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ゴブリン討伐(6)

 ハインツが装備についた汚れを自身で出した水球で洗い流し、ギャザーウォーターの魔法で乾かしている間にアーベルは他の隊へこの事を伝えている。が、やはりここに後衛の基地を作るのが的確と判断し、敵侵入の対策として壁にも防御結界を張ることになった。


「第一部隊は既に奴等の巣の直前ですね。少し急いだ方が良さそうです」


 今回のトラブルで距離が空いてしまった。そこを急ぐために速度を上げるという。だがそうなるとアーベルの体力が辛そうだ。


「アーベルさんを私が背負いましょうか?」


 この提案に他の三名はポカンとした顔をする。

 当のアーベルは少し考え、嬉しそうな笑みを浮かべた。


「お姫様抱っこで」

※こいつ何言ってんだ?


「却下。ハインツ様の武器が使えません」

「俺が魔法で払っておくよ」


 そんなことで主人であるアーベルが乗り気なので、何故かこの緊急事態でお姫様抱っこが採用されたのだった。


 アーベルの体を易々と横抱きにしたハインツの速さは獣人も驚きのものだった。正に猪! 猪突猛進を体現したような速さだ。


「あの人獣人の血が入ってるにゃ!」

「入ってません」


 後を追う三人の方が大変そうだ。

 一方ハインツはとても楽しいのとドキドキするのとで忙しい。


(アーベルさんが私の首に腕を回している! 近い。近いわ! 汗臭いのバレてるくらい近いの! ゴブリン臭いのは取れてるかしら? いやぁぁ、恥ずかしい!)


 現状はゴブリンの大規模な巣を壊しに狭い洞窟内を爆走中である。気にするところそこじゃねぇ。


「! 右から」

『アイスニードル』


 リアの声にいち早く反応したアーベルが氷の飛針を一〇本は飛ばす。それは的確にゴブリンの額にめり込みあっという間に終わってしまう。

 それにしても凄い。魔法の練度も高いし、狙いも的確。魔法士になっても良かったんじゃないだろうか。


「ハインツさん」

「はい?」

「この仕事が終わったら、俺の屋敷に泊まりにきませんか?」

「え?」


 それって……。


 急激にドキドキしてくる。お泊まり……未来の旦那様のお家に。それはもしかして、あんな事やこんな事もしてしまうんじゃないだろうか!


「おや、鼻血が」


 妄想だけで鼻血が出てしまったハインツであった。


 こうして多少の妨害はあったものの問題無く奥地へと到達したハインツの目の前に広がったのは、予想以上に広大で文明的な地下都市だった。

 都市と言っても人間の規模ではない。だが、本来は野の獣同然にその日暮らしをする魔物が石で出来た簡易の家を作り、そこに平らにした道を作っている。その光景はまるで彼らが知恵のある生き物であると証明しているようだった。


「立派ですね」

「ですね」

「あの、こんなに整然とした町が作れるのですか?」


 この規模の町は見た事がない。慌てて問うと、アーベルもリベラートもあっさりと頷いた。


「幾つか焼きましたが、キングが生まれるとこのくらいにはなりますね」

「俺も幾つか凍らせましたが」

「そう、ですか」


 実際、強度はないみたいだ。第一陣が暴れ回っているのか、もの凄く壊れてもいる。そこに転がるゴブリンの死体は……なんだかただの魔物として見られない気もする。

 知恵のある魔物はいる。ヴァンパイア、ドラゴンなどはかなり高い知能を持ち王国を持つ。彼らは人間からも認められ、互いに干渉しないようにしている。


「ハインツさんは優しいですね」

「え?」


 ジッと見つめてしまうハインツにアーベルは笑って肩を叩いた。


「奴等は知的な者ではありませんよ」

「……ですね」

「それに、このまま放置すればスタンピードを起こして近隣の町や村が襲われ、多くの人間が悲しむ事になる。共存はできない。だから戦うのです。彼らがこちらと折り合いを付けられるだけの知的生命体であればまた違いますが、現状は無理です」


 そう、だな。それだけは間違いない。


 魔物は多くなりすぎると溢れる。結果、人間の町や村へと集団で襲いかかる。そうなれば最悪、町が滅ぶ。奴等に「人との共存」なんて事も「棲み分け」なんてことも出来ない。先の知的な者達はこれが出来たから今は平和なんだ。


 人と魔物、どちらを優先するかは決まっている。


「倒します」

「はい」


 その声に、アーベルは穏やかに微笑んでくれた。


 とはいえこれはかなり厄介だ。数が多すぎる。先についていた人達も暴れているけれど、なかなか進んでいかない。


「キングを討たねばなりませんね」

「どこでしょうか?」

「……あそこ、だと」


 リアが指差したのは少し高くなった家だ。そこにはゴブリンジェネラルなんかもいる。守られている感じだ。


「一気にいきましょう」

「無茶を言うにゃ」

「まぁ、ハインツさんなら」

「お供致しましょうか」


 困った顔のベルタと笑顔のアーベル。そして苦笑したリベラートが踏み込む。その先頭でハインツも構え、一気に雪崩れ込んだ。


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