あまりにも可愛かったから、勢いでキスをしてしまったが、何だあれ?
反応が……
あんな姿を見てしまったら可愛いキスでは飽き足らず、今から追ってもっとしたくなったが、流石に理性を保ち仕方なくここに座っている。
自分はかなり淡白な方だと思っていたけれど、それは思い込みだったかもしれない。
正直今までは男女問わず相手に不足したことはないが、想だけは何としてもこの手の中に入れたくなっている。
触りたいし、鳴かせたい。
この気持ちは簡単な言葉ではいい表せないけれど、それほど想に執着しているのは明らかだった。
「多部ちゃん、この契約書を金庫の中に入れておいてくれたら、今日はもう休んでいいよ。お疲れ様、ありがとう」
「えっ……う、うん」
そう伝えると微妙な顔をしてる多部ちゃんだったが、『お疲れ様でした』と言うと部屋から出ていった。
こうしてしばらく想を待っていたが、一向に来る気配がない。
夏目さんが心配して、追いかけて行ったけれどそれにしても遅い。キッチンにコーヒーを淹れに行ってるだけのはず。
迷子になった? ははは、まさかね。
いくらなんでも想は大人だから迷子になるなんてあるわけ無いのに、一目その姿を見たくなった俺は待ちきれず、とりあえずキッチンに向かってみる事にした。
ーーーー
「っ……//」
扉の隙間からキッチンの中で見つけたは、愛おしそうにコーヒーをゆっくり抽出してる想の姿だった。
その姿を見た途端、なぜか声をかけるのも
(やばい、何だあの表情は)
あれは、俺のことを考えながら淹れているのだろうか。
(絶対そうだよな?)
とても嬉しそうに、愛おしそうに淹れる相手のことを想いながらカップに注ぐその姿に目が離せなかった。
でもちょっと待てよ、店でも沢山の人にそんな甘い顔を見せつけてるのか?
(見せつけてるよな? 許さねぇ)
マジで今から想の店に通う全員の客の目潰してやろうかと思うんだけど。
「チッ……」
こんな事なら店で働いていいと契約書に書くんじゃなかった。
でも、今更働いたら駄目だという契約書に書き変えたら、きっと想に泣かれるだろうな。
「はぁ…」
俺は自身の甘さにイラつきながらさっきの応接室に戻り、想を待つ事にした。
◇◇◇◇
― コンコン -
「想、待ってたよ」
「遅くなってごめん、なさい……」
コーヒーを持ちながら入ってくる想を見ると、さっきまでイライラしていた気持ちもすっかり消え去り、自分の為に淹れたコーヒーなのだと思うと何故か心が温かくなった。
「はは、いいよ。一緒にお茶しよっか?」
たしか夏目さんが焼いてくれたとクッキーがあったはずだと、俺は書斎の引き出しを開ける。
甘いもとトマトは苦手だが、何故か夏目さんのクッキーだけは不快を感じず口に入れられた。
「いただくか」
― ゴクッ -
「ん、美味い」
「 ホンマ?」
「ああ、昨日も思ったけど、想の淹れるコーヒーはやっぱり美味いな」
「あ、ありがとう……」
これは本心から言っている。今まで美味いコーヒーには幾度となく出会ってきたが、想の淹れるコーヒーは本当に美味い。
これだけでも価値があると思うし、店に常連達が通うのはわかる。
ただ、多部ちゃんからは中にはコーヒーじゃなく、想に邪な思いを抱いてる人間もいると聞くが……そいつらは早々に出禁にするか、抹殺しなければならない。
でも今は、想の可愛さに溺れていたかった。
恥ずかしそうにうつむく想の顎を持ち上げ、チュッとキスをすると、甘い声がする。
「…んっ、やだ……待って」
「待たない」
キスに慣れていないのか、俺の舌に翻弄されあまりにも可愛い反応に理性も崩れ落ちそうになる。
うまく息継ぎができないのか、高揚して涙を浮かべているその姿は非常に“くる”ものがあった。
想の唇は甘すぎた……
そしてエロ過ぎる……
久々に下半身に熱を感じながら、この後ベッドへ行こうと思ったのに……思わぬ邪魔が入った。
(チッ)
夏目さんはやばいと感じたようだが、想は俺の手から逃れていく。
(夏目さんを半殺しにしよう)
そう思っていたら、まさかの想から可愛すぎるお願い。
あれは反則だろ?
狙ってやっいてたら、とんだ小悪魔だ。
「……いっていい?」
店に行く事だと気付いたのは数秒してからで、思わず動揺して了承したが、そんなセリフはベッドで言わせたい。
覚悟しろよ?
想に腕を引かれた夏目さんには、後でたっぷり仕事を押し付けることに決め、俺も想の店に行くべく今日の仕事を早急に終わらすことを誓った。