コンビニに入ったから話題が変わってしまったけど、さっきの翔の発言は何? かわいすぎじゃない?
目があったのは今までもあったし、俺はいつも翔を見てる。
今日に限って、「集中できなかった」「気になって」なんて、意識してくれてるってことじゃん。
というか、意識してます! って俺に言ってるようなもんじゃない? ねぇ。
それに気づいてないあたりがまた……たまらない。
「また、今度……ご飯作って」
「えっ、あ、うん、ふふ」
アイスを探しながら俺の顔を見ずに言った翔は、耳が赤くなっていた。
◇
「一緒にタクシーで割り勘?」
「そうだね、それか……翔がよければちょっと散歩しない?」
「おう、じゃ、アイス食う」
コンビニから出て、近くの公園の方に向かって歩き始める。
「あ、あのさ……」
首をさすりながら言いにくそうに口を開いた。
「セイ様、いつからおれのこと?」
なんでセイ様呼びなんだろう。二人の時はいつも聖なのに。
「俺の……」
本当のこと言ったら引くかな……
「ん?」
「俺の初恋、です」
「へ、へぇ〜、ソウナンダ」
「ふふ、ごめんね?」
「なんで謝んだよ、悪いことじゃねーだろ」
公園に着くと、翔はブランコに座った。俺もその隣のブランコに座る。
「あれ? でも彼女いたよな?」
「んー……諦めようと頑張ってみた。無理だったけど」
相手の子に失礼だったよね〜と笑うと、無理して笑うなよとそっぽ向きながら言ってくれる。
「何してても、翔なんだよ」
「はぇ?」
「思い浮かぶのは全部翔」
「それって、、、」
ちょっと空を仰いで、考えてから、もう一度口を開く。
「つらくねーの?」
俺が言うことじゃないかもだけど、と付け足す。
「つらい時期もあった」
「だよね」
「でも今はつらくないよ」
「え、なんで?」
目をまんまるくして、本気で不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「……翔の近くにいられるから」
さすがに好きな人に見つめられながら言うのは照れる。手の甲で口元を隠しながら言った。
俺が恥ずかしがってるのがうつったのか、俺の言葉に照れたのか、翔は真っ赤になった。
「お前よくそんな恥ずかしいこと言えるな」
「言葉できちんと伝えないと、伝わらないからね」
「うぅ……」
「特に翔は」
「……ごめん、ずっと一緒にいたのに気づけなくて」
「言わなかったのは俺だし。俺はずるいよね」
「なんで? なにが?」
「黙って、隠して、そばにいようとして」
「本気で好きだったら仕方なくね?」
「え?」
「使えるもん全部使うだろ」
やばい、泣きそう。好きな人に、翔に否定されないってこんなに嬉しいんだ。
「逆に避けたり、いなくなったりされる方が俺は嫌だな」
翔はそう言ってから、少し間を置いてまた言葉を続けた。
「……自分は避けたりいなくなったりしそうだけど」
「あははっそうかも」
「俺、応えられるかわかんないけど、嫌だとは思ってないし、嫌いにもならないから」
「……えっ」
「だから、聖のつらくないようにして」
アイスを食べ終えてゴミをまとめながら立ち上がり、俺と少し距離を取ってから、背中を向けたまま言った。
「辛くなっていなくなられたらヤダ」
ずるいって。思わせぶりだよ、翔。
「いなくならないでとか言われると、余計辛いかも」
涙目になってるなぁとわかりながら、顔を上げて翔を見る。すると、翔はかぶっていた帽子を俺に被せて、ツバをぐっと下にさげた。
「そんな顔すんな」
帽子の上から優しくトントンと指先で叩かれた。
「ちゃんと考えてるから」
帽子のせいで翔の顔は見えないけど、きっと綺麗な顔でちょっと赤くなって、そっぽ向いてるんだろうな。
どんどん好きになってしまう。すごく触れたい。けど、事務所にも近いし、外だし、耐えないと。
耐えきれなくて、翔のパーカーの裾を小さく握ると、一歩近づいてきて、頭を抱き寄せてくれた。
翔のお腹あたりに頭を埋めた俺は、泣いてしまった恥ずかしさと、抱き寄せてくれた嬉しさで、離れることができなかった。
「ふっ……ばか」
泣いてるのに、今きっとすごくいい笑顔なんだろうなと思った。