伸ばされた未来先輩の手は俺の左手の4本の指を握った。
ギュッと力を加えられる。
握られた手からじんわり先輩の体温が伝わってくる。温かい。ホッとするような‥‥‥‥。
指をニギニギされて、顔をあげて未来先輩を見る。
「指先つめたいね。緊張してる?」口元を緩めながら先輩が言う。
「う、うん。久しぶりすぎて‥‥‥‥。!!!」言い終わらないうちに先輩が指と指を絡めてくる。
ただソレだけで全身に電気が走ったような衝撃がくる。初めての衝撃。これが世間で言うビビビっときたという事なのか?と考えていると腕を引っ張られる。
未来先輩は、自分のほうに引っ張り俺を胸の中にいれギューっと抱きしめる。
背中に回った手から先輩の体温を感じる。
「よく頑張ったな。龍輝。」耳元で言われただけでカミナリに打たれたようなビビビっと衝撃が全身に走るのを感じた。先輩に包まれて目から涙が溢れるのを必死に耐えた。少しでも気を抜くと涙が溢れ落ちる。
先輩が腕をとき向かい合うかたちになり先輩は笑って「泣けよ!」と言って頭をクチャクチャに撫ぜる。
「フッ。いやだよ。」と応えて笑うも大粒の涙がボタボタと落ちていく。
心地の良い空気が流れる。沈黙が続いたが心地よい沈黙だった。できるなら、ずっとこのままでいたかった。だが、そういうわけにもいかずに疑問を投げかけた。
「どうして、ここに??」
「うんー??稜輝に頼まれた。」何でもないように未来先輩はサラっと言う。
兄ちゃんの名前が出てきて、兄ちゃんの居場所がわかるかもしれない喜びと、2人の関係がそういう仲なんだと、やっぱりかと落胆する気持ちで入り混じり涙がとまった。
「兄ちゃん?一緒にいるの?」平静を装い聞く。「いないよ。稜輝は長年の片想いが叶って幸せに暮らしてるよ。」
エッ。思ってもいない答えで戸惑いを隠せなかった。
「‥‥‥‥‥誰と?‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。‥‥‥‥‥‥‥‥やっぱりいい。幸せならいい。」兄ちゃんの相手が未来先輩じゃないと分かった。それだけで俺には十分だった。後は兄ちゃんが幸せなら相手は誰でも気にならない。
未来先輩はニッコリ笑う。「うん。龍輝には申し訳ない。自分だけ幸せになって‥‥‥‥て言ってたぞ。」
責任感が強い兄ちゃんらしい言葉。「兄ちゃん‥‥‥‥‥。」とまっていた涙が、また溢れる。兄ちゃんだけでも幸せになってくれないと困る。俺の事なんか気にせずに幸せに暮らして欲しい。ただ願いは、出来ることなら仕事の相談に乗ってほしいけど‥‥‥‥。無理なお願いなら、それも叶わなくても良い。兄ちゃんが元気で幸せなら十分だ。
また先輩にクチャクチャに頭を撫ぜられる。先輩は兄ちゃんに頼まれて元気にしている事をわざわざ伝えに来てくれたのだろう。ありがたい。そう思ってた時に未来先輩が口をひらく。
「俺をこの会社に入れてお前の秘書にして。」
思ってもいない言葉に俺は数秒絶句した。
俺には、これ以上ないくらい有り難い話だけど先輩にメリットはない。甘えていいのだろうか‥‥‥‥‥。先輩は兄ちゃんに負けず劣らず人望があり統率力があり、かなり頭もきれる。たしか大会社に入社したと5年前に聞いた。正直な気持ちを伝える。
「俺は正直かなり助かる。仕事の選択に行き詰まっている。けど‥‥‥未来先輩はいいの?メリットないでしょ?兄ちゃんに頼まれたからとかなら、もう一度ちゃんと未来先輩自身の事を1番に考えて返事がほしい。」
「おー。お前と一橋商事を大きくしていきたい。それだけが俺の願いだからな。」
いつもふざけている先輩が真剣な顔をしていた。この言葉にウソはないと思った。そう思ったらすぐに
「よろしくお願いします」と、先輩に頭を下げていた。
肩をポンポンとされて‥‥‥頭をあげる。また、自然と涙がながれいた。
「泣き虫か?」っと笑う先輩を見て‥‥泣き笑う。
2人で笑い合った。静かになった時に未来先輩の表情が引き締まる。
「俺はお前だけの味方だから。何があってもこの事だけはわすれるな。」
「先輩‥‥‥‥‥‥。」1番聞きたい事を聞くなら今だ!
「兄ちゃんと‥‥‥‥‥‥その‥‥‥‥‥。」言葉が繋がらない。
「フフフ。兄ちゃんとは??何?」顔をあげると意地悪くニヤニヤした先輩がいた。
「その‥‥‥‥。元‥‥‥‥こ、こ、こい、び、びとだったりする?」はあー。言えた。今は違うと分かったけど過去はどうだったのかも気になる。
「そうだったら、どうする??」
「‥‥‥‥‥‥‥。そうなんだ‥‥‥‥‥。」下を向きショックを受けた事を隠そうとしたが、すぐに未来先輩の声が届く。
「違う。そうだったら‥‥‥だよ!!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」そうだったら?仮定の話?頭が動かず何も考えられない。
「フッ。稜輝とは一度もない。もちろんカラダの関係も!!ただの親友。ずっと。」
「カカカカラダ‥‥‥‥‥。」
「なに赤くなってんの?」先輩は爆笑する。
「カラダの関係があるかは重要でしょ!」っと未来先輩はお腹を抱えて笑ってる。
「イヤっ‥‥‥‥‥。ヤッ。あ〜。」
「まぁ、その質問するって事は知ってると思うけど‥‥‥‥俺もゲイね!!」
先輩があっけらかんと言う。
「‥‥‥‥。うん。」
返事をするだけで精一杯だった。
先輩がパンパンと手を叩き、「仕事の話は明日にして飲みに行こうぜ!」っと腕を引っ張る。
「ちょっ。先輩!待って下さい。明日から社員で働いてもらうために、今できる手続きはしておきましょう!!!」必死に未来先輩をとめる。
「フッ。さすが真面目くん。」っと未来先輩がまた笑う。