「で、これはどうする?」
「うーん、まさかこんなことになるなんてなぁ」
俺のミントは砂漠の街全体を覆った!
しかし人々は最初こそ景観を損ねたミントに対してクレームを入れると思っていて身構えていたのだが、逆に快適さと過ごしやすさで感謝をされたほど。
その前にミントの凄さをこれでもかとアピールしていたのが良かったんだな。
けど、しばらくして別の問題が浮上した。
それが山賊や盗賊から非常に多くちょっかいをかけられるということだった。
今までどうやって凌いでいたかと思ってたら、砂を積み上げて物理的にカモフラージュして景色と一体化し、王城さながらの見回り体制で防衛を成し遂げていたんだと。
そこで俺のミントで住みやすくなった反面、ランドマーク化して遠目からでも発見できるようになってこの有様となった。
最初こそは小さな野党が頻繁に、程度で済んだんだけど。
うちの商会が大儲けしてるなんて噂が流れでもしたのか。
どんどん集まってきて、今や大所帯になりつつある。
そんなこんなで俺たちは領主様から出頭要請を受けてこの作戦会議室で顔を合わせていた。
集まったのは錚々たる顔ぶれ。
まだ若い領主に、専属の騎士30名。
そこに天然の要塞を構えるための魔法士30名。
勇者のユウキ、聖女のシズクお姉ちゃん。
それと聖女さまお守り隊こと教会関係者5名。
そこに紛れ込む一般市民の俺。
さっきから場違い感がすごい。
なんでこんな場所に一般人が紛れ込んだか?
普通にランドマーク化した責任の所在が俺にあるからだ。
その上でユウキから俺ならなんとかできるかもしれないとの申し出があり、出張ってきたのである。
その護衛として元勇者パーティのアスタールさんに、二つ名持ちの冒険者カインズパイセンがついてくる。グスタフさん? あの人は違う仕事に回ってくれてる。
とりま、住民の安全を第一にミント商会の潤沢な資金を使って避難勧告をね。
「とりま、陽動でミント列車を突撃させてみるか」
「コウヘイ様、流石にそれは」
「コウヘイと言ったか。何かする前には私に一言申せ。私にも民を守る義務があるのだからな」
「あ、そっすね。ユウキ、ちょっといいか?」
「何かな?」
「とりあえず傍聴結界張ってくれ。あとシズクお姉ちゃん」
「どうしました?」
「じっとしてて」
「くすん」
子犬みたいに役割を割り振ってくれるのを期待してたのか、肩透かしを受けて落ち込んでいるシズクお姉ちゃん。
いや、実際に俺のミントは聖女結界の上位互換だからさ。
変に比べて落ち込まれないかの方の心配をね?
「コーヘイ。お姉ちゃんも一応聖女だから、その。優しくしてやって?」
ユウキが久しぶりの再会なんだから配慮してやってくれという。
「ごめんね、シズクお姉ちゃん。けど今はそれぞれ立場が違うから、あの時みたいに軽率に頼める立場じゃないし、ほんとごめん」
「いいんですよ、植野さん。お気持ちだけ伺っておきますね。今の私はもう教会所属の聖女ですから。ですが、たまには頼ってくださってもいいですからね?」
ここにきて母性全開である。
教会関係者はそれだけで感無量って感じだけど、単純に俺のミントがシズクお姉ちゃんの上位互換だって事実を教会関係者に明るみにしたくないだけっていうか、そう言う配慮ってるじゃん?
