二泊三日の新婚旅行。二人を乗せたフェリーはいざ出航とあいなった──。
「何で佐渡なの?」
「え……この前行きたいって言ってたよね?」
「確かに『金山楽しそうだから行きたい』って言ったけど、新婚旅行で行くのは……どうなの?」
「『一生の思い出に行ってみたい』って言ったのも芽衣子だよ?」
「……一生の思い出になるかしら?」
「……きっとなるさ」
左手の薬指にはめられた指輪がキラリと光り、細やかな旅路の二人を祝福してくれた様な気がした。そして数時間後、船は佐渡島へと着くと芽衣子は足早にフェリーを降りた。
「ささ! 金を堀に往くわよ!!」
「……切り替え早いね」
僕は船酔いで気分が優れなかった。元気に燥ぐ芽衣子を見れただけでも良しとしようか……。
金の採掘場へと着くと、芽衣子は目をキラキラとさせていた。僕はベンチに座り芽衣子の雄姿を眺めることにした。
「頑張ってね」
「任せなさい! あっと言う間に芽衣子様は億万長者よ!!」
──制限時間が過ぎ、ベンチで項垂れる芽衣子。
「何この少なさ……」
そこには指先に乗ったほんの僅かに光る金があった。廃山の跡地で取れる金はたかが知れているだろう。それでも採掘は楽しいから良いんだけど、彼女は本気で金が欲しかったみたいだ……。
「やっぱりFXしか無いわね。疲れたしホテルに行ってFXしましょ!」
「……何か嫌な予感しかしないんだよね。何でだろう?」
その日、ホテルに着いた芽衣子は部屋から出ること無くずっとノートパソコンでFXをやっていた。島なのにネットがあることに疑問を感じたが、芽衣子曰く「今や世界の何処でもオンラインよ♪」との事。いやぁ凄い時代だなぁ……。
そして船旅の疲れもあり、その夜僕はやけにぐっすりと眠ってしまった。
──翌朝、僕の予感は的中した。
「おはようございます支配人様!!」
芽衣子は何故か宿泊したホテルの支配人となっていた。
「久々の大当たりよ!! まさに一生に一度の思い出ね!!」
ホテルのレストランは僕達で貸し切りとなり、料理長が一つ一つ料理の説明をしてくれる。
「喰らいなさい! 金粉ボンバーよ!!」
仕上げに料理の上に盛大に蒔かれた金粉。ありとあらゆる料理が金ピカになっていった。僕の牛乳までも…………。
「おーほっほっほっ! 続いては金粉ハンバーグよ!!」
料理長が熱々のハンバーグをナイフで切ると、断面にはこれでもかと練り込まれた金粉が見えた。
「1:1でございます」
肉と金の合い挽きハンバーグは見るだけでも目が眩む。そしてあまり美味しそうに見えないのが残念だ。
「さて、腹ごなしも済んだところで……金を発掘しに往くわよ♪」
「え? また行くの?」
従業員一同に見送られ、僕達は昨日訪れた金の採掘場へと再び足を──
「……って何これ!?」
そこには至る所全てが金ピカに輝いた採掘場があった!
「金で出来た採掘場よ! これなら何処を掘っても金がザクザク出てくるわ♪」
…………僕は言葉を失った。その傍らで彼女はひたすらに金を掘り続けている。本当に何処を掘っても金しか無く、この世の全てが金で出来ているみたいだった。
「……夢かな?」
「何を呆けてるの!? リアルよ! リ ア ル !」
僕達は抱えきれない程の金を採掘し、それを削って遊んだ。
散々遊び尽くしてホテルへ戻り、料理長の金粉料理を食べてベッドへと入る。勢の極みを尽くした佐渡旅行も残り一日。明日の夕方には本土へ帰る。このまま何事も無ければ良いけど…………
「破産したわ……」
朝起きると芽衣子のいつもの顔が目に入った。うん、いつものパターンだね。
「おい! 貧乏人は出て行け!!」
僕達は新しい支配人にホテルを追い出され、徒歩でフェリー乗り場まで進むことにした。
「昨日の採掘場は?」
「跡形も無くなったわ……」
「昨日採った金は?」
「借金のカタに没収されたわ」
「帰りの船賃は?」
「当然無いわね……」
僕達は船着場へと着くと、とりあえず途方に暮れた。帰りたいのに船賃が無いのだ。さて、どうしたものか……。
「ゴメン、ちょっとトイレ」
「行ってらっしゃい……」
船着場のトイレの便座に座り暫し考える。用を足しトイレのレバーへ手をかけた瞬間、僕は奇跡を見た。
「──芽衣子! ウ〇チを頂戴!!」
「……走って帰ってきたと思ったら、何よ急に……頭打ったの?」
「いいから! 今すぐウ〇チを出すんだ!!」
「やだ……ちょっと怖いわ……来ないで」
「コレだよコレ!」
僕は芽衣子の目の前に先程誕生した金のウ〇チを見せた。
「昨日金粉を食べ過ぎたお陰でウ〇チが18Kになってるよ!!」
「……18禁の間違いかしら?」
僕達は思わぬ隠し財産に救われ、無事本土へ帰る事が出来た―――
「まさに一生に一度の思い出だったね」
「こんな経験二度目はゴメンよ……」