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第16話 小野寺side

 ミスったぁ〜……これ結構酔っ払った。

 目を開けると聖の家のリビングで、最初こそ焦ったものの、酔って寝たんだと把握する。

 店に聖が来たことは覚えてるけど、その先がわからない。運んでもらって、今、ここなんだろう。

 もうこのまま寝ちゃおうと目を瞑っていると、聖が近寄ってきたのがわかった。

 聖の匂いがふわっと強くなって、さらに近付いてきたことがわかったら、目が開けられなくて、じっとしていた。

 また、キス……されんのかな。

 一瞬脳裏によぎったのは、あの日のキスと、あの変な夢。心臓が速くなった。

「翔。俺は、期待しても……いいの?」

 毛布をかけ直してくれて、おやすみと言い、立ち去ろうとする。

 あ、何もしないんだ。

 って、おれ、まるでしてほしかったみたい。

 ああ、嫌じゃないんだ。

 聖相手にドキドキして、俺どうしたんだろう。

「……しても、いい、、、かも」

 身体が先に動いてしまって、聖を引き止めてしまった。しかも妙なことを口走っている。

 脳がパンクしそうになっていると、聖に手を握られた。

 どんどん心臓が速くなって、手を握り返したくなった。そんな勇気はなく、俺はただ、

「期待、していいよ」

 なんて言って、アクションは全部聖に任せてしまう。

 何も言わないし、何もしてこないな。

 ああ、俺がまだ酔ってると思ってるな?

「もう覚めたから、酔い」

 それでも聖は動かず、口を開かず、そのままじっとしていた。

 その沈黙に耐えられずに、俺は起き上がって、机にあった水を勢いよく飲んだ。

 口から溢れていたようで、聖がそれを手で掬う。近距離の聖と目があって、一気に顔が熱くなった。

 すればいいのに、キス。

「……」

 なんとも言えない顔をして、直後抱きしめられた。

 聖の心臓がとても速く動いていることに気づいた。ずっと冷静で落ち着いて、俺ばっかりあたふたしていると思っていたから、少し安心する。

 とは言っても、同じように俺の心臓の音も伝わっているのだろうと、恥ずかしくなった。

「翔」

「おう?」

「明日、起きてから、ちゃんと話、してもいいかな」

「……」

「酔ってない、夜のテンションじゃない、普通の時にちゃんと話したい。いい……かな?」

「うん」

「帰らないで? 逃げないでね」

「うん」

 聖の背中に片手を回して、少し摩る。

 無言のまま時間が過ぎて、たぶん一分も経ってなかったんだろうけど、十分くらいに感じた。

「じゃあ、また明日。おやすみ」

「おやすみ」

 聖は微笑んで、俺の頭を撫でてから、寝室へ行った。

 持っていた水を置いて、スマホを手に取る。

「はぁ、俺何してんだ」

 ほぼ吐息のような独り言を呟いて、スマホのロックを解除すると、メッセージが来ていた。

 一緒に飲みに行った二人から、「素直になれ」という内容のメッセージが届いていた。

 もしかして俺、酔ってなんか言った?

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