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12 溺れそう【想side】※R15



「はあ、はあ、なんやねんあのエロ大魔神」


 ファーストキスではないけれど、そんなことほとんど経験したことない俺は、赤くなった頬を抑えながら長い廊下を歩いていた。


 (てか、キッチンどこやねんろ?)


 部屋から飛び出したはいいんやけど、この広すぎる洋館で案の定ひとり迷子になってた。


    (どうしよか……今更戻るんもな……)


 途方に暮れた俺の後ろから、聞いたことがある声がする。


「ふふふ、想? キッチンはこっちだよ」

「うぁっ! な、夏目さん?」

「迷子になるんじゃないかと思って、付いてきて正解だったみたいだね」

「うぐっ」


 その通り過ぎてなんも言えない。まさか大人になって迷子になるなんて。

 でも、助かったわ。


 こうして無事、夏目さんにキッチンまで連れてきて貰って一安心したけど、道中改めてじっくりとこの屋敷の中を見たら、この家想像以上にめちゃめちゃ広い!

 プールとか、温泉とかもありそうなぐらいやし、あっても不思議ちゃう。


「あるよ?」

「えっ?」

「さっきからずっと声に出てたから?」

「っ、言ってや」

「ふふふ、想は可愛いね」


(……うわぁ、恥ずっ)


 この恥ずかしい気持ちを隠したいし、誤魔化すためにも話題を変えて、夏目さんにさっきから聞きたかった事を聞いてみる。


「な、な、夏目さんはここに住んでるん?」

「あー俺と多部はね、この敷地内に建てられている家に住んでるよ」

「えっ?」

「ちょうどその窓から見えるよ」

「え、うわ……凄っ!」


 窓から見えたのは、庭の少し先を進んだとこにある二つの二階建ての家……と言うより屋敷やった。

「ふふふ、まあ表向きは大企業の幹部だからね? 俺達もそれなりに稼いでるよ」


(そうやんな〜きっと皆にしたら俺の借金なんて、はした金なんやろな……何かちょっとむなしい)


「あ、そうだ、今日この後一緒に想のお店に行っていい? 俺も想の淹れたコーヒー飲んでみたいなって思ってたんだ」

「えっ……」

「店なら流石に一杯五十万じゃないだろうしね」

「当たり前やん」

「ふふふ、よかった~」


 何かさ、多部ちゃんも夏目さんもやけどホンマに自然に優しいんよな~。正直この二人が何でこんな仕事してるんかわからへんけど……きっと事情があるんかな? そうに違いない! なんて考えているうちに目的地に着いたみたい。


「はい、想、着いたよ。後は使い方わかるよね?」

「うん、ありがとう。夏目さんここまでなん?」

「ちょっと用事があるから、ごめんね。想が後で店に行く時はご一緒するよ」

「うん、わかった。ほなまた後で」

「あ、早くしないと待ち切れない連夜がくるかもよ? ……ふふふ」


 (はあ?  いやいや、待って!)


 恐ろしい事を言い捨てて夏目さんは去って行ったけど、とりあえず急ぐに越したことはない!


 さっきのキスがなかなか頭から離れへんけれど、俺はとにかく忘れるべくコーヒーを淹れることに専念した。




ー コポコポコポ…… ー



 キッチンにコーヒーの香りが立ち込める。

 目の前のカップを見つめ、飲む人の喜ぶ顔を想像しながらゆっくりとお湯を落としていく。


 俺の大好きなひとときの幸せな時間。



 ◇◇◇◇


 コーヒーを淹れ終って、キッチンの時計を見て驚いた。迷っていたのもあって、予定より随分遅くなっている。


 (怒ってたらどうしよ……)



