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第10話村正

それから龍馬さんが、スーツケースに入った村正の模造品を持ち出した。

「あの?」

「どうした?びびってるのか?」

「いや、そうじゃなくて」

「なにか気になることがあるんだね?」

「はい、模造品をスーツケースに誰が入れたんですか?」

「警察官だよ」

「その人は村正に乗っ取られなかったんですか?」

「ああ、厳重に持ち出したけど持った瞬間に暴れだしたよ」

暴れだしたって事はどんなに厳重にしていても、大変なことになる。

「これ本当に大丈夫なんですよね?」

「まあ、物は試しでってことで」

「そんなー」

「ほれ、覚悟決めな。男だろう」

「分かりましたよ、持ちますよ」

模造品を恐る恐る手に取る。

手に取った瞬間、真っ暗な空間に俺はいた。

「どこだ?ここ?」

「お前は誰だ?」

「え?」

見回しても誰もいない、彦齋さんと初めて会った時と似ていた。

「誰だ?」

「誰が話しているんだ!!」

「お前は俺を使えるのか?」

使える?どういう事だ?

「お前は誰なんだ?」

「俺は村正、偽物の刀でも俺と接触できるなんてお前は何者だ?」

「ただの学生だ」

「学生か、でもこの刀を持つのなら求めるものを渡してもらうぞ」

「馬鹿か、俺は妖刀なんかに乗っ取られないぞ!!」

「馬鹿はお前だ。この刀を持つ限り求めるものを渡してもらう!!」

「ここから出せ!!」

「良い、だが俺の求める物を出せ」

「求める物?」

村正が求める物って人間の血か?でもそれじゃあ俺に死ねってことか?

「こいつは誰にも渡せないな」

この声、彦齋さんだ。でも何処から?

「ここだ」

声のするほうは後ろだった。

「え?」

振り返ると手から腕までが真っ白だった。

「この手を引っ張れ!!」

「分かりました!!」

俺はその手を引っ張ってその先には、真っ白の空間がありそこから外に出られた。

「おい!!」

「え?」

「何度も呼んだんだぞ!!」

「なにかあったのかい?」

龍馬さんが気にかけてくれた。

「村正と話せました」

「村正と?!」

一斉に皆の注目が俺に集まった。

「村正と何を話しただ?!」

「村正は何かを求めていました」

「求めているってことは血か?」

「さあ、どうだろう」

龍馬さんは何か知っているような感じだった。

「さあ、行こうか。呪いを止めるために」

「おう!!」

皆、皇護から出てエレベーターで上に行った。

「あの?龍馬さん?」

「何かな?」

「俺に村正を持たせる意味があったのでは?」

「さあ、どうかな?」

龍馬さんは何か知っている、でもそれをはぐらかしてエレベーターに乗って上に行ってしまった。

後を追いかけて、エレベーターで上に向かう。

「遅いぞ新人!!」

「すいません」

修二さんの運転で車に乗って移動する。

「あの?」

「どうしたの?神崎君」

いきなり、本名で呼ばれて少し違和感を覚えたがそれもなれなくてはいけないのだ。

「えっと、何処に行くんですか?」

「うーん、とりあえずお寺かな」

「お寺?」

「うん、正福寺って所」

「そこのお寺、周辺に村正の模造品があるかもって通報があってね」

沖田さんが補足してくれた。

周辺ってことはまたこの刀を手に取らないといけないと思うと、ぞっとする。

場所に向かう途中、皆は各々スマホなどを見て時間を潰していたがこの空気感が皇護の空気感なのだろう、俺は彦齋さんの刀を見つめていた。そして刀を握り鞘から少し刀を抜く。

「おう」

「え?入れた?」

「やっと自分から入れたか」

「どういう事ですか?」

「俺達、偉人の空間に入るには物に触れて魂が共鳴しないとこの空間に入れない」

「でも龍馬さんは分からないって」

「まあ、各々俺達みたいなのは、気まぐれな性格だからな。条件は違うのだろう」

「じゃあ彦齋さんの場合は?」

「それは共鳴が起きれば入れるよ」

「えっと、共鳴って具体的には?」

「それは、使い続けることだな」

使い続ければいいってことか、それは付喪神てきなものなのだろうか?

「それはそうと、お主よ」

「はい?」

「はい?じゃない」

何か怒っている様子だけど俺には何か分からなかった。

「紛い物の中に勝手に入るな」

「紛い物って村正のことですか?」

「村正?」

「はい、俺は村正の模造品に触れたんです」

「うーん」

今度は何か考え込んでしまった。

「拙者の知る限り、一度偉人に認められたらその他の偉人の力は借りられないはずだ」

「え、じゃあなんで俺は村正に」

「分からん、あの世で貰った情報の中ではこの事態は知らない」

って、ことは異常事態なのか?

「まあ、考えても仕方ないが非常にまずい点がある」

「まずいこと?」

「その模造品で村正の中に入れたことだ」

そう言えば本物じゃないと付喪神と化している偉人としては説明がつかない。

「模造品ごときで干渉できるとは、お主はやはり不思議なやつだ」

「村正の力が強いってことですか?」

「さあな、どちらかと言うとお主になにかあるのかもな」

「え?俺?」

「まあ分からないことを考えてもしかたない。ほれもう着くみたいだぞ」

「分かりました」

瞬きをすると現実に戻ってきた。

「さあ、着いたよ」


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