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第17話ー仲間としてー

シトリナ嬢はハイラムに連れられ、カタフィギオにある、とある一室に入れられたという。そこはカタフィギオで唯一鍵のかかる一角だった。戻って来たハイラムは私とリビウスに頭を下げる。

「申し訳ございませんでした。」

私はリビウスを見上げる。リビウスは落ち着きを取り戻したのか、顔色も良くなっている。

「ハイラムが謝る事ではありません。」

私がそう言うとリビウスも頷く。

「俺もそう思っている。」

ハイラムは頭を下げたまま言う。

「いえ、私の見込みが甘かったのだと思います。」

シャネスから事の顛末を聞いたハイラムは、その姿勢のまま続ける。

「シトリナ嬢はリビウスを見た瞬間、目を奪われていました。それに気付き、更にはミア様の前でリビウスに直接、話し掛けるという行動にも出ていました。皇城内の隠し通路が書かれたものを持ち込んだ事で私も油断していたのだと思います……監視すべきでした。」

まさか誰もシトリナ嬢があんな暴挙に出るとは予想もしていなかっただろう。

「それでも、シトリナ嬢が起こした行動の責任は本人にあります。ハイラムの責任ではありません。」

私がそう言いながらリビウスを見ると、リビウスも頷いている。

「とにかく、今日のところは本人にも反省を促しましょう。私もリビウスも、そろそろ帰らないといけません。」

そう言うとハイラムが頭を上げ、頷く。

「はい、ミア様。」


◇◇◇


ガーランドとヤニックが私たちを囲み、山道を歩く。今日は色々な事があった。リビウスをカタフィギオに連れて行き、カタフィギオでハイラムとリビウスがぶつかり、それがきっかけとなり、リビウスが記憶を取り戻した。私がリビウスを介抱した事で、私の中の力が増幅され、それによってリビウスの胸には何かを示すような紋様が現れた。更に反乱分子の一派が到着し、その中に居たシトリナ嬢がリビウスに恋をしていた事で、彼を手に入れようと秘薬を使ったがその効果が無く、シトリナ嬢は捕らえられた。シトリナ嬢がただ純粋にリビウスの事を手に入れたくてした事なのか、その裏に何か思惑があるのか、それはこれからハイラムを中心に明かされて行くだろう。


山小屋に到着した時にはもう日が暮れていた。シャネスが急いで食事の準備をしてくれているのを、私は率先して手伝おうとした時。

「ミア様はお休みになっていてください。」

そう言ってガーランドが腕まくりをする。

「あなた、お料理が出来るの?」

そう聞くとガーランドが笑う。

「手伝いくらいなら出来ます。」

するとヤニックがそれを見て言う。

「ガーランドの作る料理は美味しいですよ。とは言っても騎士が作る料理ですから、ミア様のお口に合うかどうかは分かりませんが。」

今までリビウスを監視する目的でこの小屋に居たであろう二人の騎士。その二人の騎士を包む雰囲気が変わった事を感じ取る。カタフィギオで起こった事がここでも影響を及ぼしているのだろう。リビウスをもう監視しなくても良いと判断したのだろうなと思うと、何だか嬉しく感じた。


◇◇◇


その日の食事は私、シャネス、リビウス、カーランド、ヤニックの五人で食卓を囲んだ。今まではいつもそれぞれがそれぞれに食事をしていたけれど、皆で食卓を囲むのは楽しかった。いつもよりも美味しく感じたのは私だけでは無かっただろう。

