テイマーの弱点はテイマー本人。
この世界におけるスキルという概念は確かに強力だが、逆に言えばそれ以外のことに関しては平均以下程度にしかできない。
俺は毎日鍛えているが、剣士のスキルを持った同年内の子供とチャンバラをやったら間違いなく負けるだろう。
例えその子供が全く鍛えて居なくともだ。
シルやスーちゃんから強制的に離されてしまった場合、時間を稼ぐだけの術をみにつけるか、もしくは俺と絶対に離れないような魔物が必要不可欠。
完璧に対策するならば、体内に魔物を取り込むとかそういう事を考えなければならない。
ワンチャン人間を辞めることになりそう。
まぁ、暫くはそんな都合のいい魔物と出会えるとは思えない。
自分自身が強くなる事にデメリットがある訳でもないので、コツコツとトレーニングに励むとしよう。
そんな事を思いながら翌日。
俺は自分のメイン武器であるデスサイズの強化をする事となった。
「暫くシルを抱っこしてたから、抱き枕替わりにされるのはちょっと違和感あったね」
「普段ジニス様が私を抱きしめながら寝る理由がよく分かりましたよ?寝ている時のジニス様はとても可愛らしかったです。いい匂いがしますし........小さくて可愛らしいですし........本当に男性ですか?」
「失礼な。俺は男だよ。ほら、幼い時は男らしさがないだけで、もっと成長したらきっと凄いから」
「ふふっ、期待しておきますね」
子供の時と言うのは、どうしても幼さが残る。
体の発達をしきっていないから、その人によっては女の子にしか見えない場合もあるのだ。
ほら、いたでしょ?小学生の頃とか、“こいつ絶対女装似合うよな”って男子。
どうやら俺はそのタイプだったらしく、とても中性的な顔立ちをしている。
が、それは子供に許された特権。大きくなれば自然と男らしさを取り戻すのだ。
「して、今日はデスサイズを強化するのだったな?」
「うん。もう一度ビッグスライムを作って、デスサイズに合成するつもり。でも、デスサイズがそれを望んでいるのかどうかが分からないんだよね........意思の疎通ができないから」
言葉が分からずとも、ポヨポヨとスライムのように感情を表してくれればある程度の事は分かる。
が、デスサイズはそもそも自分で動けない。
魔武器と呼ばれる存在であり、一種の魔物なのは間違いないのだが、この意思の疎通が取れないの言うのは少しばかり不便であった。
出来れば、デスサイズともお話したいのに。
折角拾ったのだ。そして生きているのだ。
何を感じて何を思っているのか。それを知りたいと思うのは、使用者として自然な流れである。
「口とか付かないかな?」
「さすがにそれは厳しいかと........精々念話をするのが精一杯だと思いますよ」
「念話........って頭の中だけで会話出来るやつだよね?1部の魔物が持っているって言う」
「はい。魔武器は念話ができる個体が多く確認されているらしいので、もしかしたら話せるかもしれません。まぁ、ジニス様が読んでいた本から得た情報なので、既にご存知だかとは思いますが」
「ハッハッハ。スライムも似たような会話方法を使うな。念話では無いが、感情や意思表示位はできる」
念話。言葉を口にせずに頭の中で会話する方法。
すごく端的に言えば、“察して!!”である。
........ごめん、ちょっと違うかも。
どちらかと言えば、“こいつ、脳内に直接!!”の方が近いか。
どちらにせよ、頭の中で会話ができることを指し、言葉を話す器官をもたない魔物が使用することが多いとされている。
魔武器なんかもその例に漏れず、念話が使える個体が多いそうだ。
「デスサイズ、頑張って念話が使えるようになってくれないかな?」
「大きく成長すれば使えるようになるでしょう。まだこの子は綺麗な稲刈り鎌ですからね........」
片手サイズだからね。しょうがないね。
見つけた時よりは綺麗になったし、切れるようになったが、大きさは変わらず。
ここからさらなる進化を遂げるには、それ相応の素材が必要になるだろう。
素材と言う言い方は悪いが、それ以外にいい言葉が見つからない。
ごめんねスライムちゃん達。
「じゃ、始めようか」
「うむ。我は適当にゴブリンでも追い立てるかの。経験が必要なのだしな」
「私はジニス様のお側に。護衛として着いておきましょう」
「お願いね2人とも」
そんなわけで合成開始。
スライム達に確認をとり、合成していいのかを聞いてから合成を繰り返していく。
そうして出来上がったのは、ビッグスライム。
もうこれで作るのは四度目。流石に合成ルートを把握してきたな。
(ポヨン!!)
「2時間ぐらいで行けたね。スライム集めをしなくて良くなったから、本当に楽だよ」
「スーちゃん様々ですね」
ビッグスライム完成。
俺は少しだけ休憩しつつ、ビッグスライムと遊ぶ。
スーちゃんはポヨンポヨンで気持ちがいいが、この子は少し固めで弾力が強めかな?
跳ねて遊ぶには結構楽しい。ビッグスライムを俺をポヨポヨさせるのが楽しくなってきたのか、途中からノリノリであった。
途中、それで俺を落としかけて、シルに2人して怒られたが。
完全にお母さんである。
「ビッグスライム、合成していいかい?」
(ポヨン!!)
休憩も終わり、再び合成の時間がやってくる。
俺はビッグスライムに最後の確認を取ると、ビッグスライムは快く縦に揺れた。
本当にスライムは自分達の合成に躊躇いがない。助かってはいるが、1人ぐらい拒否する子がいてもおかしくないのに。
もちろん、拒否する子がいたら俺はその子は合成せずに一緒に家族として迎え入れるつもりである。
別に強くなったり姿かたちを無理に変える必要はないのだ。俺はただ、一緒に遊んで旅してくれる仲間が欲しいだけなのである。
その結果、魔王が生まれたけど........
大丈夫だよな?本当に勇者が出てきて討伐されたりしないよな?
実は少し不安だったりする。
「デスサイズもいいかい?」
「........」
デスサイズは何も答えない。当たり前だ。念話も意思表示もできないのだから。
もし、嫌がっていたとしても分からない。大きくなって意思の疎通が取れるようになったその時、嫌だったならば言ってくれ。その時はちゃんと罰を受けるとしよう。
「それじゃ、合成!!」
デスサイズとビッグスライムを合成する。
どんな子が生まれるのかワクワクしながら待っていると、光が一気に輝き、姿を現す。
「おぉ、大きくなったな。これならば鎌と言っても問題ないだろう。どちらかと言えば、農業に使われる鎌だとは思うが」
「草刈りに使われる鎌ですかね?どちらにせよ、大きくなった事は喜ばしいことです。デスサイズから伝わる存在感もかなり大きくなっていますしね」
「おぉ!!おっきくなった!!」
光の中から現れたデスサイズはとても大きくなっていた。
鎌の刃の部分だけで1m近くはある。そして、持ち手の部分も長くなり、正しく鎌と呼ぶにふさわしくなったと言えるだろう。
片手鎌から両手鎌に変わったのだ。
これだけでも感動ものである。
でも大きくなりすぎかな。既に持ち手の部分だけで俺ぐらいデカイんだけど。
今後、これを振り回さなきゃ行けないってマジ?俺に扱えるかな........
「デスサイズ、話せる?」
「........」
しかし、デスサイズは話さない。残念ながら念話はまだ覚えていないように見えた。
その代わりに、デスサイズがカタッと動く。
「動いた」
「動いたな」
「動きましたね」
どうやらデスサイズは、少しだけ動けるようになったらしい。