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シルキー強し


ミニシルキーと言う可愛らしい少女から、シルキーに進化したシル。


その見た目はシルが成長したらこんな感じなんだろうなと簡単に想像できるぐらいには、シルのままであった。


スライムを合成してもスライムらしさがどこにもない。


ここは謎だよな。スライムを合成したら、スライムらしい所が現れても不思議では無いのに。


もしかしたら、どちらの姿になるのかお互いに本能で理解しているのかもしれない。


まぁ、どんな姿になろうが、俺とお話して一緒に遊んでくれるなら見た目は割とどうでもいい。


長い間スーちゃんと話し続けてきた弊害か、俺は人間よりも魔物の方が話しやすいしね。


「ジニス様よりも大きくなってしまいましたね」

「身長抜かれて悲しいよ。でも、それ以上にシルが大きくなってくれて嬉しいよ」

「ハッハッハ。人間の成長は緩やかだからな。合成でもしない限り、こんな急激に大きくなることはあるまい」

「魔物は急激に大きくなったりするの?」

「魔物も基本は人間と同じだが、種族によると聞くな」

「そもそも生まれた時点で大きな種族とか居ますしね」


合成して急に大きくなるのだから、緩やかな成長を続ける人間と比べてはダメか。


それは当たり前だな。


大きくなったシルは、大体15歳ほどの人間と同じ大きさ。


いつの間にかメガネをかけており、ミニシルキーの頃から一気にお淑やかな感じになっている。


見た目だけの偏見だが、滅茶苦茶勉強できそう。


そして、体が大きくなったことに伴い、服装も変化した。


小さい頃はフリフリな感じのメイド服だったが、今では落ち着きのある黒と白のメイド服である。


ちなみに、スカートは足元がギリギリ見えないぐらいに長い。


ミニスカメイドを期待した人、素直に手を挙げなさい。先生、怒らないから。


「どう?自分の体は」

「とても動きやすいです。そして、今までの子達の経験の記憶が全て混在しています。少し頭の整理が必要そうです」

「今日は特にやることもないし、ゆっくりしようよ。スーちゃん、頭の上に乗せて」

「了解した」


スーちゃんにお願いすると、スーちゃんは快く俺を頭の上に乗せてくれる。


これ、はるか古代のスーちゃんを知っている人から見たら、滅茶苦茶ビビる光景だよな。


はるか古代では、スーちゃんは魔王であった。


当然、数多くの人類をこのしてきただろうし、恐怖の象徴として語られてきたはず。


頭の上にポンと人間の子供を乗せた上に、分身体まで作って“抱っこして!!”とねだってくるとは思いもしないだろう。


当時の人が見たら、目を疑うんだろうな。


かの魔王が、人間の子供にこんなにも優しく、そして甘えるだなんて。


「この調子でデスサイズも大きくしたいね」

「ならば、合成するか?まだスライム達は多くいるぞ」

「そうしたいのは山々なんだけど、魔力がね........シルを合成した時点でカツカツなんだ」


分身体を抱っこしてもらえて嬉しいのか、ポヨポヨ揺れながら話すスーちゃん。


スキルは必ずと言っていいほど魔力を消費する。


俺のスキルも当然魔力を消費し、場合によってはとんでもない量を持っていかれるのだ。


特にやばかったのが、スーちゃんとスラくんを合成して魔王を作った時。


どうやら、合成する魔物の強さが強いほど、消費魔力は大きいらしい。


スライム達を合成させまくって、魔力を消費し、更にそこからシルの合成までやったので、俺の魔力はゼロに等しい。


魔力は時間経過で回復する。


明日までデスサイズの強化はお預けかな。


「明日やろうか。別に急ぎって訳でもないし」

「ハッハッハ。そうだな。そっちの方がいいか」


まだ冒険者になるには時間がある。戦闘訓練とかその辺もコツコツやっていかないとな。


今のところ、弱めのゴブリン相手に奇襲をしかけて勝つことは出来ている。


