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第2話川上彦齋

「えっと、その」

「なんだ、今時の若者ははっきりせんな」

「此処はどこですか?」

「刀の中だ」

「刀の中?」

見渡す限り何もない、こんなことが現実に起きていることが信じられない。

俺は夢を見ているのか?現実では俺は気絶しているのかどうなんだろう。そんな不安を見透かしているように川上彦齋は俺に話しかける。

「安心しろ、此処にいても外の世界では時間は経過していない」

「もしかして心を読めるんですか?」

「まさか、そんな芸当はできんよ」

「じゃあなんで分かったんですか?」

「此処にくる人間は皆同じ顔をする」

こういう顔をすると言う事は以前にもこう言うことになった、人がいるのだろうか?

「所で最近の世はどうだ?」

「最近ですか」

まさか江戸時代や幕末の剣士とこうやって、話せるなんて思いもよらなかった。

「まあ、拙者も随分と人と話してないもんでな」

「その割には、話し方が現代みたいですね」

「あの世とは面白い所でな、色々な時代の人間が集まっているんだ、だから自然と話し方も変わるというものだ」

「そうなんですね」

あの世とはなど考えた事もない。どんな所なのか気になるし、先人達が今どのような所で暮らしているのかが気になった。

「川上彦齋さんはいつから此処に?」

「彦齋でいい」

「分かりました」

「拙者はもう随分前だな」

「あの?」

「どうした?」

「あの世ってどんな所ですか?」

「先ほども言ったが色んな人がいてな、そこで色んな時代の人と接したわい。」

「所謂、天国や地獄なんかはありましたか?」

「無いな、皆平等に生活を送っていた、ただ多少のペナルティなんかはあったがそれ以外はなんでもあるし非常に楽しい場所だったな」

「楽しいですか」

「ああ、拙者は人斬りの時代だった故、心の生理がつくまであの世にいたな」

「心の整理?」

「ああ、拙者はあまりにも人を斬りすぎた。本来なら生きていても良い人もそうでない人もだから生まれかわりはできないと言われたが心の整理がつけばこのようにこの世に戻りこの世界を見ることがつい最近許された。」

彦齋さんの話は余りにもスケールがでかくて、自分では処理できないくらいな話だった。

そもそもがファンタジーなこの空間で混乱しているのに、あの世に地獄も天国もないだなんて、そもそもそんなものが非科学的な上、存在しないなんてありえるのか?

それを素直に信じることはできない、でもそれはいつか割り切って生活できる時が来るのだろうか?だとすればもっと彦齋さんと話したい、この人とお茶を飲んでゆっくり話せることはいつか叶うのだろうか?

そんなことを考えていると彦齋さんの目が変わった。

「おい」

「はい?」

「外が騒がしくなるぞ」

「え?」

「やはり、どの時代にも良からぬことを考える輩はいるようだな」

「それはどう言うことですか?」

「外に出れば分かる」

「どうやって出ればいいんですか?」

「この空間には拙者がよいと思う人間や素質がある人間しか入れぬ、それ故に拙者がお主の魂を外に出せる」


そう言われて、気づけば見慣れた教室が前の前に出てきた。

「もっと色んな話しをしたかった」

そう小声で言いながら、刀を先生に私に戻そうと立ち上がろうとした瞬間、女子生徒の悲鳴が聞こえた。

「なに?」

「全員座れ!!」

教室に日本刀やナイフ、拳銃などを持った集団が入ってきた。

「なんだお前達は?」

日本史の先生が正体を聞いた。

「新維新志士だ!!」

新維新志士、現在の政府に反感を持ち反旗を翻そうとする集団。

彦齋さんは彼らを感知したのだろうか?そんな事ができるのだろうか。

「此処に刀があるだろう、それを差し出せ」

そこで俺の心臓はキュッとなった、彼らが言っているのは今まさに、俺が持っている刀だろう、いや、それ以外ない。

「それがなんで必要なんだ?」

「お前は知らなくていい、いいから早く出すんだ」

俺は全く身動きが取れない、まるで体と地面に接着剤が付いているみたいだ。

それを一瞬見た日本史の先生が一言、追加する。

「その刀を出せば、生徒に危害は加えないのか?」

「ああ、我々は刀があればいい、だが少しでも妙な動きをしてみろ。手当たり次第に一人ずつ殺す」

「分かった」

日本史の先生は俺の前に来る、そして俺の手にある刀を優しく受け取ろうとする。

だが、俺の手からこの日本刀は離れない。

「神崎君?」

「え?いや、その」

「早く渡すんだ」

「じれったいなー、早速一人、殺すか」

「ちょっと待ってくれ!!神崎君、早く!!」

そんな事言われても、俺の手は動かない。

「もう良い!!お前から殺す」

そう言うと新維新志士の一人は俺の隣の女の子を日本刀で斬りつけようとした瞬間。

キン!!

