け負うのが冒険者である。
それらを管理する冒険者ギルドに登録する事で、冒険者になれる。
ちなみに、多分世界でいちばん簡単に取得でき、世界各地で通用する身分証だ。
お陰で犯罪に使われることも多々あるのだとか。
なぜ冒険者になるのかと言うと、この世界を旅してみたいと言うのはもちろん、この村を離れたいからと言うのもある。
俺は幼少期時代に人間関係を上手く構築できず、シスターマリー以外に(人間の中では)話し相手が居ない。
これが大きな街とかならばともかく、閉鎖的で村の人間全員顔見知りみたいな小さな村だと、アホほど居づらいのだ。
未だに俺の事を悪魔に取り憑かれた子と思っている人もいるし、出来ればサッサとここから離れたい。
それに、まだ見ぬ魔物を仲間にして、新しい家族を増やしてもみたかった。
「冒険者ですか。魔物と知られている私でもなれるものなのですかね?」
「大丈夫だと思うよ。シスターマリーに相談したら、話を通してくれるって。なんでも、そこのギルドマスターの弱みを握ってるらしいよ」
「........それ、大丈夫なんですかね?」
大丈夫なんじゃない?知らんけど。
シスターマリーはこの村でかなり強い権力を持っている。
そもそも、この国が若干宗教色が強めであり、教会全体の力が強いらしい。そのため、神父が村長もやるなんて事がよくあるそうだ。
この国の事はあまり調べてなかったが、宗教色が強いのか。
シスターマリーの教えからして、魔物ブッコロ!!みたいな宗教じゃないのは分かっているから、まだマシかな。
もしそうなら、俺は既に魔王とか呼ばれてこの村を追い出されている。
「シルは人間に近いしね。羽もしまっちゃえば完全に人間だし」
「羽がしまえるようになったのは助かりますね。よく曲がり角などにぶつけて大変だったんですよ」
「そんな事もあったね........」
そんなことを話しながら、俺達はこの村にある冒険者ギルドにやってきた。
剣と盾のマークが冒険者ギルドの証。
ここから俺の冒険者生活が始まるんや!!とは思うが、その建物はあまりにもみすぼらしい。
冒険者ギルドというか、ボロ屋。
こんなのでよくギルドを名乗れるものである。
「相変わらず酷い建物だ。今度からここ所属になると思うと、俺は悲しいよ」
「もう少し綺麗に出来ないものなのですかね?」
「ハッハッハ。この村の冒険者ギルドは仕事がほとんど無いそうだからな。頼むぐらいなら自分でやった方が早い」
「それは間違ってないけどね。魔物狩りぐらいだし。危ないのは」
ボロ屋の冒険者ギルド。ここから俺の冒険者生活が始まる。
そう思いながら、扉を開けて中に入ると、そこには机の上で爆睡する1人のおっさんがいた。
なんてやる気がない人なんだ。
この人は、この村の冒険者ギルドのギルドマスター。確か名前は、バーランだったはずだ。
仕事が無さすぎて暇なので、昼寝したり適当に村の中をブラブラする人である。
元は結構大きな街で職員をしていたそうだが、出世争いに負けてこんな片田舎まで左遷されてきたらしい。
出世争いに負けたら、こんな所まで飛ばされるのか。冒険者ギルド、恐ろしいぜ。
「んあ?誰だ?」
「........」
「おぉ、ジニスか。そういえば、シスターマリーが言ってたな。今日来るって」
「登録をお願いします。シルの分も」
「分かってるよ。ったく、あのババァ、とんでもねぇもん持ち出してきやがって........」
一体裏でどんな取引が行われたのかは分からないが、バーランが愚痴を言うぐらいには痛い弱みを握られているらしい。
シスターマリー、昔から思っていたが、あの人は本当に敵に回したらダメな人である。
この村の村長ですら、シスターマリーには口出ししないらしいからな。
俺はある意味、強大な権力に守られているのだ。
権力最高!!権力最高!!である。
「ん、魔力を登録するぞ。手を出せ」
「はい」
「この紙に魔力を流せ。やり方は分かるか?」
「はい」
「分かります」
1枚のカードに魔力を流し込む。
そして魔力を流し終えると、何やらバーランがまた作業を始め、五分ぐらいで冒険者カードと呼ばれる、冒険者であることを証明するものが出来上がった。
「はい、これがお前らの冒険者カードだ。絶対に無くすなよ。それ無くすとまた冒険者を最初からやり直す羽目になるからな」
「わかりました」
「ジニス様。私が保管いたします。亜空間を作れるので」
「いや、これは自分で管理するよ。いつ必要になるか分からないしね」
サラッと亜空間作れるからとか言い出すシル。
シルが出来ることを色々と試していたのだが、どうやらシルは亜空間と呼ばれるこの世界とは別の空間を作り出すことができるらしい。
簡単に言えば、四次〇ポケットみたいな。
そこに様々なものを入れることが可能であり、なんとスーちゃんすら収納可能。
これで、スーちゃんと旅をする時に死ぬほど目立つ問題が解決したのである。
シル、優秀すぎる。
一応主人である俺なんて、未だにデスサイズを振り回すのが精一杯だと言うのに。
ちなみに、大きくなったデスサイズは少し揺れることが出来るようになった。
これで意思の疎通が少しばかり取れるようになり、僅かとは言えど、会話が可能。
さらに強化出来れば、デスサイズも話すことができるようになるかもしれない。
「うし、俺の仕事は終わった。あとは好きにやってくれ」
「え、あの。仕事についての説明は........?」
冒険者としてのルールや、仕事の斡旋とまでは行かずとも仕事の説明ぐらいはされると思っていた。
が、どうやらバーランはもう仕事を終えたと言い切る。
「んなもんない。だってそもそも仕事が無いんだからな。一応、魔石と魔物の素材、薬草の買取はやってる。ものによるがな。あー、あと冒険者のルールはそこに書いてある。冒険者になるやつは教養がない奴が多いが、お前は文字読めるだろ?ガキの頃から賢すぎたんだからな」
「........」
「冒険者のルール覚えて、常時買取しているやつを適当にもってこい。そしてたら、金を払ってやる。が、相場よりは少し安くなるぞ。この村だと、売りさばくのが大変なんだ」
「........分かりました」
俺はそう言うと、あまりにもやる気がなく、再び昼寝を始めたバーランを眺めるのであった。