翔太は、ビールから始まり、芋焼酎に麦焼酎、ハイボールにコークハイとたくさんのお酒を飲んで、会社の上司の愚痴を話し始めてはなかなか聴きたかった翔子のことは教えてくれなかった。
あまり、お酒を飲めなかった星矢はちびちびとレモンサワーを飲んで、焼き鳥の盛り合わせの鶏ももの串を割り箸で一つ一つほぐしていた。
「先輩、これ、ほぐしておくので、食べてくださいね」
「焼き鳥ほぐすの見たことないんだけど、2人だけなんだし、串のまま食べてはいけないのか?」
「あー、それもそうですね。会社の飲み会は、人数多いからついついほぐす担当になっちゃって……」
星矢は焼き鳥をほぐすのをやめて、割り箸を箸袋で作った箸置きに置いた。
「星矢は几帳面だよなぁ。丁寧だし、女子力高いな。男子だけど、そこは昔と変わらないな。翔子が言っていたもんな」
翔太は頬杖をついて、しみじみと言う。だんだんと目がうつろになっている。
「そうですよ、翔子先輩のことそろそろ教えてくださいよ」
星矢は、やっと話題に出てきた翔子のことが気になった。ここぞばかりに推しにいく。
「あ、あー。まだ言ってなかったっけ」
「はい、今翔子先輩どうしてるんですか?」
「翔子は、高校卒業後、佐々木先生と結婚したぞ」
「え!? 嘘、そうだったんですか?」
「そぉ。二児のママだぞ」
翔太はスマホで翔子のSNSに載った家族写真を見せつけた。
「う、うわぁ。翔子先輩、昔の面影が薄くなってる。もうママな顔ですね。
え、ちょっと待ってください。お子さんずいぶん大きいですね」
「卒業ギリギリに妊娠に気づいたらしいよ。当時のみんなにはバレずに済んだらしい。今7歳だって。確か……小学1年生だったかな」
翔太はSNSの情報を頼りに説明する。その様子を見て、星矢は疑問に思う。
「先輩、翔子先輩には会えてないんですか?」
「あ、ああ。そうだな。みんなには黙って結婚とか出産したわけだから連絡取れなかったんだよ。俺も」
寂しそうな顔をし、スマホ画面を下にしてテーブルに置いた。青く透明なグラスに入った麦焼酎を飲んだ。
「僕が引っ越してからお2人は、バラバラだったんですね。悲しいです。3人で過ごしたあの中庭が懐かしいですね」
「……そうだな。あの時間は楽しかった。学生時代の思い出のひとつだ」
「でも、こうやって思い出話できると思っていなかったので嬉しいです」
「うん。俺も。あ、そうだ。高校の時の卒業アルバム見るか? 星矢の知ってる人はあまりいないかもしれないけども」
「いや、でも、見たいです。翔太先輩の写真って撮ることなかったので、懐かしいのぜひ」
星矢は、キラキラした目で翔太を見た。翔太は7年前の高校の写真を星矢に共有してもらえるのを嬉しく感じた。
お腹を満たした2人は、翔太が載っている高校の卒業アルバムを見に翔太が住むアパートへ隣同士歩いて向かった。
傘をさしても濡れていた翔太のスーツは、また肩パッドの部分が濡れていた。星矢は雨で濡れないようにそっと翔太の傘の向きを整えた。
さりげない優しさが嬉しかった。