「なんで先生がここに?」
「私も呼ばれたんだ。理由までは聞かされていないけどね」
先生の声は普段より少し固く感じた。無理もない、この状況じゃ。
こんな場所で理由も知らないのに入れるなんて凄いなと思ったけど、よくよく考えたら自分も同じ立場だった事を思い出した。
「先生」
「どうしたの?」
「他に誰かいなかった?」
「それならそこに」
「え?」
キッチンで紅茶を淹れている男の人がいた。キッチンから紅茶の香りが漂ってきた。
「やあ。君が川上彦齋に選ばれた子だね」
声の主は、童顔の中年男。所作は柔らかいのに、目だけが鋭かった。
年齢は中年だが顔つきは中性的で童顔なので年齢はそう高くないと思う。
「はい?それより貴方は?」
「僕は坂本直哉だよ」
「あの?神崎君はどうなるんですか?」
「詳しくは話せないが先生、貴方には一つ頼み事があるんだ」
「なんですか?」
「川上彦齋の刀を国に渡てほしいんです」
「それは構いませんが」
「じゃあそういうことで」
なんだか冷たい人だなと思った。頼んでいる側なのになんかドライと言うか、一方的な会話だなと思った。
「それで私を呼んだんですか?」
「そうです、でも正式に言うなら国ではなく神崎君にですね」
「僕に?」
「うん、詳しくはまた話すから」
「国の管理になるのはまだ分かりますがなぜ、神崎君に?」
「それは企業秘密です」
「では、神崎君が刀を握った瞬間に綺麗になったのも話せませんか?」
「それも話せません」
「そうですか、分かりました」
「では、先生は入り口から来た通りにお帰りください。それから此処のことは誰にも言わないように」
「分かりました」
先生は部屋を出て行ったが、先生の後ろ姿は小さく、それを見ると何とも言えない感情になった。そして、力を貸してもらう側からの話し合いとは思えない程に一方的な話し合いだった。
「これで本題だ、君はこの刀をどう使う?」
坂本龍馬と言う男性は彦齋さんの刀を持ちこちらに手渡そうとしていた。
「俺は、正しい為に力を使いたい」
「それが例え人を斬る事になってもか?」
人を斬る?確かに刀なんだ、もしそれで人を斬る事になることは当然だろう。
殺す──その言葉が胸に棘のように刺さる。
あのとき斬ったのは腕。それだけでも手が震えた。
だが、もし誰かの命を止めることで、誰かを守れるとしたら──。
この前は腕を軽く斬っただけだが、それでも人を斬り殺すとはわけが違う。
それでも。
「俺は、間違っている人を止めたい。どうしても止まらないなら──刀でも」
「人を斬ってでもか?」
「……それでも、自分の信じた正しさを通したいんです」
「傲慢だね、でも川上彦齋が気に入った理由も分かる気がする」
坂本龍馬は俺に刀を手渡した。
「ありがとうございます」
「それで、これからの話だけど。君はこれから皇護に入ってもらう」
「皇護?」
「新維新志士と戦う組織のことだ」
「でも、そんな組織なんて知らないですけど」
「まあ、秘密裏に作られたからね」
そんな組織あればニュースでも直ぐに報じただろうし、でも都市伝説系をネット動画に上げている人達がそんな存在を知ったら動画のネタにするはずだがそんな動画には出会ったことはない。
「皇居の下にこんな場所を作るくらいだ、それほど政府は秘密にしたいってことさ」
「皇居の下にあるってことは、政府が作ったんじゃなくて…」
「そうだよ、皇護は国、正式には天皇直属の新維新志士対策の組織だよ」
「天皇」
「そうだ、君はこれからこの日本刀、【無銘】を使い新維新志士と戦ってもらう」
「無銘、それがこの日本刀の名前なんですね」
「うん、嘗て川上彦齋が愛した。そして最後の一振りだ」
「分かりました」