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第9話 小野寺side

 ソファに腰掛けて、あきらの肩に寄りかかる。もちろん指示に従っているだけ。

「いいよー、目線だけいろいろ動かしてみてー」

 シャッターのタイミングで目線を変えて、カメラを見たり、斜め下を見たり、目を瞑ってみたりする。

「その距離のまま目合わせられる?」

 カメラマンにそう言われ、躊躇せずに返事をした。

「あ、はい」

 顔を上げると至近距離に聖の顔がある。

「避けちゃダメだよ」

 聖は余裕そうにそんなことを言ってくる。

「いいねぇ〜」

 カメラマンも喜んでいるようだ。

「目も逸らしちゃダメ。ほら、ちゃんと見て」

 スタッフには聞こえない小さな声で、小さな口の動きで俺にそう言う。

「言われなくたってちゃんとやります」

「なんで敬語」

 ちょっとずつ近づいてくる聖の顔。後退りしてしまい、体勢が崩れ、そのまま後ろに倒れてしまった。

「うぉっ」

「わっ、大丈夫?」

 ソファだから大丈夫なのに、俺の頭を守るために、後頭部を手で覆って庇ってくれた。そのせいで俺の上に覆い被さってくる。

「だっ、だいじょ」

 俺の言葉をカメラマンが遮る。

「いいよ! 今めっちゃいい! そのまま! ちょっと視線ちょーだい」

 カメラマンは盛り上がっている。カメラ目線を決めている時には、照れずに微笑んでみたり、表情管理バッチリだった。

 ただ目線を外す指示があって外した先にカイがいて、目をキラキラさせながら見られていたことに気がついたら、居ても立っても居られなかった。

「おでこくっつけられる?」

「へ?」

「こうですか?」

 んんん……近い。というかゼロ距離。

 聖はナチュラルにやってくる。

 ちょっとニヤついてない? ラッキーだと思ってるだろ。俺は顔が赤くならないように必死なのに。

「あ〜、いいよ。小野寺くん、宮部くんの腕握れる?」

「えっ、あ、こうですか?」

「そうそう! いいね! 「見たな?」 みたいな表情ほしい!」

「ふはっ、見たな? ですか…」

 俺は押し倒されたみたいな体勢のまま、俺の顔の横についている聖の手首あたりを握り、カメラの方を見て、少し睨みつけた。

「笑っちゃってるじゃん」

「いやだって、見たな? って」

「カメラ目線でいてね?」

「おう?」

 言う通りにしていると、髪を撫でられて、俺にしか聞こえない声で、

「好きだよ」

 と言われた。

「っ!」

 撮影中に何言ってんだ! やばいやばい! 突き飛ばしそう。落ち着け落ち着け。撮影のため。

「うわぁ〜、めっちゃいい表情とれた! 二人とも完璧!」

 聖は上体を起こして、俺の手を引っ張って起こしてくれた。

 崩れた髪を少し直しつつ、スタッフさん側から見える耳の辺りに手を被せてきた。

「おいっ、なにして」

「耳、真っ赤」

 小声で怒ったように言うと、小声で教えてくれた。

 隠してくれてたのか。

「やめろ、余計赤くなる」

 手を払って、そっぽを向くとメイクさんが近づいてきていた。そのまま直してもらって、ダイニング風のセットに移動した。

「余計赤くなるって……」

 うわ、俺墓穴掘ったわ。

 もういいや、とにかく撮影に集中しよう。

 そのあとは密着することもなく、すんなり終わった。

 ずっとカイの視線が気になって、というか、他のメンバーの視線が気になって、集中できなかった。

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