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第6話 居場所

 そしていよいよ入団の日がやってくる。私と同じく15を迎えた見習い達が、王城の広場に集まった。そこでも変わらず、好奇の目は無くならない。


 それはそうだ、同期は子供の頃から知っている令息達なのだから。こうして入団式の列にならんでいても、周囲にはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる者達ばかり。


 その頭の中は透けて見えるほど想像に難くない。騎士団に入団するからには宿舎暮らしが義務付けられるし、野営の訓練で同衾する事もあるだろう。奴らはそれを狙っているんだ。


 今までは侯爵家の後ろ盾があって手が出せなかった獲物が、目の前に吊るされている。15という多感な時期であるのも原因のひとつ。姓に目覚め始めて、有り余る欲の捌け口がすぐそこにいるのだもの。


 でもご愁傷さま。


 私は事務官として内勤が決まっている。訓練も必要がなく、主に受ける教習は座学だ。戦場に出る可能性はゼロではないから、最低限の戦闘訓練はあるけど、それも同じ事務官と一緒。事務官と前線に出る騎士とでは役割も動き方も、まるで違うのだから。アイツらと合同になる事は無い。


 今並んでいるのも事務官の列なのに、目先に囚われ気付いていないんだろう。


 そして、これから共に働く同僚達に視線を移す。見知った顔もいるけど、ほぼ初見の男性ばかりだ。何故かと言えば、平和なこの国では騎士の大半はお飾りでしかなく、家格の高い令息達の溜まり場になっているから。そんな中でも、お父様が率いる近衛このえ騎士団は別格で、家柄、実力共に申し分ない人員が揃っている。


 それに比べて事務官は地味で、残業も多い。高貴な血筋をたっとぶ輩が、好き好んで就く所ではなかった。だから私の周囲には男爵家子息が並び、ちらほらと下位の伯爵家子息が目に付く。伯爵家と言っても、その家格は様々だ。歴史の古い家から、近年陞爵しょうしゃくされた新しい家まで、数えれば200を超える。


 我が侯爵家は爵位2位でその数は13。公爵家になると、たった3つと少ない。俗に言う御三家だ。お父様は騎士団に所属しているから、あまり爵位にこだわっていないみたい。身分で騎士団長に選ばれたと言わせない程の実力もあった。


 でも私は、ただ勉強ができるだけ。それも前世の記憶があるからできる事であって、純粋な知識はここにいる誰より少ないと思う。事務官は難しい試験が用意されていて、みんな必死に勉強してきている。それなのに、私はお父様の采配で試験もなく就いてしまった。周囲からは、いやらしい視線とは別種の侮蔑ぶべつを感じる。


 私を性の対象として見る奴とは多く接してきたけど、こういう視線は初めてだ。


(仕方ない……よね。誰が見たって親の七光りだもの……)


 それに加えて、この見た目。化粧をして、髪を伸ばす男はこの国にいない。私の噂は、今となっては国民にも広く知れ渡っている。事務官にとって、情報は重要だ。知らないはずがなかった。


 親の力で入り込んだ、実力もない気持ち悪い奴。それが私の評価だろう。実際、ここに集まる前にも、上官の視線は痛かった。


 これからを思うと、気が重い。小さく溜息を零すと、にわかに辺りの空気が変わった。顔を上げれば、舞台上に頼もしい姿を見つける。


(お父様……!)


 騎士団長の登壇に、周囲の志気がたかぶるのが分かった。ただ姿を見せただけで、この影響力。誇らしい反面、私の矮小さも感じてしまう。つい下を向いた時、お父様のよく通る声が響いた。


「ようこそ諸君。私は騎士団長フィーゲル・バーティアだ。諸君の入団を心より歓迎する。騎士たるもの、くだらぬ風評に惑わず、高潔であれ。諸君らの命は王家のもの、ひいては民のものだ。私情は許されぬ。規律を破る者には制裁を、忠実である者には誉が約束される。しかと心に刻め!」


 締めくくる声と共に腕を首元に上げ、ヴィスハイムの敬礼をとる。みんなもそれにならって、一斉に敬礼の姿勢をとった。お父様は満足そうに頷き、ちらりと私に視線を送る。心配をかけないよう、笑って応えると、颯爽と舞台を降りていった。


 ほっと一息吐いたのも束の間、すぐに別の上官が登壇し声を張り上げる。


「これより、各部署への配属を発表する。担当官に呼ばれた者は指示に従うように」


 その言葉に、緊張が走る。ここでどこに配属されるかで将来が決まるといっても過言ではなく、みんなが次の声を待った。


「では、まずは第1大隊、第1班」


 騎士団は数が若いほど戦場から遠のく。城内や城下の警備が主で、危険が少ないから人気の部署だ。呼ばれた者達は場所も弁えず、バンザイして喜んでいた。それぞれが担当官に連れられて、広場を後にする。


 そしてやっと事務官の番に。


 財務部、総務部、人事部など、次々に呼ばれるけど、何故か私は呼ばれない。どんどん人が減っていく中で、徐々に不安が押し寄せる。そして、とうとう残るは私を含めたったの5人に。


 でも、私以外の人はそれが当然とばかりに胸を張っている。その中に見知った顔があった。あれは確か宰相の……。


「宰相補佐官、ギース・オーグ」


 やっぱりそうだ。現宰相、ユダム・オーグ侯爵の息子。


でも何故?


 栄職である宰相補佐官が、こんなに待たされるのは意味が分からない。どちらかと言えば、真っ先に呼ばれそうなものなのに。


「第1王子補佐官、クベス・シェネム」


 次に呼ばれたのも、やっぱり侯爵家子息。特に秘密にする必要もないと思うんだけどな。


「第2王子補佐官、ファルス・バーティア」


 突然呼ばれてびくりと肩が跳ねた。慌てて前に出ると、明らかにバカにしたような視線が刺さる。


「君があの……ま、いいさ。ついてきなさい」


 役職に関しては、お父様は何も言っていなかった。事務官と聞いていたから、普通に事務職だと思っていたのに。まさか王子の補佐官だなんて。


 混乱する私を他所に、担当官は足早に進む。必至について行くと、王城の一室の前で立ち止まり、皮肉を込めた言葉を投げかけられた。


「君も可哀想に。第2王子は立場が危うい方だ。立ち回りに気をつけるんだね」


 そして開かれる扉。


 その先に、私の運命を変える人が待っていた。

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