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バギー・バギー・ディザスター③




 ◇ ◇ ◇




「おお、結構取れたな……」


 レトリバーの廊下でニッケルは塵取ちりとりに溜まったほこりやゴミを確認する。クルー達が帰って来るまで睡眠を取ろうとしたが、艦内に溜まっていた埃が気になって掃除そうじしていたようだ。


「あまりこの辺りは掃除してねえからなぁ誰も。ふぁあ~、しかし眠い。部屋に戻って寝……ん? あそこのネジゆるんでねえか? 危ねえだろ、よし……」


 ニッケルは掃除用具を片付け、工具箱を探しに格納庫の方向へ歩いて行った。




 ◇ ◇ ◇




 ブブブブブブ!


「うわあああ!!」


 ネモトシティの銅像前広場に突如とつじょとして現れた巨大な虫。辺りはパニックにおちいる!


「え、どうしたの何、マヨ、何が見えて……ってうわあああ! 何アレー!!」


 群衆の後方にいて様子をのぞけていなかったリンコも、逃げ惑う人々の隙間すきまから見えた光景で状況を理解する。


 ブブブブブブ!


 羽音を立てながら巨大虫が空中に浮かび上がる。


「カリオ! カリオ!」

「やべえなオイ、やべえ! ちょっと降りろマヨ、降りろ!」


 カリオは肩車していたマヨを地面に下ろすと、腰の刀に手を添える。




 ブブブブブブ!


 巨大虫が群衆のいる方へと飛ぶ! パニックの中、転倒してしまった男性を前あしつかんでそのまま飛び上がろうとする!


「うああああ!」


 男性は空中で足をばたつかせて悲鳴を上げる!




 ブォン!


 横一文字の一閃が男性を掴んでいた脚を斬り落とす! カリオの居合だ。

カリオは空中で刀を真上に構え直し、巨大虫を見据えて振り下ろす。


 真っ向!


 ぶしゅううう!


 カリオの着地と同時に、縦に真っ二つになった巨大虫の死体が地面に落ちる。虫からき出した緑色の血が、カリオに大量に降りかかる。


「うぉあ! ちょ、くそっ、げほっ、グロい、ぶほっ、きたねぇ!」

「おお……カリオがうんちまみれに」

「うんちじゃねえよ!」


 離れていたマヨとリンコが鼻をつまんで、あわれみの視線をカリオに向ける。




「うわ~グロ……取り敢えず急いで艦に戻って体洗えば――」


 鼻をつまんだままのリンコがそう言いかけた時、その後方から何かが高速で接近してくる!


 気配を感じたリンコは、素早く腰から二丁の拳銃を抜いて、振り返る。


 シャシャシャシャシャ……


 そこにいたのはやはり巨大虫。ムカデ状で長さにして七、八メートルはありそうだ!


 パァン! パァン!


 ぶしゅううう!


 巨大ムカデが嚙みついてくるより先に、リンコはその頭部に左右の拳銃から一発ずつ、弾丸を命中させる。巨大ムカデは絶命し、頭に空いた穴から緑色の血がスプリンクラーのように噴き出し、リンコに大量に降りかかる。


「ぐえっ、ごほっ、キモい、くさい、けほっ、えぐい、うえっ」

「リンコもうんちまみれに」

「ホントに泣いちゃうからやめて」


 離れていたマヨは鼻をつまんで、何らかの罰ゲームを食らったようなな様相のカリオとリンコに憐みの視線を向ける。


「これ、他にもいる感じか? デカい虫……クソっ、滅茶苦茶ヌルヌルする……」

「騒いでる音は聞こえるしそうかも……ぐすっ、臭い、もうお嫁にいけない……」


 街の色々な方向から悲鳴が聞こえる。これで騒ぎが終わる気配は全く無かった。




 ◇ ◇ ◇




「あら、ニッケル! 寝てるって聞いてたんだけど起きてるのかい?」


 工具箱を片手にレトリバーの廊下を歩いていたニッケルは、料理長のマロンナとばったり出会った。


「船内でいたんでそうな場所を何個か見つけたから直してたんだよ。おばさんこそ昼は外じゃなくていいのか?」


「そんなのメカニック達に任せてゆっくり寝てりゃいいのに。あ、私は船で食べてすぐに夕食の仕込みしようと思ってね。もしよかったらアンタの昼飯も用意してあげよっか?」


「おお、じゃあお言葉に甘えようかな。買ってきた分だけじゃ足りなさそうだし」


 ニッケルはマロンナが持つ荷物を、空いてる手で代わりに持ち、彼女と一緒に食堂へ歩いて行った。




 ◇ ◇ ◇




 カサカサカサカサ!


 ドタタタタタタタ!


 ブブブブブブーン!


 チュドーンチュドーン!




 ネモトシティは地獄絵図じごくえずと化していた。巨大虫の群れとそれと戦う治安部隊、逃走する住民が入り乱れて、さながらパニック映画である。




「このっ……!」


 目の前の黄色い巨大虫に対してカリオは斜め上から刀を振り下ろす。


 袈裟けさ斬り!


 巨大虫の体は切り裂かれ、緑色の血飛沫しぶきがカリオに降りかかる。


「クソォ! キリがねえし、臭えし、ベトベトするし!」


 苛立いらだつカリオの後ろを、緑色の血にまみれた状態のリンコが、マヨをおんぶしてついて行く。とにもかくにも一旦退避、情報を収集・整理しなくては。三人は地上艦停泊所に停まっているレトリバーを目指して進んでいた。


「今のはスッパイレモンムシ、さっきはトリケラトプスオオカブトでした! みんなデカくなってる!」


 リンコの背中でトウモロコシマンのお面を付けたマヨが興奮している。


「マヨ、虫の種類わかるの?」

「マロンナおばさんにもらった図鑑にってました。でもみんな図鑑より大きくなってます!」


 カリオは刀をぬぐい紙で拭う。


「わけわかんねえな、どれもこの辺の虫じゃねえんだろ? それがデカくなってこんだけいるってのは……」

「色んなところの虫さんがわんさかいます! あ、でもオオケントウシムシはまだ見てません」

「オオケントウシムシ?」


 カリオとリンコはすっかり緑色になった顔を、顔面トウモロコシマンのマヨの方へ向ける。


「テエリク大陸最大級の虫さんです! 二メートル何十センチとかって書いてました! カリオとリンコよりデカい! 有名な虫さんなので、なんかこういうヤバい流れの時はいそうな気がします!」




 カリオとリンコはお互いを見て、もう一度マヨの方へ向き直る。


「えっと……それって、今暴れてる他の虫みたいに巨大化してない状態で……私達よりデカいってコト?」

「いや! おい、やめよう! なんかこの、よくない方向に考えるのはやめよう!」




 ドオオオオオオン!!




 突然の轟音がマヨ達がいる大通りにひびき渡る! 音のした方を見やると、三階建ての建物が倒壊して激しく土埃つちぼこりを上げている。


 シシシシシシ……


 何かの鳴き声だろうか、不思議な高音とともに、その土埃の中から巨大な影が現れる。




 銀色の美しい甲殻、暗い青色の複眼、硬い物もサクッと切れそうな危ない前脚、そのデカさ、十五メートル超え――。




 カリオとリンコは口をポカンと開けて硬直する。マヨは三ブロック先に見えるその巨体を指さして叫んだ。


 「ギ、ギンヨロイオオケントウシムシですぅ!!」




(バギー・バギー・ディザスター④へ続く)

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