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第7話 小野寺side

「おなしゃーす」

 マネージャーの車に乗り込むと、聖が先に乗っていて、これからカイとリヒトが乗ってくるらしい。燈二は別の仕事から合流するらしい。

「翔、おはよう」

「おはよ、セイ様」

 変な夢見たから、まともに顔見れねぇ。

 ワゴンでよかった。前の右側に聖が座っていたので俺は二個後ろに座ることにした。

「あ、翔くんセイ様、おはよう。マネさんお願いします」

「おはよう」

「はよー」

 よかった、すぐ乗ってきて。

 すぐリヒトも合流するし、問題なさそうだ。

「え、なんで二人異様に離れて座ってるの?」

「異様ではないだろ」

「俺は最初に乗ったから、適当に座っただけだよ」

「じゃあ翔くんがわざわざ後ろに行ったってこと?」

「後ろが好きなの! 寝やすいから」

 逆にこんなに席あって隣座るとかおかしくね?

 お前だって真ん中の列の左に座ってんじゃん。

 この配置ならリヒトはこの真ん中の席に座るんだろうな。

 挨拶しながら乗ってきたリヒトは案の定真ん中の席に座った。一人一つって感じで座ってるからちょうどいいんだけど、普段こんなに距離あったっけ……?

「ふふ、このメンツだと距離が遠いね」

「そうだね、騒がしいのが後から合流だから」

「あ、燈二くん、かわいそう。寂しがりなのに」

 あ、なるほど。距離感バグがいないからか。

「でも翔が宮ちゃんの横じゃないの、変じゃない?」

「えっ? 変じゃなくない?」

「カイ! そうだよね⁉︎ 俺も言ったの!」

「は? だからぁ、この広さでわざわざ横に座んねーだろって」

「だからってそんなに離れなくても」

「俺がお世話できないところに行っちゃった」

「おお、お、お世話なんていらねーよ!」

 こっち振り返ってまで言うなよ! 顔見ちゃったじゃん…。

 もう寝る! と宣言してから俺は帽子を深くかぶって腕を組んだ。

「翔、なんかあったの?」

「んー、わからない」

 まぁ、そんなすぐに眠れるわけでもなく、話し声は聞こえてくる。お前のせいだよ、ばか。

 ……正確には夢の中のお前のせい! ……俺のせいか。


 ◇

「…ける? 翔」

「んんぅ……」

 あれ、すぐ寝たの? おれ。

「あ、起きた?」

「んぅ……今なに、なん、……どこ?」

「ふふ、もう着いたよ。二人は先に行った」

「うす、っ!!」

 立ちあがろうとしてシートベルトを外していなくて、勢いよく椅子に戻された。

「もう」

 聖は呆れているのか笑いながらシートベルトを外してくれた。

「ありがと」

 ……待て待て。近いって。

 屈んでシートベルトを外そうとしてくれる聖の顔が、キスできるくらいの距離にある。

「翔、いい?」

 夢の一部が脳内で再生されて、顔が熱くなるのがわかった。

「……」

「あ、取れた。え?」

「翔くん、おきたー? おっと、おじゃましました」

 カイが車のドアから覗いたようで、すぐに去っていった。俺たちの距離感を見て焦ったようにも思えた。

 聖は赤くなった俺に驚いて、ずっと見つめてくる。

「〜〜っ! 見んな、ばか」

 顔を腕で隠して、帽子を被り直した。

「あ、じゃあ、俺先に、あの行くね」

 珍しくしどろもどろになる聖。顔は見れないけど、もしかしたら赤くなってたのかな。

 外からカイの声が聞こえる。

「燈二くんっ、燈二くん! やばいの、俺やばいの見ちゃったかもしれないっ、はぁっ! どうしよ」

「え、カイ、おはよう、え? 何?」

「いや、これはっ、言っちゃいけないかも……うん、落ち着こう!」

「あははっ、落ち着きや、カイ」

 カイ、落ち着け。なんもないぞ?

 お前の妄想が過ぎる。

 今はシートベルト外しただけだから。

 いや、ちょっと待てよ? キスの想像とか言ったけど、されたことあるじゃん。

 ふと思い出して、唇を触る。

 好きだからって、寝てる相手にキスする⁉︎

 と、一番最初の疑問に戻ってしまった。逆にあの時したのに、今の距離でなんで平気だったの、あいつ。

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