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16 魅了 【連夜side】


 本当に想は悪い男だ。


 俺以外の誰にでも、ふらふらと可愛い顔を見せる。

 ただでさえ働く事を了承した事を後悔してるのに……夏目さんから報告があった内容にもイラ立ちを隠せない。


 あの後こっそりと部下に見張らせてみれば、常連らしき客の中には明らかに想を狙っているだろうという男や女がゴロゴロいた。

 しかし、本人は全く気付いていないようで誰にでもあの笑顔をふりまいている。


(なあ、全員殺っていい? バレないように出来るし)


 とりあえず店内に監視カメラを付けることを早急に手配し、閉店後取り付けるように部下へ指示を出した。

 こんなにも心配事が増えるのなら、あの時想が泣いても店を潰せばよかったと何度も思っているが、余裕を見せた大人な対応を今更覆くつがえすなんて俺のプライドが許さない。


 そんな事ばかりを考えながら仕事していると、いつの間にか夕方になっていて店の閉店時間がギリギリになっているのに気付き、急いで運転手に想の店まで連れていくように伝えた。



◇◇◇◇


  「あ、すみませんもう終わりなんです」


 先程までのイライラする気持ちも何処かに吹っ飛び、その顔を見たら心は嘘みたいにスッキリしている。


(これは……もう恋? 愛? いや独占欲や執着に近いのか?)


 とにかくこんな感情を誰かに抱くなんて……


 初めてだった。


 俺は想という人間に、惹かれ始めていた。


 このままゆっくり距離を詰めるのがいいのか……いや、欲しいものは全て手に入れてきた俺が我慢するなんて自分らしくないと感じながら今夜の事を考えていた。


(今夜、想を抱こう……互いに気持ちも大事だがまず身体からもらうか……契約書もあることだし断われないだろ? ふふふ、楽しくなりそうだ)


 こうして早速連れて帰ろうとした時、櫂から連絡が来た。

 内心舌打ちをしながらその内容を見ると「今すぐ想を櫂の所に連れて来ないと家に今日行くから」っという脅し付きで。


「はあ……仕方ねーな」 


 今夜は想をゆっくり堪能したい一心で、櫂の所に連れて行ったけど、案の定櫂に気に入られた想は少し目を離した隙に抱きしめられていた。櫂が気に入るなんてよっぽどなのに、初対面でいとも簡単に好かれる想を見て苛立つ。


(どこまで人たらしなんだ。でも、俺達兄弟の血は争えないな? 好みのタイプまで似るなんて……でも誰にも渡す気はない)


 櫂は俺のことなんて気にすることなく想を抱きしめてるし、電話口では辰巳さんと輝久さんに想を無理やり囲ったことを怒られて散々だった。


 こうなったら一日フラフラ他の男に笑顔を向けたお仕置きに……と帰りの車内でたまらず噛みつくようなキスをしたら、必死で応える想が可愛すぎた。


(あーこのままベッドに行きたいけど……最初だしね? 準備の時間あげるか)


 つくづく想には甘いな。


「ふふ……もっとキスしてたかった?」

「……っちゃう、わ」


 名残り惜しそうな唇を解放してあげると、想は真っ赤になりながら必死で俺を押して身体を離そうとする。


(もう我慢なんかいらないんじゃ?)


 先ほど自分の決めた事を早々に破ってしまいそうになり、がっついている自分に苦笑いした。




 家路までこんなに待ち遠しく感じるのは一体いつ以来だろう。





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