完全に勘違いされたままで話は進む。
「それではお話を進めますね。あ、ここで見たことは他言無用で。その上で聞きますけど、ここでミントを出しても大丈夫ですか?」
「緊急時だ、許可しよう」
おし、言質とったど。
俺は両手からミントを生み出して、その場で加工。
ミントの紙束とペンを生成した。
「コウヘイ、それは?」
「一応内緒ってことで。まずは、ここが俺たちのいる砂漠の都市だとします」
周囲の注目をバッサリ無視して紙にペンを走らせていく。
そこに俺たちの陣営と、相手側の陣営をそれぞれ置く。
人数とか、規模とか、そう言うのだ。
続いて小さなミニチュアミント列車を中央に走らせる。
盗賊の溜まり場発、イシュタール着みたいな図式だ。
俺のちょっかいはこれで相手が降伏したと勝手に思わせることにあった。
「それが、ミント使いの切り札か。しかしこれで相手は乗ってくるか?」
「普通であるならば警戒する。だが、用途が割れれば相手はそれを奪おうと企む。そうだな、コーヘイ?」
パイセンの指摘に俺は頷く。
「さっすが『舜滅』のカインズ」
「茶化すな」
「これはただの時間稼ぎで、注目をそこに寄せてる間に、住民を安全地帯に逃すのに特化します」
「この場所を捨てるのか?」
「まぁ領主様そう結論を急がないで。コウヘイ様、説明をするときは微に入り細に入り説明を付け加えることが大切です。例えばこのようなルートを取ったとしましょう」
領主様の懸念に、アスタールさんが話を付け足していく。
俺の書いた大まかな立ち位置に、住民の逃走経路を付け足した。
それだけで狙いが大まかに判明する。
「なるほど、この乗り物で住民が逃げるのを向こうは防ぎたい。あわよくば人質にとってこちらに言うことを聞かせたいと考えるか?」
「私が賊の頭領だったらそうします。ですので」
さらにペンを走らせる。
俺のミニチュアミント列車が盗賊の前まで来たら奪わずにはいられないと言う選択肢が出てくる。
「乗っ取られたらどうするのだ?」
「いえ、これは俺が制御してるので。そして賊はこれがどういった仕組みで動くかの理解がありません。金蔓が逃げていく。だから捕まえたい。そのために乗り込みますが、そこで俺がそれを動かします」
「側から見たらうまく制御ができて相手を追っているように見える?」
「まぁ間違いなく乗ってない奴はそう見えるな」
俺の説明にカインズパイセンが加わって、領主様へ説明を促す。
「でも耕平。それだと賊は余計勢いを増すんじゃないか? こちらは防衛一択だし、相手に余力を与えるのは」
「ユウキの懸念も尤もだ。だが、俺はことミントの扱いに関しちゃ、誰にも負けないと自負している」
「それはそうだけどさ」
「ちなみに逃げていただく平民はうちの従業員で、なんならウォール領に帰るだけ」
「我々は置いていかれると?」
どこか落胆した領主様に、俺は顔の前で手を振った。
「逆、逆。これはあくまでも賊にそう思わせるのが目的で、なんならうちの従業員を囮に使って住民が逃げたと思わせる作戦です」
「まぁ、そんな便利な乗り物があったら誰だって使いたい。俺だって使いたい」
カインズパイセンが自分の欲を全面に出してくる。
「そうだよ、耕平。オレたちにもしよう許可をくれよ」
「その話はまた後で。それで領主様、わざわざそんなことを賊に見せつけたら、目の前にある列車を手放しで放置しますか? 俺ならしません」
「私もしないな」
ヨシ、ようやく話が進みそうだ。
「まぁこの列車の制御は俺が担ってますので、最初こそそのウォール領行き列車に並走するんですが」
俺はニッコリ笑う。
「……まさかお前!」
カインズ先輩が道中で通った崖や大運河を思い出して顔を青くする。
正解!
俺は賊をそのまま崖下にボッシュートして行こうかなって考えてる。
他人のもの略奪してる奴らに生きる価値ないでしょ。
けど警戒心を抱かせないためにも、最初こそ普通の列車アピールは忘れない。
これぞ隙を生じぬ二段構え!
最初は一般的な列車だけど、目的の場所が近づくなり途中で見晴らしの良い全面パノラマ(天井・壁安全装置なし)を展開しようかなって。
自分の手で懲らしめるのもいいけど、悪人なんて湧いて出る存在いなくなったって大丈夫でしょ。
俺の思惑を顔面蒼白にしたカインズパイセンが述べる。
それを聞いた全員が『こいつ正気か?』見たいな目で俺を見てきた。
なんだよー無力な俺なりのアイディアだろ?
賊なんて見逃したところでネズミみたいに増えてくもんだし、商売人やってると一番関わり合いになりたくない、他人の成果を奪って笑って暮らすようなろくでなしだぞ?
俺のは正当防衛だし、なんだったら褒められる行為じゃないか?
「そ、そうか。従業員を囮に、我々の街を助けてくれるのは感謝する。だがそれではやられっぱなしの砂の民の溜飲は落ちない。そこでどうだろう、コウヘイ殿は数を減らす役を担ってくれると言うのは!」
「あー、それでもいいっすけど。俺みたいな一般人を戦いに巻き込むのは勘弁してくださいね?」
再び、ここまでやらかしておいていまだに一般人枠に入れると思ってんのか? みたいな目で見られる。すいませんねぇ、こちとら根っからの小心者で。
戦える力がないのに表に出るとか無理なんですわ。
その代わり、サポートは任せてくれよな!
「とにかく、耕平はオレたちが守る」
「植野さんは私たちが守りますから。行きますよ、みなさん」
「「「ハッ、聖女様!」」」
「爺さん、うちの会頭様もお守りするぞ? あれが暴れ始めたら店の信用は丸潰れだ」
「そのようですな。しからば、この老骨。少しの間、昔の感覚を思い出すといたしましょう」
それぞれが臨戦体制。
そんなみんなに向けて俺は「頑張ってー」と声援を送った。