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第55話 思いがけない場所で会う

「星矢?」


ワゴン車のトランクに荷物を積んでいた星矢に

声をかけた男性がいた。


「あ、どうも」

星矢は車のトランクの扉を閉めた。


「どうもって……星矢、そんな大きな車で……

ん? 『こどもが乗っています』のステッカー貼ってるけど。どういうこと?? え、まさか。星矢???」


「ちょ、ちょっと待ってください。翔太先輩、何かものすごく勘違いされているかと!?」


「え、だってさ。いつの間に? 俺ら会った時って1ヶ月前だろ。今5月末で早すぎない??」


理由を説明しようとするが、今は混乱しているようで理解はしてくれなさそうだった。諦めて、黙っていると、翔子と子供たちが現れた。


「ごめーん、紙おむつが足りなくなっちゃってさ。着替えも必要になって取りに来ちゃった。

星矢くん、大丈夫だった?? あ、あれ、誰?」


「……え、誰?」


翔子と翔太は見つめった。

ベビーカーにいた彩望は目を覚ましたようで

泣き出した。翔子は、咄嗟にベビーカーからおろして、抱っこする。奏多は、スマホをいじりながら、翔子の隣に移動した。


「まさか、翔子か??」


顔をジロジロと見た翔太は、昔の面影を思い出して、翔子だとわかった。


「え? その声は、翔太? 久しぶりじゃん。嘘、星矢くん、連絡取り合ったの?」


「いやいや、偶然ですよ」


手をブンブン横に手を振った。


「あ、俺は本当に付き添いでさ。たまたまで。

まさか、2人ができてるのか?!」


そう言っていると後ろからカツカツとハイヒールの音が響いた。

翔太の後ろから首に手をまわして抱きついていた。


「翔ちゃん、お腹すいたよ。早くお昼ごはん食べに行こう。ん? どなた?」


「莉華、苦しいから。首絞めるのやめて。俺の高校の同級生と後輩だよ」


莉華という背の高いモデル並みのその女性は

翔太の元婚約者でいろんな理由があって、結婚は破談になったが、コロコロと気が変わるのか猛烈なアプローチが莉華から今でも来ていた。

翔子家族と星矢をチラチラと見た莉華は

翔太とどんな関係か気になった。


「へぇ、翔ちゃんの知り合いに会うの

新鮮だね。しかも親子連れなんて羨ましい。

仲良さそうですね。私たちもそうなりたいと思っていたんですよ」


莉華は一度星矢に会っていたが、覚えていなかったようだ。翔子と星矢が夫婦だと勘違いしている。


「え、いや、私たちは……」


「あーーー、莉華。お腹減ったって言ってたな。ほら、行こう」


「翔ちゃん、急に話変えすぎじゃない? 失礼だよ」


「良いから。ごめんな、翔子と星矢。また後で連絡するから!」


「あ、はい。わかりました」


「う、うん。まぁ、いいけど。連絡先……」


「星矢から聞いておいて。電話番号。んじゃぁな」


バツ悪くなった翔太は、莉華の背中を押してレストランの方向へ歩いて行った。


何だか嵐が去ったような感覚になった2人は

顔を見合わせてから、やらなくてはならない彩望のおむつ交換を車の中で行った。

奏多は周りを気にもせず、とにかくゲームのレベル上げに夢中になっていた。


星矢はため息をついて、翔太と一緒にいた莉華の言葉を思い出した。

前に翔太の家で会っていた時に話していた。


翔太と莉華が言い争っていた。戸籍を汚したと言っていた。


結婚はしていたのかと思い出す。



おむつ交換を終えて、助手席に座った星矢に

翔子は彩望を抱っこしながら話しかける。


「星矢くん、大丈夫? まさか、翔太があんな女の人とね元婚約者って結婚していたのかな」


「あー、本当のことはわかりませんが、望まれて話が進んだわけではないらしいですよ。会社の上司繋がりのお見合いみたいになっただとか」


「えー、なになに。面倒臭い絡みだね。

会社の繋がりの結婚ってやだよね。本当に好きな人とじゃない可能性が出るってことでしょう。私ならそういう会社辞めてやるけどね。

そっか、翔太はお人好しだからなぁ。なるほどね」


 翔子は立って、彩望を抱っこしながら上下に揺れてあやした。だんだんとまた眠くなっている。


「お母さん!! マックは?! お腹すいたよ!!」


「あーー、奏多ごめんごめん。今行くよ。もう、ドライブスルーにしよう。星矢くんも良いよね?」


「はい。大丈夫です。行きましょう。奏多くんのお腹を満たすように」


 翔子は抱っこしていた彩望をチャイルドシートに乗せて、運転席に移動した。

星矢は、同じようにシートベルトを助手席で装着する。


「なんか、星矢くんに運転してもらいたい気分だわ」


「先輩、ごめんなさい。僕車の免許まだ持ってないんです。東京に越してきて、取る機会を失いました」


「あー、そういうことか。残念、偽造家族になれそうだったのに」


「どういうことですか?」


「冗談よ、冗談」


翔子はハンドルを握って、アクセルを踏んだ。


星矢は何とも言えない顔をして、前を見た。


休日ということもあって、駐車場は混んでいた。


警備員があっちやこっちで忙しそうにしている。


後ろに座る彩望はこれからご飯だというのに

いびきとよだれを垂らしてまた眠っていた。

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