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第48話:祈りの力

 「私達も力をお貸しします」

 その声を、リオは夢と現の狭間で聞いていた。


 「お願い……死なないで……」

 祈りにも似た、清らかで温かな力が、彼の体内に流れ込む。


 「私は信じています。貴方は必ず生きていて下さると」

 同時に、力強い言葉と同じ輝きを秘めた力も注がれた。


 「俺は、お前じゃなきゃ嫌だからな」

 更に続く、闇を退ける夜明けに似た光の力が注がれる。


 (……僕は……どうなったんだ……?)

 ゆっくりと意識が浮上し、リオは目を開けた。


 「意識が戻られたぞ」

 途端に上がる、多くの人々の歓声。

 ぼやけた視界が鮮明になると同時に、彼は多くの人々に囲まれている事を知った。


 「具合はどうですか?」

 穏やかな低い声が問う。

 春の木洩れ日を思わせる、優しい淡緑色の瞳が見えた。


 「……エリエーヌ……?」

 「いいえ、【エレアヌ】ですよ」

 寝ぼけた声で呟くリオに、女性的な青年エレアヌは微笑んで答えた。


 「……ここは……?」

 僅かに顔を動かして、リオは周囲に視線を彷徨わせる。

 見覚えのある天井のレリーフ、白い石壁。

 目を潤ませて見つめてくる、宝石の様な髪と瞳をもつ人々。


 「……神殿に……帰ってこれたのか……」

 リオは、ホッとした様に呟いた。


「必ず戻ると約束されたではありませんか」

 いつもの穏やかさを取り戻したエレアヌが、溜め息混じりの声で言う。


「リュシア様が亡くなる前に言った言葉を、リオ様からも聞かされた時は焦りましたよ」

 優しいまなざしが、フッと翳った。


「……これからは、生命に関わるような無茶はしないでくださいね……」

 淡緑色の瞳から溢れ出た水晶の様な滴が、その顔を見上げるリオの頬に落ちる。

 リオは、エレアヌの腕に抱かれている事に気付いた。

 すぐ横には、右腕でしきりに目をこすっているシアルもいる。

 周囲には、ラーナ神殿に住む白き民全員が集まっていて、少しやつれた顔に安堵の笑みを浮かべていた。


「……心配かけてごめん。それから、ありがとう……」

 エレアヌの腕の中で、リオは微かな笑みを浮かべる。

 命を落としかけた自分を救ってくれたのは、僅かながら癒しの力をもつエレアヌと、エレアヌに感情を同調させた人々の祈り。

 それは後に【祈りの力メランテ】と呼ばれる奇跡だった。


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