目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第19話 宮部side

 されても嫌じゃないなんて言って、満更でもなさそうな顔して、期待しろ! って言ってるようなもんじゃん。

 目が開いたと思ったら、しないの? みたいな顔で見つめてくるし。

 俺の気持ちは一生隠しておこうと思っていた。だがあの時魔が差してキスしてしまった。ものすごく後悔した。好きだから触れたくて、好きだから壊したくなかった。

「今は魔が差すことはないわけ?」

 まるで魔が差して欲しいみたいな。誘惑に負けろとでも言うような目で見つめられる。

「じゅ、んばんが。あるから」

 珍しく戸惑ってしまった。

 好きだから大事にしたくて、きちんと付き合ってから先に進みたい。翔が自分から俺のことを好きだと、強く思うまで待ちたい。

「ふーん」

 少し拗ねたような顔をして、俺から目を逸らした。

 本当は今すぐにでも唇を奪って、いろんなところにキスを降らせたい。けど、翔の気持ちがないなら、そんなの暴力と一緒だ。

「俺は愛し合いたいから、ちゃんと待つよ」

 何も言わずに俯いてしまった翔の耳が真っ赤になっていた。

 今日話せて、少し翔の気持ちがわかった気がする。きっとメンバー以上、幼なじみ以上には想ってくれているだろう。

 多分この先、翔からのアクションはないだろう。でも翔から好きだって想ってもらわないと。

 そのあとお茶を出して、少しすると、翔は何もなかったかのように自宅へと帰って行った。


 ◇

 あれから数日が経ち、メンバー全員との仕事が立て続けに入った。

MV、冠番組、映像メディア、雑誌の撮影など、五人揃うことが多かった。

「せーいぃ」

「ん?」

 緩んだ表情でひっついてきたのは燈二だ。カイは苦虫を噛んだような顔をしている。そんなに嫌ならリード付けておきなさい。

「大丈夫? 悩んどらん?」

「あ、うん。なんかね、平気そう」

「よかったやん! 幸せそうな顔してぇ」

「そうかな?」

 様子を伺いに来ただけで、平気とわかるとカイのところへかけて行った。

「あの後大丈夫だった?」

「俺の家に泊めて、次の日帰ったよ」

「酔っ払い預けてごめんね」

 心配してくれているリヒトをよそに、奥でニヤついているカイを俺は見逃さなかった。

「カイ? 変な妄想しないでね?」

「し、してないよ?」

「俺たちは何もないから」

 あのまま流れで付き合ったりせんかったかーと燈二に肩を叩かれて、カイはしょんぼりしながら椅子に腰掛けた。

 幼馴染というエモさに歓喜しているだけだと思っていたが、どうやら大好きな漫画の影響を受けているのかもしれない。

「れーっす」

 サンダルで入ってきた翔は、何もなかったような顔をしているものの、酔っ払った時の発言が恥ずかしすぎるようで目は泳ぐし、ぎこちない笑顔になっていた。

「おはよっ、翔くん!」

 俺たち二人が揃うのを待ち望んでいたカイに肩を叩かれ、恥ずかしさから逃げるようにカイの隣を離れなかった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?