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第5話 宮部side

 コンビニに入ったから話題が変わってしまったけど、さっきの翔の発言は何? かわいすぎじゃない?

 目があったのは今までもあったし、俺はいつも翔を見てる。

 今日に限って、「集中できなかった」「気になって」なんて、意識してくれてるってことじゃん。

 というか、意識してます! って俺に言ってるようなもんじゃない? ねぇ。

 それに気づいてないあたりがまた……たまらない。

「また、今度……ご飯作って」

「えっ、あ、うん、ふふ」

 アイスを探しながら俺の顔を見ずに言った翔は、耳が赤くなっていた。


 ◇

「一緒にタクシーで割り勘?」

「そうだね、それか……翔がよければちょっと散歩しない?」

「おう、じゃ、アイス食う」

 コンビニから出て、近くの公園の方に向かって歩き始める。

「あ、あのさ……」

 首をさすりながら言いにくそうに口を開いた。

「セイ様、いつからおれのこと?」

 なんでセイ様呼びなんだろう。二人の時はいつも聖なのに。

「俺の……」

 本当のこと言ったら引くかな……

「ん?」

「俺の初恋、です」

「へ、へぇ〜、ソウナンダ」

「ふふ、ごめんね?」

「なんで謝んだよ、悪いことじゃねーだろ」

 公園に着くと、翔はブランコに座った。俺もその隣のブランコに座る。

「あれ? でも彼女いたよな?」

「んー……諦めようと頑張ってみた。無理だったけど」

 相手の子に失礼だったよね〜と笑うと、無理して笑うなよとそっぽ向きながら言ってくれる。

「何してても、翔なんだよ」

「はぇ?」

「思い浮かぶのは全部翔」

「それって、、、」

 ちょっと空を仰いで、考えてから、もう一度口を開く。

「つらくねーの?」

 俺が言うことじゃないかもだけど、と付け足す。

「つらい時期もあった」

「だよね」

「でも今はつらくないよ」

「え、なんで?」

 目をまんまるくして、本気で不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる。

「……翔の近くにいられるから」

 さすがに好きな人に見つめられながら言うのは照れる。手の甲で口元を隠しながら言った。

 俺が恥ずかしがってるのがうつったのか、俺の言葉に照れたのか、翔は真っ赤になった。

「お前よくそんな恥ずかしいこと言えるな」

「言葉できちんと伝えないと、伝わらないからね」

「うぅ……」

「特に翔は」

「……ごめん、ずっと一緒にいたのに気づけなくて」

「言わなかったのは俺だし。俺はずるいよね」

「なんで? なにが?」

「黙って、隠して、そばにいようとして」

「本気で好きだったら仕方なくね?」

「え?」

「使えるもん全部使うだろ」

 やばい、泣きそう。好きな人に、翔に否定されないってこんなに嬉しいんだ。

「逆に避けたり、いなくなったりされる方が俺は嫌だな」

 翔はそう言ってから、少し間を置いてまた言葉を続けた。

「……自分は避けたりいなくなったりしそうだけど」

「あははっそうかも」

「俺、応えられるかわかんないけど、嫌だとは思ってないし、嫌いにもならないから」

「……えっ」

「だから、聖のつらくないようにして」

 アイスを食べ終えてゴミをまとめながら立ち上がり、俺と少し距離を取ってから、背中を向けたまま言った。

「辛くなっていなくなられたらヤダ」

 ずるいって。思わせぶりだよ、翔。

「いなくならないでとか言われると、余計辛いかも」

 涙目になってるなぁとわかりながら、顔を上げて翔を見る。すると、翔はかぶっていた帽子を俺に被せて、ツバをぐっと下にさげた。

「そんな顔すんな」

 帽子の上から優しくトントンと指先で叩かれた。

「ちゃんと考えてるから」

 帽子のせいで翔の顔は見えないけど、きっと綺麗な顔でちょっと赤くなって、そっぽ向いてるんだろうな。

 どんどん好きになってしまう。すごく触れたい。けど、事務所にも近いし、外だし、耐えないと。

 耐えきれなくて、翔のパーカーの裾を小さく握ると、一歩近づいてきて、頭を抱き寄せてくれた。

 翔のお腹あたりに頭を埋めた俺は、泣いてしまった恥ずかしさと、抱き寄せてくれた嬉しさで、離れることができなかった。

「ふっ……ばか」

 泣いてるのに、今きっとすごくいい笑顔なんだろうなと思った。

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