「此処は?病院?」
「神崎さん?」
目が覚めると俺は病室のベットで寝ていた。
目を覚ました時に丁度、看護師さんがいた。
「今、先生を呼んで来ますね」
「はい」
それから、先生が来て軽く名前などを聞かれて、異常はないと確認されて。少し一人の時間があった。それから、村正の話はしっかり覚えていて頭で整理していると龍馬さんが病室に来た。
「神崎君、目が覚めたって聞いたから飛んで来たよ。その様子だと大丈夫だったんだね。良かった」
「はい、腕が折れてたり斬り傷だらけですけど」
俺は知らない所で腕を骨折していたり、身に覚えがない箇所に斬られた後があったりと真に満身創痍だった。
「坂本さんこそ大丈夫だったんですか?」
「ああ、右胸の上あたりを狙撃されたけど玉は貫通していたし。それに玲奈が処置すれば直ぐに動けるようになるんだ」
「そうなんですね、沖田さんとか武蔵さんは?」
「皆、今の神崎君より軽傷だよ」
「そうですか」
「何か言いたげな顔をしているね」
「はい、それより坂本さんこそ、俺や皇護の皆に言わないといけないことがあるんじゃないですか?」
「そうか、村正を継いで村正に聞いたのか」
「はい」
「分かった。皆には後で全員が揃ったタイミングで話そうか」
「そうですね」
「それで、村正には何を聞いたの?」
「長いですよ」
「構わないさ、暫くは新維新志士も動けないだろうし」
「まず、黒神朧と俺は数年前に会っていたんですね」
「ああ、朧は村正の呪いを制御できなくなりだした辺りで、このままではいずれ、新維新志士に悪用されることが容易に予想できた」
「だから、嘗て村正を村正で叩き斬り、その後、村正を誰もいない場所で処分した人物がいたことを調べたんですね」
「うん、それが川上彦齋の息子だった。だから、朧は川上の血を持つ人物なら村正を託すか封印出来ると考えた、そして川上彦齋の子孫であり現在、川上彦齋の刀に近い人物が君だった」
「買い被りすぎですよ」
「朧は人を見る目には自信があったからね、君に託したんだ」
「俺がもし村正を持ち暴れるような奴だったら、どうするつもりだったんですか?」
「最初に監視を始めた時は、ひ弱で根性とは皆無な子だったから、心配したんだけどね。まあ、いざとなれば朧が処分するか何処か誰もいない島にでも置いていくと言ったし、でも、それでも朧は神崎君をずっと信じてやってくれと言われていたから僕は二年と半年間、神崎君を見ていた」
「高校に入ってからずっと?!」
「うん、神崎君があの高校に入るって、情報が入ってからずっと」
流石、天皇直属の組織だ。俺の事を調べるのは朝飯前と言うことだったみたいだ。
「それで、君は無銘を持ち川上彦齋に選ばれた。彦齋はずっと誰も選ばなかったのに、まるで運命かのように君を選んだ」
「そうですか、黒神が皇護を抜けたのは、村正事件が起き始めた数か月前だったんですね」
「うん、朧は呪いに充てられていたのは事実だけど、呪いに抗えない芝居をして剣や隼との稽古で敢えて暴力的になったり。事前に村正の模造品で暴れている人間の情報が僕に先に入って、上から処刑の指示が出た時に僕は、朧以外には生け捕りと伝えて、朧がそいつを斬り殺したり、したのを皮切りに、呪いを理由に力を求める素振りを見せて皇護のメンバーには敢えて最悪の印象を与えて皇護を抜けたんだ。その時期が丁度、神崎君が無銘を持つ一週間前くらいの出来事だったんだ」
「それで新維新志士に入ったのは、高杉さんを助ける為?」
「うん、当時、新維新志士の中で情報がこちらに漏れている可能性が浮上して、既に新維新志士の中で参謀として地位を確立していた、蒼一が幹部の中で入った日が浅いと言う理由で怪しまれていたと言う状況だったから、朧が新維新志士に入ったんだ」
それは、俺が村正から聞いた通りの出来事だった。
「坂本さん、あんたは黒神に時間がないことも知った上で潜入を許可したのか?」
「うん」
「なんで!!時間が少ないならもっと他にやさせてあげることが出来たんじゃないのか?!」
「それは妹のことかい?」
「ああ」
「朧の親は新維新志士に殺された、でも妹に刃が向く前に朧が止めたことがあってね。朧はそれ以降、妹の安全を確保する為に別居していた。自分の食費や家賃など、最低限のお金以外、皇護に入る前から働きに働いて、中学生や高校生には多過ぎるお金を妹に振り込んでいたんだ。その生活は朧が皇護に入っても変わらなかった」
「それなら尚更!!」
「朧は限られた時間の中で、親を殺した新維新志士を潰すことだけを考えていたんだ。僕はそれを尊重したまでだよ」
「尊重って」
「それが朧の意思だったんだ、それにまだ朧の遺志は生きている」
「え?」
「朧の残した遺志は君だ、神崎君」
「俺?」
「ああ、君は朧の妹と仲が良いそうだね。よく朧が言っていたよ」
「俺と仲がいい?」
「うん、それに神崎君が無銘を持ったことで朧の運命は決まっていた。自分で新維新志士を潰すことができなくても、自分が悪役になってでも、後輩に力をつけて欲しかったんだよ」
黒神は俺に託したって言うのか、その妹と仲が良い事と村正に耐性がある俺を信じて。
「でも、黒神を殺したのは俺なのは変わりないんだぞ、それなのにその妹になんて言ってやればいいんだよ」
「勘違いするなよ、朧を殺したのは君じゃない」
龍馬さんは初めて厳しく俺に接した瞬間だった。
「それでも、少しでも自分の所為だと思うなら妹さんをどうか守ってあげてくれ。それは朧が最後に君に託したんだろ?だからその遺志からは逃げないでやって欲しいんだ」
「なんで最初から本当の事を話してくれなかったんですか?!」
「朧は全部終わってから、話すと言う約束だったから。それが朧と僕の最後の約束だったからね」
そう言って龍馬さんは病室を出ていった。
龍馬さんが出ていった後に気づいた。
机の上にいつの間にか置いてあった一枚の写真。
そこには黒神ともう一人俺も良く知っている女子高校生が写っていた。
黒神 柚葉。
高校一年生の時にいじめから守ったことで良く話すことになり、もう既に現在はいじめられた影はなくなって、性格は明るくて芯の強い、人の気持ちに敏感で兄の朧とは正反対の柔らかい雰囲気を持っていることもある性格をしていて今は友達も多い。
そんな近い距離にいて兄の事をヒーローだと、自慢していた事も知っていた、なのに俺はそんな大切で親がいない柚葉の唯一の家族を殺してしまった。
俺はこれから柚葉とどう接すればいいのだろうか?
そんな考えで入院中夜も眠れなかった。