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バギー・バギー・ディザスター④

ドスン……ドスン……


 巨大化して五階建ての建物に匹敵する大きさとなった「ギンヨロイオオケントウシムシ」は、進路上にある屋台や街路樹などを蹴散けちらしながらゆっくり歩いていく。


「怪獣じゃねえかあれもう!」

「夢じゃないのこれ! やだー!」


 カリオとリンコは巨大なオオケントウシムシに圧倒され、立ち尽くす。




「……ねえ、どうするのこの状況」


 カリオとリンコは周囲の様子を見回す。逃げ惑う人々、戦う治安部隊、暴れる巨大虫の群れ、もっとアホみたいなデカさの怪獣虫。


「……もうやるしかねえよなぁ」

「……だよねぇ……ぐすっ、タダ働きだぁ……」


 カリオは刀を構え直し、リンコはマヨを下ろして二丁の拳銃を抜く。


 虫の群れを見据えると、二人はそこへ飛び込んでいった。




 カサカサカサカサ!


 ドタタタタタタタ!


 ブブブブブブーン!


 チュドーンチュドーン!




 ◇ ◇ ◇




 ――バァン!


 レトリバーの格納庫の出入口ドアが勢いよく開く。パイプ椅子に座って休憩していたニッケルがその音におどろく。


「んあ!? ……カリオとリンコか、ってうわ何だその緑のくっせえ――」

「次臭いって言ったら眉間みけん鉛玉なまりだまブチ込むからね! 三人分のタオルすぐに持って来て!」

「うわこっわ! 機嫌わる!」


 早々にリンコにキツく当たられるタック。カリオとリンコに続いて、街に出ていた他のメカニック達も格納庫に入ってくる。


「タック! 戻ってたんだ、じゃあ外の状況しらなかったりする!?」


 ショートボブの髪型に丸に近いデザインのメガネをした、そばかすの女性がタックに声をかける。レトリバーのメカニッククルーの一人、ミントン・バットだ。


「なんかあったのか?」

「あったなんてもんじゃないわよ、多分バイオテロか何かよ! 人の背よりデカい虫が、沢山街中で暴れてて今大変なんだから! カリオとリンコが頑張がんばってかなり減らしてくれたから、私たちも含めてだいぶ避難は進んだんだけどね」

「はぁ? デカい虫ぃ?」


 離れた場所にいる他のスタッフがミントンを呼ぶ。ミントンはそちらへ手を挙げてうなずくジェスチャーをする。


「取り敢えずアイツらのビッグスーツ出すから、タックも手伝って。わけわかんないだろうけど後で説明するから」

「お、おう。じゃあ、あいつらがきたねえ緑のベトベトまみれになってるのは……」

「ターオールー……」


 階段に座るリンコがタックをにらみつける。


「わーったから! すぐ渡すから!」




 格納庫がクロジとコイカルの出撃準備で慌ただしくなる。タオルで体を拭き終わったカリオ・リンコ・マヨの三人はふぅっとため息をつく。マヨは戦っていた二人ほどひどく汚れてはいないが、それでも拭いたタオルがかなり緑色に染まっている。


「あ、タック。ニッケルにはまだ言わないでくれ」


 カリオは使ったタオルをタックに投げ渡しながら言った。


「アイツ、今外出たら心臓麻痺しんぞうまひかなんかで死んじまう……」




 ◇ ◇ ◇




「……」


 自室で寝ていたニッケルは、部屋の外から聞こえる雑音で目を覚まし、体を起こす。


「みんな帰ってきたか? ……ん、でもまだ時間早いな。もう少し寝られるだろ……」


 再び横になったニッケルは、すぐに寝息を立て始めた。




 ◇ ◇ ◇




 地上艦停泊所から少し離れた街の防壁の上に、カリオのクロジとリンコのコイカルが立つ。


「こりゃやべえな、放っておいたら一晩でこの街がダメになりそうだ」


 カリオが街の外周から巨大虫の様子をうかがう。状況は予想していたものよりさらに悪い。「ギンヨロイオオケントウシムシ」は先ほどの個体の他、離れた場所にもう一匹いる。加えて、その二匹ほど大きくはないが、羽音を立ててホバリングしている、十メートル弱の黒い虫が四匹。


「私たちの他に傭兵ようへいはこの街に滞在していないみたい」

「治安部隊はまだ街中の虫と戦っているし、すぐに機動兵器の類は出せなさそうだな」


 よしっと声に出して、リンコはビームスナイパーライフルを構える。


「街中では暴れられないし、今ここから直接倒しちゃうと、街中の人を巻き込んじゃうかもしんない。狙撃して注意を引いて、外に釣り出す、でいい?」

「おう、頼む。その後は任せろ」


 二人は偉い人の銅像にしがみつくギンヨロイオオケントウシムシを見据える。




 ガァン!


 独特の発射音とともに、ビームスナイパーライフルからビームが射出される。緑色に光るビームは、ギンヨロイオオケントウシムシの背中の甲殻をかすめていく。


 ジジジ……


 銀色に光る甲殻が熱で赤く溶ける。


(よし、変に防御力が高いとかはないみたい……)


 ガァン!


 再び射撃。ビームの飛んできた方向にオオケントウシムシは視線を移し、銅像から離れた。


 ブブブブブ……


 オオケントウシムシの背中の甲殻が開き、薄い羽が振動する。風圧で銅像前広場は砂ほこりに包まれ、街路樹や街灯が揺れる。浮遊したオオケントウシムシは、カリオとリンコの方へ向かって飛んできた。


(やるか!)


 カリオはビームソードを抜き、その青白い刀身を振って、オオケントウシムシの注意を引く。そして、防壁の上をリンコから離れるように走る。


 ブブブブブ……


 十分にオオケントウシムシを引き付けたところで、カリオは防壁の外へ飛び降りる。


 ズダン!


 オオケントウシムシも防壁の外へ飛び降りると、カマキリのような前脚をこすり合わせながら、カリオと向かい合う。




 ◇ ◇ ◇




(んーむ、沢山は寝れねえか。後は夜にたっぷり寝るか)


 また雑音で目を覚ましたニッケルは手持ち無沙汰ぶさたになり、レトリバーの廊下を歩いていた。


 格納庫の方が騒がしい。さっき部屋で聞こえてた雑音も格納庫からか? と、ニッケルは格納庫の上階側の出入口へ向かい、そこから様子をのぞいてみる。


「ニッケルはホントに出ないの?」

「カリオが教えるなって言ってたんだよ。ニッケルの奴、虫が苦手だからじゃね?」


 メカニック達が作業をしている中、タックとミントンが立ち話をしているのを見つけたニッケルは聞き耳を立てる。


「いや~ちょっとぐらい苦手って言ってもさ、ニッケルにも行ってもらった方がよくない? めっちゃ大きい虫もいたんだよ、ビッグスーツより大きいぐらいの!」

「ホントかよ!? 実際見てねえからよくわかんねえけど、ちょっと不安になってきたな……」

「あの街の光景見るともっと不安になるよ。せっかくニッケルのコイカルもすぐ出れるようにしたのに……」


 キャットウォークの上で、ニッケルはきょとんとする。


(……なんだ、え、なんだ?)  




(バギー・バギー・ディザスター⑤へ続く)

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