ドスン……ドスン……
巨大化して五階建ての建物に匹敵する大きさとなった「ギンヨロイオオケントウシムシ」は、進路上にある屋台や街路樹などを
「怪獣じゃねえかあれもう!」
「夢じゃないのこれ! やだー!」
カリオとリンコは巨大なオオケントウシムシに圧倒され、立ち尽くす。
「……ねえ、どうするのこの状況」
カリオとリンコは周囲の様子を見回す。逃げ惑う人々、戦う治安部隊、暴れる巨大虫の群れ、もっとアホみたいなデカさの怪獣虫。
「……もうやるしかねえよなぁ」
「……だよねぇ……ぐすっ、タダ働きだぁ……」
カリオは刀を構え直し、リンコはマヨを下ろして二丁の拳銃を抜く。
虫の群れを見据えると、二人はそこへ飛び込んでいった。
カサカサカサカサ!
ドタタタタタタタ!
ブブブブブブーン!
チュドーンチュドーン!
◇ ◇ ◇
――バァン!
レトリバーの格納庫の出入口ドアが勢いよく開く。パイプ椅子に座って休憩していたニッケルがその音に
「んあ!? ……カリオとリンコか、ってうわ何だその緑のくっせえ――」
「次臭いって言ったら
「うわこっわ! 機嫌わる!」
早々にリンコにキツく当たられるタック。カリオとリンコに続いて、街に出ていた他のメカニック達も格納庫に入ってくる。
「タック! 戻ってたんだ、じゃあ外の状況しらなかったりする!?」
ショートボブの髪型に丸に近いデザインのメガネをした、そばかすの女性がタックに声をかける。レトリバーのメカニッククルーの一人、ミントン・バットだ。
「なんかあったのか?」
「あったなんてもんじゃないわよ、多分バイオテロか何かよ! 人の背よりデカい虫が、沢山街中で暴れてて今大変なんだから! カリオとリンコが
「はぁ? デカい虫ぃ?」
離れた場所にいる他のスタッフがミントンを呼ぶ。ミントンはそちらへ手を挙げて
「取り敢えずアイツらのビッグスーツ出すから、タックも手伝って。わけわかんないだろうけど後で説明するから」
「お、おう。じゃあ、あいつらが
「ターオールー……」
階段に座るリンコがタックを
「わーったから! すぐ渡すから!」
格納庫がクロジとコイカルの出撃準備で慌ただしくなる。タオルで体を拭き終わったカリオ・リンコ・マヨの三人はふぅっとため息をつく。マヨは戦っていた二人ほど
「あ、タック。ニッケルにはまだ言わないでくれ」
カリオは使ったタオルをタックに投げ渡しながら言った。
「アイツ、今外出たら
◇ ◇ ◇
「……」
自室で寝ていたニッケルは、部屋の外から聞こえる雑音で目を覚まし、体を起こす。
「みんな帰ってきたか? ……ん、でもまだ時間早いな。もう少し寝られるだろ……」
再び横になったニッケルは、すぐに寝息を立て始めた。
◇ ◇ ◇
地上艦停泊所から少し離れた街の防壁の上に、カリオのクロジとリンコのコイカルが立つ。
「こりゃやべえな、放っておいたら一晩でこの街がダメになりそうだ」
カリオが街の外周から巨大虫の様子を
「私たちの他に
「治安部隊はまだ街中の虫と戦っているし、すぐに機動兵器の類は出せなさそうだな」
よしっと声に出して、リンコはビームスナイパーライフルを構える。
「街中では暴れられないし、今ここから直接倒しちゃうと、街中の人を巻き込んじゃうかもしんない。狙撃して注意を引いて、外に釣り出す、でいい?」
「おう、頼む。その後は任せろ」
二人は偉い人の銅像にしがみつくギンヨロイオオケントウシムシを見据える。
ガァン!
独特の発射音とともに、ビームスナイパーライフルからビームが射出される。緑色に光るビームは、ギンヨロイオオケントウシムシの背中の甲殻を
ジジジ……
銀色に光る甲殻が熱で赤く溶ける。
(よし、変に防御力が高いとかはないみたい……)
ガァン!
再び射撃。ビームの飛んできた方向にオオケントウシムシは視線を移し、銅像から離れた。
ブブブブブ……
オオケントウシムシの背中の甲殻が開き、薄い羽が振動する。風圧で銅像前広場は砂
(やるか!)
カリオはビームソードを抜き、その青白い刀身を振って、オオケントウシムシの注意を引く。そして、防壁の上をリンコから離れるように走る。
ブブブブブ……
十分にオオケントウシムシを引き付けたところで、カリオは防壁の外へ飛び降りる。
ズダン!
オオケントウシムシも防壁の外へ飛び降りると、カマキリのような前脚をこすり合わせながら、カリオと向かい合う。
◇ ◇ ◇
(んーむ、沢山は寝れねえか。後は夜にたっぷり寝るか)
また雑音で目を覚ましたニッケルは手持ち
格納庫の方が騒がしい。さっき部屋で聞こえてた雑音も格納庫からか? と、ニッケルは格納庫の上階側の出入口へ向かい、そこから様子を
「ニッケルはホントに出ないの?」
「カリオが教えるなって言ってたんだよ。ニッケルの奴、虫が苦手だからじゃね?」
メカニック達が作業をしている中、タックとミントンが立ち話をしているのを見つけたニッケルは聞き耳を立てる。
「いや~ちょっとぐらい苦手って言ってもさ、ニッケルにも行ってもらった方がよくない? めっちゃ大きい虫もいたんだよ、ビッグスーツより大きいぐらいの!」
「ホントかよ!? 実際見てねえからよくわかんねえけど、ちょっと不安になってきたな……」
「あの街の光景見るともっと不安になるよ。せっかくニッケルのコイカルもすぐ出れるようにしたのに……」
キャットウォークの上で、ニッケルはきょとんとする。
(……なんだ、え、なんだ?)
(バギー・バギー・ディザスター⑤へ続く)