「先輩、内緒ってどういうことですか?」
星矢は、服を自分の着てきたスーツに着替えると、ネクタイを結びながら言う。
翔太は内緒言い終えた後に台所で朝食を作り始めた。フライパンにハムと卵を乗せて、ハムエッグを作ろうとしていると、横から星矢がネクタイを整えて、のぞいている。
「先輩、無視しないで聞いてくださいよ。昨日の話」
「だから、昨日は,内緒って言ってるだろ。あんなことやこんなこと全部したってことでいいだろ」
「え、うそだ。僕はそんな記憶は全然ない!!
するなら、全部覚えておきたい!!」
「星矢、さっきから何のこと言ってるんだ? 俺は単に、お笑いのテレビ見て、抱っこしてベッドに運んだって言いたかっただけだぞ」
「ん? ん?」
1人先走って言ってしまったことを後悔した。フライパンには、黄色と白の満月のような目玉焼きが焼けてきた。その横にはウィンナーが転がっている。
「さてさて、共食いか?」
「……先輩!!」
「ケケケ……」
笑いながら、フライパンの焼けた卵とウィンナーを皿に乗せた。
「僕、馬鹿にされてます?」
「さーてどうでしょう。ご想像にお任せします」
「なんだか納得できない」
「星矢の家に行ったら、真剣に考えるから」
「真剣って今はおふさげってことでしょうか」
「そうかもしんねぇなぁ」
翔太は,食卓に皿を並べ始めた。オーブントースターで焼けた食パンを卵の横に置いた。バターのいい香りが漂う。
「……納得できない」
ぶつぶつ文句を言いながら、席に座り、食パンにありついた。ただ単にバターを塗っただけのパンがものすごく美味しく感じた。
「先輩、愛ですね。これ、めっちゃ美味しいです」
「は? なんの愛だよ。ただ、焼いただけだって」
「当たり前に美味しいっていうのは実は当たり前じゃなかったりするんですよ!」
「はいはい」
「そんなに僕のことが好きなんですね」
「……星矢、大丈夫か? 熱でもあるの?」
「な、な! なんでもないですって。ひどいなぁ」
他愛もない会話が微笑ましく感じた。こんなに翔太と過ごすのが居心地よかったなんて、思いもしなかった。
あの人が来るまでは。
2人で朝食を楽しんでいると玄関のドアが開く音が響いた。インターフォンは鳴っていない。
星矢は誰が来たのか気になった。
翔太の顔が一瞬にして、曇り始めた。