ソファに腰掛けて、
「いいよー、目線だけいろいろ動かしてみてー」
シャッターのタイミングで目線を変えて、カメラを見たり、斜め下を見たり、目を瞑ってみたりする。
「その距離のまま目合わせられる?」
カメラマンにそう言われ、躊躇せずに返事をした。
「あ、はい」
顔を上げると至近距離に聖の顔がある。
「避けちゃダメだよ」
聖は余裕そうにそんなことを言ってくる。
「いいねぇ〜」
カメラマンも喜んでいるようだ。
「目も逸らしちゃダメ。ほら、ちゃんと見て」
スタッフには聞こえない小さな声で、小さな口の動きで俺にそう言う。
「言われなくたってちゃんとやります」
「なんで敬語」
ちょっとずつ近づいてくる聖の顔。後退りしてしまい、体勢が崩れ、そのまま後ろに倒れてしまった。
「うぉっ」
「わっ、大丈夫?」
ソファだから大丈夫なのに、俺の頭を守るために、後頭部を手で覆って庇ってくれた。そのせいで俺の上に覆い被さってくる。
「だっ、だいじょ」
俺の言葉をカメラマンが遮る。
「いいよ! 今めっちゃいい! そのまま! ちょっと視線ちょーだい」
カメラマンは盛り上がっている。カメラ目線を決めている時には、照れずに微笑んでみたり、表情管理バッチリだった。
ただ目線を外す指示があって外した先にカイがいて、目をキラキラさせながら見られていたことに気がついたら、居ても立っても居られなかった。
「おでこくっつけられる?」
「へ?」
「こうですか?」
んんん……近い。というかゼロ距離。
聖はナチュラルにやってくる。
ちょっとニヤついてない? ラッキーだと思ってるだろ。俺は顔が赤くならないように必死なのに。
「あ〜、いいよ。小野寺くん、宮部くんの腕握れる?」
「えっ、あ、こうですか?」
「そうそう! いいね! 「見たな?」 みたいな表情ほしい!」
「ふはっ、見たな? ですか…」
俺は押し倒されたみたいな体勢のまま、俺の顔の横についている聖の手首あたりを握り、カメラの方を見て、少し睨みつけた。
「笑っちゃってるじゃん」
「いやだって、見たな? って」
「カメラ目線でいてね?」
「おう?」
言う通りにしていると、髪を撫でられて、俺にしか聞こえない声で、
「好きだよ」
と言われた。
「っ!」
撮影中に何言ってんだ! やばいやばい! 突き飛ばしそう。落ち着け落ち着け。撮影のため。
「うわぁ〜、めっちゃいい表情とれた! 二人とも完璧!」
聖は上体を起こして、俺の手を引っ張って起こしてくれた。
崩れた髪を少し直しつつ、スタッフさん側から見える耳の辺りに手を被せてきた。
「おいっ、なにして」
「耳、真っ赤」
小声で怒ったように言うと、小声で教えてくれた。
隠してくれてたのか。
「やめろ、余計赤くなる」
手を払って、そっぽを向くとメイクさんが近づいてきていた。そのまま直してもらって、ダイニング風のセットに移動した。
「余計赤くなるって……」
うわ、俺墓穴掘ったわ。
もういいや、とにかく撮影に集中しよう。
そのあとは密着することもなく、すんなり終わった。
ずっとカイの視線が気になって、というか、他のメンバーの視線が気になって、集中できなかった。