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第20話顔が見たい

「彦真、一緒に帰ろう」

「分かった」


俺は退院したから数日経って、学校にも普通に通うことになった。

周りは文化祭が終わってシルバーウイークも終わり、学校に行くのが億劫になり始めた時期だったが俺が入院したことが周りに知れ渡り、心配の声もあった。

入院した理由は交通事故と言うことで、龍馬さんと辻褄を合わせたが。数日前まで朧との激戦があったとは思えない程に現在は大人しかった。

シルバーウイークでのことは大規模テロがあったことが数日間、報道されて世間はその話題でせわしなかった。結局、乗っ取られた人に被害は殆どなく入院する人が相次いだが殆どの人が検査入院で終わり一般人に被害はなかった。


そして、話は現在に戻る。

今一緒にいるのは朧の妹と判明した、黒神柚葉だった。

学校を出て家に帰り道を、二人で歩く。

「柚葉と一緒に帰るのは久しぶりだな」

「そうかも」

高校一年生の時は毎日、一緒に行き帰りを一緒に過ごしていた。

「最近と言うか、前より友達も増えて楽しそうに過ごせてるよな」

「うん、彦真のお陰かも」

俺はここまで来ても、柚葉の顔を見ると。朧の顔と最後の言葉がちらつく、どう接するのが正解なのか分からなかった。

「そう言えばさ、彦真は彼女できた?」

「え?」

久しぶりに帰る時間があるから、何か相談されるのかと思ったが意外な角度での会話だった。

「いやさ、私達の高校生活も最後に差し掛かるし」

「まあ、そうだけど」

「それで?」

「俺はいないけど」

「そうなんだ~」

この会話をするとしたら、もしかすると柚葉はもしかするかもしれない。

「そう言う柚葉はどうなんだよ」

俺はドキドキしながら、聞く。

「私?」

「そりゃ、聞いたんだから聞かれるだろ」

「もし私に彼氏ができたらどう思う?」

「ん~」

俺は返答に困った。正直柚葉は過去にいじめに遭っていてそれを俺が止めたことで交流が始まったがその時は二人で昼ご飯を食べたりしていたが、一か月もしたら柚葉にも友達ができてそっちで昼ご飯を食べだしたし、俺は俺で光一達サッカー部の友達と食べていたが、行き帰りはまだ一緒だったが、二年生の時には別のクラスだったし三年生の時もそうだったので、次第に関係性は廊下をすれ違う時に軽く話す程度になっていたから。一緒にいる現状が久しぶりだったがあの時いじめから守っただけなら、祝福できたが朧の最後の言葉を思うと軽く、知らない男に「はいどうぞ」とはいかなくなる。

「相手によるな」

「意外だ」

「え?」

「だって彦真、私に彼氏出来たら手放しに祝福してくれるかと思ったから」

「まあ、祝福はするけどさ。相手がチャランポランだと柚葉が可哀想だし。特にこう言う年齢だとそう言う関係性もあるだろうし」

「なんだか、変わったね彦真」

「そう?」

「うん、前よりかっこいい」

素直に嬉しいが前はかっこよくなかったのかと疑問になる。

「前はそう思わなかったってこと?」

「そう言うわけではないけど、今の彦真のほうがいいかなって思っただけ」

「で、結局できたのか?」

「なにが?」

「何って彼氏」

「いないよ」

「は?」

「私は彦真に彼女がいるか知りたかっただけ」

なんだそれと思いながら、安心していた自分がいた。

自分が死んだ時、彼氏ができてその相手が良くないとあの世で朧に合わせる顔がない。

「じゃあ、このまま帰るのもあれだし。そこのファミレス行く?」

「いいけど」

俺達は近くにあったファミレスに、入り席に着いて飲み放題を頼んでジュースを置いて、一息ついた。

この先の会話は大体予想はつく。長く共に時間を共有したわけではないが、柚葉は本音を言うのにはこうやって時間をかけてゆっくりした場所で話すことが決まってた。

それに、何を話し。それにどう返してあげればいいのか分からずにこの数日悩んでいたが。俺は既に答えを持っていた。

「あのね、ちょっと相談があるんだけど」

「ん?」

「最近お兄ちゃんと連絡がつかないんだ」

俺は黙って話を聞く

「連絡がつかなくなる前は、いくら忙しくても半日あれば返信があったのに。ここ数日、既読にもならないんだ」

「柚葉はお兄ちゃんについてどこまで知ってるの?」

「どう言うこと?」

「いや、仕事とか」

「詳しくは知らないけど、彦真知ってるの?」

「ああ、柚葉のお兄ちゃんの名前は黒神朧だろ?」

「何で知ってるの?」

「俺は最近知り合った」

「何処で?」

「シルバーウイークに渋谷で」

「お兄ちゃんは大丈夫なの?」

「朧は死んだ」

「そっか」

もっと悲しむかと思ったが柚葉は、ちゃんと事実を受け止めていた。

「お兄ちゃんが危ない仕事をしてたのは知ってたんだ」

「いつから?」

「半年前かな?」

「なにがあった?」

「いや、返信が遅れたり。既読だけだったりしたから。最初は忙しいんだと思ってたけど最近送金される額が途轍もない額だったから」

「そうか」

「うん、私が中学の時に親が亡くなってそれから、お兄ちゃんは高校卒業してから直ぐに働き出して家も帰ってこないけど理由があって、別の家に住んでるのは知ってたけど。私が中学生の時からお金を入れてくれたけど私は殆ど手をつけないで高校に入ってから、バイトも始めたし、正直お金より顔が見たかったよ」

「そうだな」

「お兄ちゃんのお墓分かる?」

「うん」

「教えて」

「分かった」

朧の墓は皇護で埋葬して、両親と同じ墓に入ったと聞いた。

皇護のことは伝えずに、朧の最後は眠るように逝ったことと家族と同じ墓に入ったことを伝えると。柚葉は「葬式くらいさせてよ」と呟きながら涙を流した。


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