しかし、子供と言うこともあって、まだ身体が出来上がっておらず力が足りない。


一撃でゴブリンを殺しきれずに、スーちゃんに助けてもらう事も多々あった。


それでも成長した方なんだけどね。


平和ボケした国なんて言われるほどに平和な国日本で言われ育った俺が、今となってはちゃんと生物を自らの手で殺す重みと意味を理解し戦えているのだから。


それだけでもすごい成長ではある。


問題は、俺自身が弱すぎる事だが。


そんなことを思いつつ、シルが自分を整理するのを待っていると、ガサガサと木の葉が揺れる。


ゴブリンだ。


迷子になったのか、それともこのメンツを見ても勝てると言うとんでも思考に陥ったのか、どちらにせよゴブリンがすぐそこにいる。


「ここから奇襲を仕掛けて勝てるかな?」

「ふむ。ジニスは力がまだ弱い。少し難しいかもしれんな」

「ジニス様。私にお任せ下さい」

「シル、もう大丈夫なの?」

「はい。彼らの意思は引き継ぎ、私の中で生きていますから」


一気に流れ込んできた数々の経験と記憶に整理をつけたのか、シルがいつもの感じで佇む。


なら、シルキーとなったシルの力を見せてもらうとしよう。


折角強くなったんだから、そりゃ見たいよね。シルの実力。


「任せたよシル。なんかこう、いい感じにやっちゃって」

「随分と適当な要望ですが、了解いたしました........これでいいですかね?」


パチンとシルが指を鳴らしたその瞬間。


その手にはゴブリンの頭が握られていた。


........????


え?ん?


何が起きたんだ今の。


あまりにも一瞬すぎる出来事に、困惑するしかない俺。


スーちゃんも驚いているのか、ぷるぷると小刻みに揺れていた。


「えーと、何が起きたの?」

「私は空間魔法が使えることはご存知ですよね?」

「知ってるよ。空間を捻じ曲げてゴブリンを倒してたね」

「ゴブリンの頭だけを転移させて、首を取りました」


........???


何を言っているんだシルは。


転移魔法って異世界系の中では定番ではあるが、大抵最強魔法として使われる。


そもそもだ。空間に干渉するなんて事は、現代地球で生きてきた俺には想像ができない。


空間をねじまげていた時点でヤベーなとは思っていたが、ついに転移までできるようになってしまったとは........


あれ、シル滅茶苦茶強くね?


「スーちゃん、シルが強くなりすぎた」

「ハッハッハ。我も同じことをやれと言われても出来んな。頼もしいでは無いか」

「ちなみに言っておきますが、スーちゃんと私が本気で戦えばスーちゃんが勝ちますよ」

「そうなの?」

「魔王と、ちょっと強い程度の魔物、どちらが強いと思います?」

「魔王かな」

「そういう事です」


スーちゃんも規格外という訳か。いや、それは最初から分かってたけれども。


「俺だけ滅茶苦茶弱いね?」

「その力を引き出したのはジニスだぞ?そう考えれば、ジニスこそが最強だ」

「合成されなければ、私はそもそもピクシーのままでしたでしょうしね。ジニス様の力があってこそなのですよ。つまり、スーちゃんも私も、ジニス様のお力の一つなのです」


いや違います。それは君達の力です。


だって俺1人だけだったら、ゴブリン相手にも苦戦するからね。


ゴブリン、普通に強いからね。ザコ敵としてよく登場する癖に、思っていた以上に強いからね。


テイマーの弱点はテイマー本人。


俺が孤立させられるような事態は絶対に避けなければ。


孤立したとしても、最低限耐えられるだけの力が必要だな。


........今からちょっと筋トレするか。


俺は、自分の弱さに改めて気が付き、毎日のトレーニング量を少しだけ増やすのであった。


無理はダメだからね。一気に増やすと体が壊れちゃう。

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