「おなしゃーす」
マネージャーの車に乗り込むと、聖が先に乗っていて、これからカイとリヒトが乗ってくるらしい。燈二は別の仕事から合流するらしい。
「翔、おはよう」
「おはよ、セイ様」
変な夢見たから、まともに顔見れねぇ。
ワゴンでよかった。前の右側に聖が座っていたので俺は二個後ろに座ることにした。
「あ、翔くんセイ様、おはよう。マネさんお願いします」
「おはよう」
「はよー」
よかった、すぐ乗ってきて。
すぐリヒトも合流するし、問題なさそうだ。
「え、なんで二人異様に離れて座ってるの?」
「異様ではないだろ」
「俺は最初に乗ったから、適当に座っただけだよ」
「じゃあ翔くんがわざわざ後ろに行ったってこと?」
「後ろが好きなの! 寝やすいから」
逆にこんなに席あって隣座るとかおかしくね?
お前だって真ん中の列の左に座ってんじゃん。
この配置ならリヒトはこの真ん中の席に座るんだろうな。
挨拶しながら乗ってきたリヒトは案の定真ん中の席に座った。一人一つって感じで座ってるからちょうどいいんだけど、普段こんなに距離あったっけ……?
「ふふ、このメンツだと距離が遠いね」
「そうだね、騒がしいのが後から合流だから」
「あ、燈二くん、かわいそう。寂しがりなのに」
あ、なるほど。距離感バグがいないからか。
「でも翔が宮ちゃんの横じゃないの、変じゃない?」
「えっ? 変じゃなくない?」
「カイ! そうだよね⁉︎ 俺も言ったの!」
「は? だからぁ、この広さでわざわざ横に座んねーだろって」
「だからってそんなに離れなくても」
「俺がお世話できないところに行っちゃった」
「おお、お、お世話なんていらねーよ!」
こっち振り返ってまで言うなよ! 顔見ちゃったじゃん…。
もう寝る! と宣言してから俺は帽子を深くかぶって腕を組んだ。
「翔、なんかあったの?」
「んー、わからない」
まぁ、そんなすぐに眠れるわけでもなく、話し声は聞こえてくる。お前のせいだよ、ばか。
……正確には夢の中のお前のせい! ……俺のせいか。
◇
「…ける? 翔」
「んんぅ……」
あれ、すぐ寝たの? おれ。
「あ、起きた?」
「んぅ……今なに、なん、……どこ?」
「ふふ、もう着いたよ。二人は先に行った」
「うす、っ!!」
立ちあがろうとしてシートベルトを外していなくて、勢いよく椅子に戻された。
「もう」
聖は呆れているのか笑いながらシートベルトを外してくれた。
「ありがと」
……待て待て。近いって。
屈んでシートベルトを外そうとしてくれる聖の顔が、キスできるくらいの距離にある。
「翔、いい?」
夢の一部が脳内で再生されて、顔が熱くなるのがわかった。
「……」
「あ、取れた。え?」
「翔くん、おきたー? おっと、おじゃましました」
カイが車のドアから覗いたようで、すぐに去っていった。俺たちの距離感を見て焦ったようにも思えた。
聖は赤くなった俺に驚いて、ずっと見つめてくる。
「〜〜っ! 見んな、ばか」
顔を腕で隠して、帽子を被り直した。
「あ、じゃあ、俺先に、あの行くね」
珍しくしどろもどろになる聖。顔は見れないけど、もしかしたら赤くなってたのかな。
外からカイの声が聞こえる。
「燈二くんっ、燈二くん! やばいの、俺やばいの見ちゃったかもしれないっ、はぁっ! どうしよ」
「え、カイ、おはよう、え? 何?」
「いや、これはっ、言っちゃいけないかも……うん、落ち着こう!」
「あははっ、落ち着きや、カイ」
カイ、落ち着け。なんもないぞ?
お前の妄想が過ぎる。
今はシートベルト外しただけだから。
いや、ちょっと待てよ? キスの想像とか言ったけど、されたことあるじゃん。
ふと思い出して、唇を触る。
好きだからって、寝てる相手にキスする⁉︎
と、一番最初の疑問に戻ってしまった。逆にあの時したのに、今の距離でなんで平気だったの、あいつ。