「これからは皆で食事をしましょう。」

片付けを手伝いながら、私が言うと皆が笑顔でそれに応じる。


バラバラだったそれぞれが「仲間」になった瞬間だった。


片付けを終え、湯浴みをする。私の湯浴みを手伝いながらシャネスが言う。

「リビウスを疑うのは止める事に致しました。」

そう言いながらシャネスが少し恥ずかしそうにする。

「えぇ、そうね。彼はもう私たちの仲間だわ。」

そう言うとシャネスが微笑む。

「ガーランドとヤニックも……ハイラムもカタフィギオに居る者たちも、皆、リビウスを受け入れた気がします。」

片付けを終えたガーランドもヤニックも、リビウスに積極的に話し掛け、男同士で何かの話で盛り上がっていたのを見掛けた。それまではこの山小屋でシャネスと二人きりで過ごして来たけれど、思わぬ事でこの山小屋が賑わい始めている。そしてそれを嬉しく思っている。リビウスがこの小屋に来た事で私自身もカタフィギオの者たちとその距離が近付いた事を実感している。


◇◇◇


その日の夜、リビウスが小屋の外に出ている事をガーランドに聞いた。私が様子を見る為に小屋の外に出ると、リビウスはリナリアの咲く丘の上で一人、佇んでいた。

「リビウス。」

呼び掛けるとリビウスが私を見る。その瞳はどこか寂し気だった。

「どうしたの?」

そう聞くとリビウスは少し笑って言う。

「いや、考え事をしていた……」

そう言いながら天を仰ぐように星空を見上げる。私はリビウスの隣に立つ。

「何か気掛かりでも?」

そう聞くとリビウスが言う。

「……俺はここに居て、良いんだろうか。」

そう聞かれて少し驚く。私はここに居るシャネスもガーランドもヤニックも、リビウスを受け入れて仲間だと認識したと思っていたし、私自身もそうだったから。

「何故、そう思うの?」

そう聞くとリビウスが悲し気に笑う。

「俺はこの国の偽の英雄として、皇都では名前も顔も知られている。今日来たシトリナ嬢のように、俺の事を知っている者たちが、この先、きっと出て来るだろう。」

リビウスが私を見る。

「それに皇帝がきっと俺を探している。追手がここへ来るかもしれない。俺に瀕死の傷を負わせた者たちが。そうなればミア、君も危ない。」

確かにそれは懸念事項ではある。でも、と思う。

「私はね。」

私は話し出しながらそんなリビウスに寄り添う。

「今日、あなたをカタフィギオに連れて行って良かったと思っているの……」

リビウスの手が私の背中に添えられる。

「今日はカタフィギオで色々な事があったでしょう?」

そう言いながらリビウスを見上げる。リビウスが記憶を取り戻し、ハイラムと和解し、皆が彼を受け入れた。シトリナ嬢が思わぬ行動には出たけれど、それによって私が知り得なかったリビウスの過去を知る事が出来た。

「今日あなたを連れて行った事で、ここに居るシャネスもガーランドもヤニックも、あなたと距離が近付いた。」

私はリビウスを見上げたまま、その胸に手を添える。

「そしてそれは私もそうだわ。」

リビウスの手が私をそっと抱き寄せる。私が寄り添うと私が触れた箇所から光がほんのりと溢れ出し、リビウスの胸にある紋様が光を帯びる。それをなぞりながら言う。

「これに何の意味があるのか、私にも分からないけれど、それでも私はあなたが仲間としてカタフィギオの皆に受け入れられて嬉しく思っているの。」

リビウスを見上げ、聞く。

「記憶を取り戻したあなたは、私たちと志を共に出来る?」

リビウスは私を見下ろし、微笑む。

「今日、その事に関して、俺も考えた。」

リビウスがそう言いながら私の頬に触れる。

「あの炎帝がこの国を治めるのでは無く、ミア、君が治めた方がこの国はきっと良くなる。」

リビウスの触れた頬がくすぐったい。

「俺がその手伝いを出来るなら、そうしたいと思う。」

そう言われて私は微笑む。


◇◇◇


目の前ではまた一人、炎帝ロベルトによって、焼き殺されて行く。

「見つからないなどと、そんな報告の為に俺の貴重な時間を使うんじゃない!」

炎帝ロベルトがそう言い放つ。その手の平の上には赤く激しい炎を燃えたぎらせている。


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