 ― コンコン -



 俺は恐る恐る部屋のドアをノックして、お盆に乗せたコーヒーと共に部屋を開け、中に入った。



「想、待ってたよ」

「遅くなってごめん、なさい……」

「はは、いいよ。いい匂いだ」

「うん」

「一緒にお茶しよっか?」


 連夜さんはそう言いながら微笑むと、夏目さんが焼いてくれたというクッキーを持ってきて、ソファに腰掛けた。


 ― ゴクッ -



「ん、美味い」

「 ホンマ?」

「ああ、昨日も思ったけど、想の淹れるコーヒーはやっぱり美味いな」

「あ、ありがとう……」

「想も座れば?」

「うん」


 連夜さんに促され、俺も高そうなソファに腰を下ろす。美味しそうにコーヒーを飲む姿を真正面から直視すると、ドキッと心臓が跳ね上がる。


 (あかん、イケメン過ぎて見られへん)


 しかも、何でこんなに甘い雰囲気やねん。

 無駄にあのエロ大魔神がイケメンなんがわるい!


 心の中で唱えながらうつむく俺に笑いながら連夜さんは近付くと、あごを持ち上げ、またしても チュッと、ほのかにコーヒーの味がするキスをしてきた。


「んっ、や……待って」

「ん、待たない」

「……はぁっ」


 連夜さんの舌でペロリと唇を舐められ、チュッチュッっと何度もキスをされ、隙をみて唇を割ってきた舌が俺を絡め取り、深いキスに変わる。


「んぁ、やぁ、ぁっ」

「っ……はぁ、可愛い」

「ん……やめ」

「想……もっと?」

「んっぁ、むっ、り……」


 いつの間にか隣に座ってる連夜さんに色々な角度で口付けをされる。


 部屋中に俺の甘い声と水音が響き、気持ちよさや酸欠もあって頭がクラクラしてくる。


(あかんっ……このキス、気持ちよ過ぎる)


 ここ数年は誰かとキスなんかする暇なんて無かったし、こんなキス知らん。


(溺れてしまう……)


「チュッ……やらぁ……れんやさんもう、やめて……」


 ジワジワと下半身に熱を感じてきた俺は怖くなり、泣きながらポカポカと胸を叩く。


 唇を少し外された際、俺は連夜さんの肩を力いっぱい押すと、ハァハァと肩で息をしなあかんくらいに酸欠になっていた。


「っ……エッロ……」


 セクシーな声でそう言うと、ニ人の唾液で濡れた唇をペロリと舐め、連夜さんはまたしても唇を俺に近付ける。


(このままじゃヤバい!)


 近付いて来るイケメンエロ大魔神を必死でガードして抵抗してた時やった、、、



 - コンコン -



「失礼します。あ、失礼しました」


 ドアをノックして開け、中を見てすぐ閉めようとする夏目さんに必死で訴える。


「な、な、夏目さん! いかんといて~」


 俺はなんとか体を起こして、夏目さんの方に逃げる。


「……チッ!」


 えっ今、後ろからすんごい舌打ち聞こえたけど? まあとにかく助かったみたいや!


 夏目さんの方に逃げると、何故か連夜さんも一緒に立ち上がり、髪をかき上げながら夏目さんの方に歩き出す。


(こころなしか、空気がヒンヤリするんやけど)


 てか、何で髪をかき上げる仕草もイケメンやねん! し、しかもさっきまであの唇で……


(うわぁああ! な、なに考えてんねん俺は!)


 頬に熱を感じながら、連夜さんを見んようにして夏目さんに問いかけた。


「な、夏目さん、どうしたん?」

「えっ、あ、そろそろ店に行くかなと思って、迎えに……(連夜に殺されそう)」

「えっ?! ホンマ? めっちゃ嬉しい」

 さっきの約束を守って来てくれた事に喜びを噛み締める。


(絶対美味しいコーヒー淹れるで〜!)


 でも、行っていいか連夜さんに確認しないといけないので、仕方ないけど連夜さんに近付き、見上げながら尋ねてみる。


「……いっていい?」

「……っ」

「?」

「っ……いいよ」

「ほ、ホンマに? ありがとう!」


「な、夏目さん早く行こ」

「……」

「ちょっ想、腕っ!(本格的に殺される)」

「じゃあ、連夜さん店行ってくる」

「……ああ」


  こうしてここから一刻も早く抜け出すべく、夏目さんの腕を引っ張りながら、この部屋を後にした。





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