「ここは……?」
「見たところ、普通の一軒家だね」
「でも何か、手がかりがあるってこと?」
沖田さんが村正の何かしらのヒントがあるのかと言ったが、此処はごく一般的な市街地だった。俺にも何があるのか見当もつかなかった――が、そのとき、手にしていた村正が小さく震えた。
「え?」
「どうしたの?」
「いや、村正が震えたんですけど」
「気のせいじゃない?」
「いや、確かに震えました」
皆は半信半疑だったが、ひとりだけ俺の言葉に頷いた。
「それは共鳴だね」
「共鳴?」
「言っただろ?これを持っておけば模造品の探知器になってくれるって」
それが共鳴。
「感知したってことは情報は間違ってなかったってことだね」
俺は村正の振動が一番震える所を探すと、とある一軒家にたどり着いた。
「此処ですね」
「うん、情報通りだ。早速入ろうか」
インターフォンを龍馬さんがポチっと押した。
「はい?」
声は中年の女性のようだった。
「警察です」
答えたのは修二さんだった。俺たちが前に出ると余計に怪しまれる可能性がある。ここは正解だろう。
ドアが開いてそこから出てきたのは、声とマッチしたようで中年の女性が出てきた。
「お待ちしていました」
「刑事の蒼崎修二です」
修二さんは警察手帳を見せながら対応していた。
「あの?」
「はい?」
「そちらの人達は?」
「今回捜査に協力していただける方です」
「そうですか、では中にお入りください」
「失礼します」
「そうだ、神崎君と僕以外は車で待機ね」
「えー」
「分かった」
入りたい沖田さんと全てを理解して動く織田さんだった。龍馬さんが言うのなら何か意図があるのだろう。
俺が残された理由はあまり分からないが、龍馬さんが言うならなにか理由があるのだろう。
そうして俺と龍馬さんと修二さんがこの家に入った。
中は普通の家だが俺の家とは違って、ある程度金持ちの家だと思う。
「来たか」
「どうも、先生」
修二さんが先生と呼ぶ人は、政治家だった。
俺でも知っている最近、強気な政策をしようとしていて世間をざわつかせている政治家だった。
「それで、息子さんが夜ごとに外出を?」
「ああ。それだけならまだしも、血まみれの服で戻ってくるんだ」
「それは心配ですね」
「だからこうして警察である君に来てもらっているわけだが。一緒にいる二人はなんなんだ?」
「今回調査を協力してもらう人達です」
「信頼できるのだろうね」
「勿論、そこは安心していただいて」
「安心って今回外部に漏れることがないようにって話だったはずがだ?」
「我々は政府の人間ですのでご安心ください」
「政府?」
「はい、政府直属で動いている組織なので情報漏洩はありません」
この前は天皇直属と言っていたが、政治家相手では政府直属と言った方が都合がいいのかもしれない。
「本当だろうな?」
「はい、ご安心を」
神経質なのは理解できるが、わざわざ警察を私的に利用するとは、いかがなものかと思った。
話は、修二さんが手動で行っていく。
「それで息子さんである、拓也君は今どちらに?」
「最近、朝から夜まで部屋にいて学校にも行ってないんです」
「お前は余計なことは言わないでいいんだ!!」
「すいません」
なんだか昭和時代の家柄を見ているみたいだった。
「それで、今はご自分の部屋に」
「ああ、一歩も外に出ようとしない」
「それでは外に出なくなった原因は分かりますか?」
「知らん!!」
龍馬さんはこう言う所は妥協しないので、冷や冷やする。
「では、外に出なくなる前と後ではなにか変わった点はありますか?」
「さっきから君失礼じゃないか!!」
遂に怒られた、こう言う人はどこか迫力があるので少し怖い。
「すいません、でも必要なことなので」
政治家さんは「はー」っと溜息をついて話を聞くと言った感じだった。
「では、奥様はなにか気づかれましたか?」
「え?私ですか?」
「はい、あくまで質問なので」
奥さんはちらっと旦那さんの方を見て、答えていいのかと迷っていたが口を開いた。
「拓也は学校では問題は起こさないし家でも、お父さんの後を継ぐと言って毎晩遅くまで勉強していて頑張っていていい子でした。でも最近なにか怖いんです」
「怖い?」
「はい、トイレとかお風呂に行くときにちらっと、顔を見たときに軽く話すようにはしているのですが、答えは返ってこないしなにか殺気のようなものが常にあるような気がして」
