私、オルタナ・リンドバーグはお世辞にもいい性格とは言えなかった。
公爵家という王国で最も爵位の高い貴族に生まれ、両親からは花や蝶のように育てられた私は、何をするにしても褒められ自分が一番だと思っていた。
媚を売ってくる貴族達の言葉を鵜呑みにして思い上がり、使用人たちをわがままで困らせ、友人候補として両親が屋敷に招待してきた、他の令嬢たちを見下し嫌味や嫌がらせばかりしては文句を言えない彼女たちを見て優越感に浸っていた。
そして、そんな私はこの国の第二王子であるセシル様に恋をした。
幼いながらの凛々しい顔つきに表情をあまり表に出さない姿は優しさが溢れるアルフレッド様とはまた違う魅力があった。
公爵令嬢の私なら身分的にも相応しく、お父様に言えば婚約してもらえると思っていた。
……しかし、意外にもその願いは叶わずセシル王子は私ではなく、ランドルフの令嬢、マリア・ランドルフと婚約した。
ランドルフ家は古くから王家の腹心として仕えていたこともあり、伯爵家ながら国王からの信頼も厚い。だけど、それだけの理由で私より伯爵令嬢のマリアが選ばれたのが悔しかった。
私は自分を出し抜いた令嬢の顔を一目見てやろうと、一切関りのなかったマリアを強引にお茶会へと招待した。
そして彼女を見た瞬間、わたしは初めて自分が負けたと思った。
その容姿から立ち振る舞いまでが、まさに理想の
それは今まで自分が一番だと信じてきた私を否定された気分になり、私はお茶会に来た他の子達に八つ当たりをした。
だけどその度にマリアがフォローに入り、その場の空気を取り持った、そして気が付けば皆が彼女の周りを囲み、私が主催のお茶会なのに私だけがのけ者にされた状態になっていた。
私は悔しさをぶつけるように彼女の顔にも飲み物をかけた。
その反応を見て私は盛大に笑ってやろうと思っていたが、彼女は怒ることも泣くこともせず、濡れた顔を拭かないまま、ただジッと私を見つめていた。
何もかも見透かされるようなその瞳に耐えられなくなった私は、その瞳からつい目をそらすと、彼女が口を開いた。
「今の気持ちはどうですか?」
「え?」
「楽しいですか?嬉しいですか?面白かったですか?」
怒りでも哀れみでもない、優しさを感じさせる口調で尋ねられた私は言葉を詰まらせた。
いつもは楽しいと思ってやっていたが、こうしていざ考えてみると、別に楽しいと感じなかったからだ。
「……いいえ」
そう答えると彼女はニコリと笑った。
「なら良かったです、それはオルタナ様自身が今の行動を間違っていると感じている証拠ですから。では、正解を探しませんか?」
「正解?」
「そうです、オルタナ様が楽しく笑えるような事です、きっとそれはここにいる皆が笑えることに繋がりますよ。」
気が付けば私は差し伸べられた手を取り、彼女が作った輪の中に入っていた。
今まで酷いことをしていた子達とも普通に会話をする、特別な事なんて何もない。
それなのに今までしてきたどんなことよりも楽しい時間だった。
そんな中、私は隣にいるマリアを見て思った。
私はこの子には絶対叶わない、だけどそれを悔しいとも思っていない、初めて一番じゃなくていいと思えた。
それと同時に一番になりたいとも思った。彼女の中の一番に、そう思ったら今のままじゃいけないと思った。
私はその日の帰り際、今まで酷いことをしてきた子達に謝り、そしてマリアに友達になってほしいと頼んだ。
別に変なことを言ってるわけでもないのに、何故か無性に恥ずかしくて、言った後はその場から逃げ出したくなった。
でもマリアはそんな私の手を握って凄く素敵な笑顔で頷いてくれた。
その日以来、マリアは私の一番の友達だ。
だからこそ……
「何なのよ!この記事はー!」
今朝、私専属のメイド、リーナから渡されたゴシップ記事を床に投げつける、そこにはマリアの事が書かれており、内容『はランドルフ家の天使は汚物にご執心』などと訳の分からない記事だった。
「欠点のないマリアを貶めれば読まれるからってでっちあげて、許せない!これはマリアの一番の友達として抗議するべきだわ。」
「ええそうですね、ですがその前に一つ。」
「何よ?」
「果たしてこれは本当に嘘なのでしょうか?」
「は?」
リーナの言葉に思わず眉をしかめる。
「どういう意味よ?」
「……実は私も気になって、ランドルフ家で働く友人に手紙で尋ねてみたのですが、何故か帰って来た手紙がこれなんです。」
「……何この手紙」
そう言って手紙を開けると中には『……』としか書かれていなかった、こんな変な手紙を返すなんて、送り主はきっとアンナね、彼女の専属メイドの彼女が否定しないなら信憑性が高くなってくる。
「私、マリアのところへ行くわ。」
「連絡はしてあるのですが?」
「フン、私を誰だと思っているの?マリアの一番の友達よ?彼女の事なら誰よりも知っているわ。だからわかる、彼女ならきっと連絡なしでも許してくれるって!」
「流石お嬢様、マリア様の優しさに全力で甘えるその姿、まさに巷で流行りの悪役令嬢ですね。」
「フッありがとう。」
褒められているのかわからないけど、とりあえずお礼を言っておいた。