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第26話:薔薇園の情事

「サキのときは反応が無くて残念だったから、使う花を変えてみたよ」


 レビヤタが囁く。

 ずっと狙っていたと言うが、一体いつからなのか?

 せっかく手に入れたサキを湖面に浮かべて釣ろうとしたものは、どうやら僕だったらしい。


「何をされているか分かるように、意識と感覚は残してあるからね」


 サキを襲うPVと同じことを、レビヤタは僕を相手に始める。

 抵抗できないのをいいことに、奴は存分に愉しんでいた。


「サキのここは未通だったけど、君はどうかな?」


 レビヤタの片手が、今度は体内への入口(どこかは御想像に任せる)を探る。

 奴の一部が、獲物の中に入っていった。

 僕を手に入れたと喜んでいるようだけど。

 残念ながら、それは偽物だ。


「さあね? そいつの恋愛事情なんか知らないよ」


 僕はレビヤタの後方に立ち、そう言ってやった。

 変態への対策はバッチリだ。

 PVと同じことをされた者は、本物の僕ではない。


「?!」


 声に振り返ったレビヤタが、目を見開いて驚く。

 レビヤタはこちらを見て、信じられないって顔しているよ。


「生憎と、ゴブリンの情事には疎いんでね」

「な……?!」


 僕は悪い顔しながら言ってやった。

 レビヤタは驚愕して、さっきまで行為に及んでいた相手を見る。

 草の上に横たわる相手が違う姿になったことに気付いた彼は、ヒッと短い声を上げる。

 彼が嬉々として行為に及んでいたそれは、ゴブリンと呼ばれるしわくちゃで醜悪な顔の魔物だった。


「いつの間に……」

「お姫様抱っこされる辺りから」


 思考がフリーズしかかるレビヤタ。

 僕は悪戯が成功した子供のように笑ってみせた。


 ファーが得意とする回避スキルの1つ、【空蝉の術うつせみのじゅつ】。

 自分と別のものを入れ替えて、危険から逃れるスキルだ。

 僕はレビヤタに抱き上げられた後、ゴブリンと入れ替わって隠れていた。


「薔薇の香りで動けなかった筈だが……?」

「僕はそういうのが効きにくい体質なんだよ。一瞬かかってもすぐ効果が消える」


 僕は根性値が高いおかげで、状態異常からの回復が早い。

 高度な状態異常系でも、効くのは数秒くらいだ。

 薔薇の香りでフラッとしても、レビヤタが抱き上げた時点で治り始める。


 ゴブリンは城の奴隷として使われていた奴を、軽く眠らせて隠しておいた。

 それを風系スキルの転移で僕と入れ替えたのが、レビヤタが色欲の相手にした者。


「そ……ん……な……」


 呆然とするレビヤタは、美しくないものの身体を貪った現実が受け入れられない様子。

 美にこだわる潔癖症の彼は青ざめた顔で白目を剥き、ゴブリンに刺さっているものを抜く余裕もなくブッ倒れた。

 動かなくなったレビヤタに、僕はファーから習ったスキルを放つ。


 光×風スキル:聖なる竜巻ホーリィトルネード


 キラキラ光る粒子が混ざった竜巻がレビヤタとゴブリンと庭園の薔薇を巻き上げ、クルクルと回転させる。

 レビヤタの黒髪が色落ちし始め、白髪に変わったところで竜巻は消えた。

 地面に投げ出された男は、白髪でシワシワの老人になっている。

 血のように紅かった薔薇は、白薔薇に変わって地面に散らばった。

 巻き込まれたゴブリンはレビヤタの上に落下、蕩けた顔で昇天している。


「あれ? ここはどこだ?」


 そんな声がするので視線を向けると、ロボットみたいにぎこちなかった青年がキョロキョロと辺りを見回している。

 レビヤタの精神支配から解放されたらしい青年を置き去りに、僕は翼を広げて空へ飛び立った。



   ◇◆◇◆◇



 レビヤタは物理ダメージや属性ダメージが効きにくい。

 それは、【快楽】という特殊なパッシブスキルを持つから。

 痛みを快感に変えることで、ダメージによる生命力の低下がないという。


 サキとの絆スキル【聖なる慈雨】なら、痛みではなく浄化なのでレビヤタを倒せる。

 それが使えないので、代替として使ったのが聖なる竜巻ホーリィトルネードだ。

 その前に精神的なダメージを与えることで、代替スキルの浄化が効きやすくなる。


 美しいものが好きな奴の弱点は醜いもの。

 どう見ても美しいとはいえない魔物と行為に及んだ過ちは、レビヤタには耐えられない精神ダメージとなった。


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