「お前の見間違いではないのか?」
「見間違いと言われればそうかもしれないんですけど」
「見間違いではないでしょう、ご自身の子供が殺気という雰囲気を纏っていると言われればこちらも対象しやすいですし」
「対処ってお前、拓也に何をするつもりだ?」
「何って、問題を取り除くんです」
「取り除く?」
「ええ、我々に任せて貰えば少なくても、息子さんが夜中に血だらけで帰ってくることはなくなりますよ」
「本当か?」
「はい、我々に前任してもらえば」
「今すぐなんとかしてくれ」
「分かりましたでは、拓也君の部屋はどちらですか?」
「二階の階段を上がって右側だ」
「さあ、神崎君行くよ」
「え?」
「え?じゃないよこれは君がいないと始まらないんだ」
「どういう事ですか?」
俺の腕を持って強引に引っ張って階段を上がる。
「此処か」
「神崎君、探知器」
「え?あ、はい」
村正をドアに向けると段々と持っている手に震えが止まらなくなる。
「え?これってじゃあ拓也君が持っていたってこと?」
刀は振動でこれ以上持っていられないほどになった、瞬間「パキン」っと折れてしまった。
「うわーーー!!」
中から悲鳴と動き回る音が家に響いた。
「おい!!拓也に何をした!!」
「どうやら強行突破するしかないようだ」
「拓也!!」
奥さんがドアを叩いて呼びかけるが答えは、悲鳴で返ってくる。
「か…あ…さん」
「拓也!!大丈夫なの?!」
「奥さん、ドアを破ってもいいですか?」
ドア中から鍵をかけるタイプで、こちらからではどうしようもなかった。
「はい」
修二さんと龍馬さんはがドアを肩で勢いをついて、押してドアは開いた。
「拓也!!」
部屋の中は、目を疑うほど異様だった。
拓也くんは黒いオーラを放つ刀――おそらく村正を握りしめ、狂ったように暴れていた。
「奥さん、離れて!!」
「でも…」
「なんとかします」
拓也君は奇声を出しながら、窓から外に飛び出て行った。
市街地なので外には人が多いだろう、これを見られたら後が大変になる、急いで外に出ると外は誰もいなく、沖田さんが拓也君を取り押さえて拓也君は気を失っていた。
「沖田さん、村正は?」
「そこに落ちているよ」
沖田さんが言うように村正は拓也君から離れて、数メートル先に落ちていた。
龍馬さんが村正に近づいていた。
「龍馬さん、危ないですよ」
「大丈夫、この鞘に納めば呪いは発動しない」
「そうなんですか?」
「うん、だから君が納めて」
「え?」
「いいから早く」
「えー、分かりました」
言われた通りに村正を持ったが今回は、村正の精神世界に入らなかった。
そのまま、鞘に収めた。
「今回は大丈夫だったね」
「はい、って言うかそんな鞘があるなら最初から言ってくださいよ」
「ごめんね、これは特別製で一度納めたら、その刀以外力を抑える効力が無くなってしまうんだ」
「そうなんですね」
それはそうと事前に言ってくれれば先に、その鞘をだして行動してれば外に出ることなく終わったのでは?と言う疑問は残った。
「拓也!!」
奥さんが出てきて拓也君を抱きしめた。
「奥さん、もう拓也君は夜中に外に出て血だらけになって帰ってくることはなくなりましたよ」
「本当ですか?」
「はい」
「どういう事だ!!」
この怒号は拓也君のお父さんである政治家さんだろう、目の前で息子が明らかに現実とはかけ離れた現象が起きたことで、パニックになっていたがそれは修二さんが収めていた。
それから、俺達は修二さんが話をつけると言うことで先に車で帰った。
修二さんには悪いが、世間に見つかる訳にはいかないことは我々も同じだった。
「あの?龍馬さん?」
「外では坂本でお願いね、神崎君」
「あ、すいません」
「それで、どうかした?」
「さっき、外に誰もいなかったのは……?」
「うん、あれは事前に警察が“ガス漏れ”って名目で、周囲の住民を避難させていたんだ」
織田さんが言った。
「そう言うことだったんですね」
「少し考えれば分かることだ、坂本がああ、言ったってことはなにか考えがあって、村正が外に出た時に対応すると考えた」
「なるほど、勉強になります」
そう言って今後は龍馬さんの考えを少しは考えて行動するようにしようと思った。