されても嫌じゃないなんて言って、満更でもなさそうな顔して、期待しろ! って言ってるようなもんじゃん。
目が開いたと思ったら、しないの? みたいな顔で見つめてくるし。
俺の気持ちは一生隠しておこうと思っていた。だがあの時魔が差してキスしてしまった。ものすごく後悔した。好きだから触れたくて、好きだから壊したくなかった。
「今は魔が差すことはないわけ?」
まるで魔が差して欲しいみたいな。誘惑に負けろとでも言うような目で見つめられる。
「じゅ、んばんが。あるから」
珍しく戸惑ってしまった。
好きだから大事にしたくて、きちんと付き合ってから先に進みたい。翔が自分から俺のことを好きだと、強く思うまで待ちたい。
「ふーん」
少し拗ねたような顔をして、俺から目を逸らした。
本当は今すぐにでも唇を奪って、いろんなところにキスを降らせたい。けど、翔の気持ちがないなら、そんなの暴力と一緒だ。
「俺は愛し合いたいから、ちゃんと待つよ」
何も言わずに俯いてしまった翔の耳が真っ赤になっていた。
今日話せて、少し翔の気持ちがわかった気がする。きっとメンバー以上、幼なじみ以上には想ってくれているだろう。
多分この先、翔からのアクションはないだろう。でも翔から好きだって想ってもらわないと。
そのあとお茶を出して、少しすると、翔は何もなかったかのように自宅へと帰って行った。
◇
あれから数日が経ち、メンバー全員との仕事が立て続けに入った。
MV、冠番組、映像メディア、雑誌の撮影など、五人揃うことが多かった。
「せーいぃ」
「ん?」
緩んだ表情でひっついてきたのは燈二だ。カイは苦虫を噛んだような顔をしている。そんなに嫌ならリード付けておきなさい。
「大丈夫? 悩んどらん?」
「あ、うん。なんかね、平気そう」
「よかったやん! 幸せそうな顔してぇ」
「そうかな?」
様子を伺いに来ただけで、平気とわかるとカイのところへかけて行った。
「あの後大丈夫だった?」
「俺の家に泊めて、次の日帰ったよ」
「酔っ払い預けてごめんね」
心配してくれているリヒトをよそに、奥でニヤついているカイを俺は見逃さなかった。
「カイ? 変な妄想しないでね?」
「し、してないよ?」
「俺たちは何もないから」
あのまま流れで付き合ったりせんかったかーと燈二に肩を叩かれて、カイはしょんぼりしながら椅子に腰掛けた。
幼馴染というエモさに歓喜しているだけだと思っていたが、どうやら大好きな漫画の影響を受けているのかもしれない。
「れーっす」
サンダルで入ってきた翔は、何もなかったような顔をしているものの、酔っ払った時の発言が恥ずかしすぎるようで目は泳ぐし、ぎこちない笑顔になっていた。
「おはよっ、翔くん!」
俺たち二人が揃うのを待ち望んでいたカイに肩を叩かれ、恥ずかしさから逃げるようにカイの隣を離れなかった。