星矢が引っ越してからというもの生活に慣れるまでに相当の
体力と精神力を要した。まずは場所に慣れるということ。
田舎から出てきたため、都会暮らしは全然味わったことがない。
クラクションが響く、人々が行き交う。
混み合う街中を歩くのに人酔いにいつも悩まされていた。
翔太と星矢の関係といえば、遠距離になるとどうしても、空白時間が発生してしまう。相手が何をしているのかと悶々と考えてしまう。
毎日がストレスだった。電話をしようものなら、お互いにタイミングが合わず、連絡がとれないことが多くなる。
翔太といえば、大学の受験勉強で毎日必死で机に向かっていた。
学校主催の勉強合宿なんかも熱心に参加していた。
お互いに忙しくて、ラインのメッセージもスタンプさえも送りあうこともしなくなり、いつの間にか、音信不通になっていた。
日々の生活に夢中だった。
引っ越しする前は、卒業祝いにと翔太に会おうと考えていた。
でも今は、考える余裕も星矢には無くなっていた。
翔太をあんなに好いていたはずなのに東京でできたたくさんの気の合うクラスメイトの友達との交流が大事だとシフトチェンジしていた。
部活動で吹いていたフルートも東京の部活ではあまりにも人数が多い吹奏楽部で、部長から足りない楽器をやってほしいと希望通りの楽器を選べずに結局は
クラリネットを吹くことになる。納得はできなかったが、致し方なかった。
前の学校と比べて、ぼっち飯することはなくなり、平和に高校生活を送ることができた。
何の変哲もない。恋愛要素が全くない忙しい生活を淡々とこなすので精一杯だった。
そんな日々を過ごして、7年の日々が経っていた。
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会社の事務所で電話が鳴り響く。パーテーションで区切られた会社の
デスクに星矢は白い電話機の受話器を取る。
「はい。株式会社アクセスの工藤でございます」
株式会社アクセスに入社して早くも3ヶ月は経った。
おろし立てのリクルートスーツがまだ着慣れていない。
「すみません、課長はただいま外出中です。ご伝言がありましたら承りますが、いかがいたしますか?」
『そうですか。ではまたかけ直しますね。失礼します』
受話器を置いた。電話を終えると、受付に1人のスーツを着た男性が名刺を持って立っていた。
「いらっしゃいませ。どちら様でしょうか」
星矢は、デスクから立ち上がり、さっと受付の女性スタッフの代わりに対応した。
「我が社の製品を扱っていただけるということで、伺いました。株式会社サンテックの竹下翔太です。 お電話で連絡していたと思うのですが……」
名刺を星矢に渡す翔太。星矢は、息をごくりと飲んで一瞬何も言えなくなった。
「……翔太先輩?」
「……え、えっと、確かに名前は翔太ですが……ん?」
翔太は顔を上げて、星矢の顔をまじまじと見た。翔太はやっと気づいて、目を丸くして驚いた。
「星矢か?」
「はい!! お久しぶりです」
2人は7年越しの再会を果たした。お互いにまさかの東京での会社で会うとは思ってもなかった。何しにこの会社に来たんだろうと忘れてしまうほど、思い出話に夢中になる2人だった。
電話のコールが鳴り響いている。