目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

魔人血戦①

 とある早朝。


 空が白み始めたばかりの赤土の荒野に、何体ものビッグスーツの残骸ざんがいが、煙と火花を上げて転がっている。少し離れた場所には中波した地上艦も見える。


 金属のしかばねが転がるその只中ただなかほとんど損傷を受けずに停車している黒い地上艦がたたずんでいる。「スキッパーキ」――三億テリの賞金首、ユデン・イオール率いる強盗団の地上艦だ。




「ふぁ~、あークソッ、日の出前に襲ってくるのやめてくれねえかなぁ」


 薄暗く散らかった休憩室に、スキッパーキの乗員であるならず者達がたむろしている。ブロンドのショートヘアに緑色の瞳の男、ユデンは欠伸あくびをしながらソファにドカッと腰を下ろした。


「首を狙われる立場になると“規則正しい生活”ってのが恋しいぜ。見張りはブリッジに引き継いだから、俺は寝るわ」


 短髪を緑色に染めた男、フリク・フシャはそう言うと、派手で露出の多い恰好をした女性の肩に腕を回して、部屋に戻ろうとする。


「あ~フリク、そこから好きなだけ持ってけ。〝今日のおまけ〟だ。お疲れぃ」


 そう言ってユデンは、大きなテーブルの上に乱雑に置かれた酒びんの山を指さす。略奪品の一部だ。フリクは二つ瓶を選ぶと口笛を吹いて女性と共に休憩室を出ていった。




「……俺ももう少し寝てえ。タヨコ~、一緒に――」

「あーし疲れてるから、今回は一人で寝て~」


 ユデンに呼ばれたツインテールの女性、タヨコ・ソーラはそう返事をしながら、テーブルの上の酒瓶を見比べている。


「つれねえなぁ」

「また今度、してあげるって」


 タヨコは三本、酒瓶を選ぶと欠伸をしながら自分の部屋へ戻っていった。




「んーむ、寂しいぜ。一人で寝るか……チネツは寝ねえのか?」


 ユデンは大きな体格に肩近くまで黒髪を伸ばした男――チネツ・マグに声をかける。チネツはタブレット型のコンピューター端末の画面を見ている。


「寝ねえのチネツ?」

「スズカ連合で暴れていたモンスタンクは二機とも撃破されたらしい」


 そう言ってチネツは無表情のまま、タブレットの画面をユデンの方へ向ける。ユデンはソファから立ち上がり、チネツの方へ寄ってきて画面をのぞき込む。ダウンロードした新聞の記事だ。先日発生したスズカ連合とホエイ・ヨグトルの戦闘を伝える記事だ。


「ホントかよ、相当デカかっただろあれ。ボルキュバインとかいう奴。しかも二機! 狙ってたのによ~」

「……アレを手に入れてどうするつもりだったんだ? 動かせるだけの人手も置く場所もないぞ」


 チネツがあきれたように指摘するが、ユデンはきょとんとした様子だ。


「いやあ、そらそうだけどよ……財産だけしか取り柄の無いカスが持ち主だなんてもったいないだろ。もっとこう、フィジカルもメンタルもタフな奴が持つべきなんだ、ああいうのは」

「売るにしてもどうせ何も考えてなかっただろう?」


 ユデンは立ち上がると、ソファに戻ってまたドカッと座る。


「まあいいじゃねえか、次のターゲットはその……なんて言うんだ、そう、実用性! 実用性あるからよっ」

「新聞も読み終わったし、俺は寝るぞ」


 ユデンの話を聞き流して、チネツは立ち上がると自室へと歩いて行った。




「……つれねえなぁ。俺も寝るか」


 ユデンは股間こかんを二、三回くと、立ち上がって自室に向かっていった。




 悪党どもを乗せた「スキッパーキ」は、次の獲物えものを目指して朝日が差す荒野を進み始めた。




 ◇ ◇ ◇




 「フロガー・タマジャク。マキノシティ市長の他、多数の民間人を殺害した罪で一億テリの賞金をけられている。今回の目標ターゲットだ」


 地上艦「レトリバー」のブリッジ。その端のテーブルの上に、ウェーブパーマヘアの男の顔の画像と、ビッグスーツの立体映像が表示されている。


 カリオ・ボーズ、ニッケル・ムデンカイ、リンコ・リンゴの三人の傭兵は、しゃがんでテーブルの上から頭を出し、立体映像を見ながら、艦長のカソック・ピストンの説明を聞いている。


「地上艦で航行中に襲われたんだっけか。でも襲ってきたのはたった一機だけってのはマジなのかよ」

「ああ、単機で気づかれずに接近して地上艦落とす奴ってのは、中々厄介やっかいな腕利きだぞ」

「反撃もまともに出来ずにやられたんだ……うーん、なんかビッグスーツの操縦が上手いってだけじゃなさそうじゃない?」


 カソックがテーブルのパネルを操作すると、別のビッグスーツの立体映像と、今回の依頼主であるクロキシティの紋章が追加で映し出された。


「クロキシティのビッグスーツ部隊、二十二機が味方に付く」

「やけに多いな!? まあツツミシティとかもいっぱいいたけどよ」

「戦歴もいい。撃退・殲滅せんめつした盗賊グループはもうすぐ二桁に達するそうだ」


 おおー、と三人の傭兵は小さく声に出す。


「じゃあ、その実践経験豊富な二十二機さん達と一緒に、このぼっちの悪者をボコボコにしちゃえばいいの?」

「そうなるな」

「おぉ、一億の賞金首でもなんとかなるような気がするな……ん? 賞金の扱いはどうなるんだ?」


 カソックはまたパネルを操作して、契約内容が記された書面の映像を映し出す。


「依頼に成功したら報酬に加えて、その賞金も俺達がしっかりもらえるらしい。賞金を懸けたマキノシティ・クロキシティ・その他周辺都市は、そのことを承認してくれているそうだ」

「マジ!? 太っ腹!」


 カリオとリンコは顔を見合わせる。


「よし、やるか。先方とは一旦合流するんだろ?」


 ニッケルはしゃがんだままカソックに聞く。


潜伏せんぷく先はつかんでいるそうだ。クロキシティで合流して、準備が整い次第すぐに出る手筈てはずだ」

「やるか」

「やったー! 前回と違っていっぱい報酬あるー!」




 高額賞金と報酬をゲットするために、レトリバーはクロキシティ目指し、針路しんろをとった!


(魔人血戦②へ続く)

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?