気づけば俺は彦齋さんの日本刀で新維新志士の日本刀を止めていた。

なんで、このように動けたのかは、分からない。でもこうしないと後悔すると一瞬で思い動いた。普段は優柔不断で考え過ぎる程なのに今だけは頭より体が先に動いた。

「おいおい、ヒーローのつもりか?かっこいいな。でも、そのちっぽけな正義感と自分の所為で死ぬかもしれないと思い行動するのがお前をあの世に行くことが決まったな」

俺は今何をしているのだろうか。確かに俺にはこの状況を打破する力も頭もない、なのに俺は刀を握って後ろにはおびえ切って身動きが取れない女の子がいる、どうすればいいのだろうそう思った瞬間頭の中で彦齋さんの声が響いた。

[そうか、お主は誰かの為に剣を振るうのだな、本来この時代には必要ない力だ]

[え?]

俺は一瞬のことで理解できないが頭の中で疑問を放つ。

[お主は弱虫なくせして勇気があるな、よし、拙者の力を使え]

[使えって言ったってどうやれば]

[自ずと分かる、お主は拙者が選んだ侍だ]

そう言った瞬間、刀の錆びが段々と取れて行く、そうして綺麗な青白く輝いていく。

「刀が!!お前みたいなやつが選ばれたと言うのか?!」

新維新志士の人間がそう言ったがその意味は分からない、でもその非科学的な事態に教室の皆が驚いていたそして、次第に体に力が湧いてきた。そして体が軽く感じた。

[刀を振るえ、弱気者の為そしてお主の信じる正義の為にこの無銘を!!]

そう言われた瞬間に体が勝手に動いていく、日本刀を相手に向ける。

「今選ばれてばかりで、お前に何ができる!!」

そう言い新維新志士の一人が切りかかってくる、でも今の俺には動きがゆっくりに見える刀を避け、刀を振り斬る。

「あーー、腕が!!」

俺は新維新志士の一人の腕を切りつけた。

「腕で済んで良かったな」

「なんだと!!お前らも見てないで銃でもなんでも使ってこいつを殺せ!!」

そう言うと教室にいた数人の新維新志士がこちらに向かい、銃で照準を合わせて銃撃してくる。

俺はどうかしてしまったのかと思うほどに、拳銃の銃弾にすらも遅く感じ、全ての銃弾を斬り伏せた。そのままナイフや刀を持ち向かってくる新維新志士達を交わして斬りつける。

新維新志士達の汚いうめき声と共に一人新維新志士の中で一歩も動かなかった人がいた、恐らくこの中でのリーダーが声を出す。

「その辺にしろ」

「しかし」

「もうこいつは選ばれてしまったんだ、今更どうもならん」

「しかし、こままで、は我々の威信に関わります!!」

「もうやめとけ、と言うことでは意見は一致するな」

「何を!!」

「全員軽傷で済んでいる内に帰れ」

「こいつ、いい気になりやがって、クソガキが!!」

「国を変えようとする、お前らの意志は尊重する。だが変える方法が力では何も変わらん。例えそれで変えられたとしても、時代が逆戻りするだけだ、それに力で変えられるのならば今日本は武装し武装国家になってはず、そうでないのならそれが答えだろう」

新維新志士達は何も言えないと言う感じで一人また一人と教室を出ていく。

そうして最後に出て行ったのはリーダーだった。

「お前、名前は?」

「神崎 彦真」

「そうか、良い名だ。だが口では幾らでもき綺麗ごとは言えるだろう、我々は何も力だけで国を変えるつもりはない、だが長年言葉で変えようとしたがそれが叶わぬからこうして武力行使を果たしている事を忘れるな」

「例えそうだったとしても、力なき者に力をぶつけるのなら俺は幾らでもお前らの前に立つ」

「そうか」

そう言って、最後にリーダーも出て行った。


「はー」

俺はそのまま、力が抜けた様に地面に倒れこむ。

「神崎君大丈夫か!!」

「先生、これが大丈夫だと思いますか?」

「でも、かっこよかったぞ」

「もう、動けない」

「彦真!!お前あんなに俊敏に動けたのか?」

光一が近くに来て背中を叩いてくる、よく教室を見回すと女の子は皆、輪になって泣きじゃくっている。男子達も腰が抜けて動けない者が多数いて、何とかこの一件を片付けられたと関心していた。

彦齋さんにお礼を言おうと、刀を見ても何も起きない。

試しに剣を鞘に納めたり、出したりしても反応はない。どういうことなのだろうか?

でも、確かに変わらないものはこの日本刀が錆び付いていた事から綺麗に青白くなっていることだけだった、これが先ほど起きた事が夢でも妄想でもなく現実に起こった事だと理解させる事だった。


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