「あった! これだ!」
紗菜の部屋で有紀がそう叫んだ。
「キデイランド大阪梅田店!」
紗菜と有紀は二人で、パソコンの検索を駆使して過去を探っていた。
紗菜がじっと有紀の横顔を見つめて言う。
「でも、よく私のこと、信じてくれたね」
どう考えても荒唐無稽な話である。
気を失っていたその間、紗菜は25年以上も昔に戻っていたと言うのだ。しかも、なぜか男子大学生になっていたという。
「まぁ話だけだったら眉唾だけど、これがあるからなぁ」
そう言って有紀は、デスクにちょこんと立っている人形に視線を向けた。
「これ、すっごいヴィンテージおもちゃなんだもん」
二人が最初に検索したのこの人形である。
『超合金Dr.スランプ・んちゃ!アラレちゃん』
PCの画面には、オークションサイトやフリマサイトで売られているアラレちゃんが多数映し出された。その価格に、二人は目をむいたのだ。
「こんなうん万円もする人形、紗菜がイタズラのために買うわけないし」
「そんなにお小遣い無いよぉ」
中古同人誌で手一杯!
そう言うと紗菜は肩をすくめた。
「それでさ、これよく見て」
有紀が画面の写真を指差す。
「今のキデイランド梅田店の様子なんだけど……見覚え有る?」
有紀がスクロールさせる画面を見つめながら、紗菜が首をかしげた。
「なんか、ぜんぜん違うみたい。もっとこう……広い売り場に、超合金とかロボットとか怪獣とか、色んなおもちゃが山程並んでて……」
二人が見つめる写真には、ファンシーなキャラクターグッズが溢れていた。
「あ、ここにヒントになりそうなことが書いてある……」
そのページを読み上げていく有紀。
「2017年にリニューアルオープンしたキデイランド大阪梅田店は、スヌーピータウンショップ、リラックマストア、miffy style、カピバラさんキュルッとショップ、どんぐり共和国などのキャラクター専門店や、ディズニーアベニュー、STAR WARS GALAXY、ハローキティショップなど、キャラクターの魅力、世代を超えて愛されるキャラクター文化を発信していきます……」
有紀がパッと紗菜に顔を向けた。
「紗菜が見たのは、このリニューアルの前なんだよきっと」
「そうね……」
紗菜の脳裏に、地下街で目にしたポスターが浮かぶ。
『阪急三番街☆1981年スプリングセール!』
紗菜がいたのは1981年だ。2017年にリニューアルしたのなら、その風景はガラリと変わっているのだろう。
「じゃあ次ね。大阪梅田に……80年代に“れい”ていう喫茶店があったのかどうか……」
キーボードをカタカタと叩く。
「あった!」
「ホントだ!」
二人の前のモニターに「純喫茶“れい”」の光る看板の写真が写っていた。
「これでしょ?」
「そう、これ!」
こうなると、紗菜が見たのはけして夢などではないことは明らかだ。
「よし、もっと詳しく調べよ! 店内写真とか、どっかに無いかな」
そう言うと有紀は再び、キーボードを叩き始める。
夢なら良かったのに。
いや、あの世界は面白そうだった。
紗菜の胸に、複雑な思いが浮かんでいた。