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魔人血戦②




 ◇ ◇ ◇




 夕方。赤い夕陽が荒野に差し込む。


 レトリバーの三人の傭兵、そしてクロキシティ治安部隊のビッグスーツ、総勢二十五機が、標的が潜伏している拠点を離れた場所から見据える。


「あまり大きな拠点じゃねえな……」


 ニッケルは拡大表示された拠点の映像を見る。所々びた建造物が三つあるが、どれもそれほど大きくはない。一番大きな建物でも、ビッグスーツは保管するとしたら一機で限界だろう。自動車が数台ある以外は、周囲にも大したものは見当たらない。


「気を付けるとしたら地雷ぐらいか……一人で暗殺を専門的に請け負っているタイプかもな」

「どうしよっか? この数なら拠点ごとすぐ潰せちゃいそうだけど……」


 ニッケルとリンコが話す横で、カリオは周囲の様子を探っていた。見回す限り、自分を含めた二十五機以外には何もいない。




 不意に、らめく陽炎かげろうのようなものが一瞬見えた。




 カリオは無意識のうちに、左腰のビームソードに左手をかける。


「? どうしたカリオ」

「どしたの?」


 カリオはレーダーを確認する。特に違和感を感じるものは映っていない。


「何かいるよう――」




 カリオがそう言いかけるとまた陽炎が見えた。


 その次の瞬間。




「ぐあああ!!」


 治安部隊員の一人が悲鳴をあげ、そのビッグスーツが胴体に風穴を開けて、倒れる! カリオ達は一斉に武器を抜いて周囲を警戒する。


「!? 光学迷彩か!」


 ザシュッ


 ニッケルはかすかな足音を聞き取ると、そこへ向けてビームライフルを撃つ。


 バシュゥ!


 緑色のビームは荒野の土をけずる。そのすぐ近くでまた陽炎が揺らめく。


 バシュッバシュッバシュッバシュッ!


 続けざまにリンコがビームピストルを陽炎を狙って連射する。僅かにビームが陽炎にかする。陽炎が乱れ、ノイズが走る。


 ニッケルは突然、バックステップで後ろに下がる。直後、その地面に何かが衝突し、激しく地面がえぐれた。


 バシュゥ!


 腰を落として着地すると、ニッケルは再びビームライフルを撃つ。ビームが陽炎にかすり、激しいノイズが走る。




 ノイズは止むことなく、やがて陽炎だったモノが徐々に姿を現す。薄鈍うすにび色で全身にいくつもの武器を搭載し、右腕そのものが巨大なクローと化したビッグスーツ。マキノシティ市長が乗っていた地上艦を破壊した、フロガー・タマジャクのビッグスーツ、「トードン」だ。フロガーは無表情で周囲の敵機を確認する。


「大所帯でようこそわが家へ。死ね」




 ドン!


 地面をり、カリオがフロガーに急接近する。右手で左腰のビームソードを、勢いよく左斜め下から抜き放つ。


 逆袈裟ぎゃくけさ


 フロガーは咄嗟とっさに後方へ跳び、左腕の小型シールドを前方に構える。青白いビームの刃が小型シールドに接触し、大きな傷を残す。


(クソッ、浅い……!)


 ドドドドン!


 フロガーのトードンの左肩部からロケット弾が連射される! カリオは素早く横に転がって回避、ニッケル・リンコ・周囲の治安部隊は銃口を一斉にフロガーへ向ける。


 バシュシュシュシュシュッ!


 フロガーを狙ってビームが斉射される。フロガーは高く飛び上がってこれを避けると、後方へ宙返りしながら右肩部の高出力ビームキャノンを展開、下降しながら発射する。


 ズガァーン! ズガァーン!


 高威力のビーム二発が、治安部隊のビッグスーツに向けて放たれる! 一発は回避されるが――。


「しまっ……」


 もう一発が治安部隊のビッグスーツの右半身をゴッソリとけずり取る! 機体は赤く溶けながら倒れていく。 


 ニッケルは手動操作型浮遊砲台「チョーク」を展開、フロガーの方へ移動させる。一方、フロガーは着地すると、左手に持つサブマシンガンと高出力ビームキャノンを連射する。


 ズガガガガガ!!


 ニッケルのチョークとビームライフル、リンコのビームピストル、治安部隊の射撃、フロガーの射撃が入り乱れる! 各々が撃ちながら回避行動を取る。


 一瞬、しかし激しい射撃戦。ニッケルの左肩を銃弾が掠る。リンコの右足をビームの熱が襲い、治安部隊も数人被弾してうめき声をあげた。フィードバックで左肩から出血したニッケルは舌打ちする。フロガーはというと、弾幕をほとんど被弾なくしのいでいた。


(動きいいなおい!)


 射撃が止んだ隙を狙い、カリオはビームソードを振りかぶって、再びフロガーへ接近する。


 ゴォッ!


 斜め前方から急接近するカリオを見据え、フロガーは右腕のクローを展開し、カリオを掴みかからんと振り下ろす!


(……ヤバい!)


 フロガーのクローが想像以上に速い。カリオは無理やり体を倒す。クローをなんとか回避するが、足が地面を離れ、カリオは激しく転倒して地面を転がる。


(クローが開いた真ん中に隠し剣みたいなの見えたぞ、掴まれたらグサッて刺されて終わるなアレ……!)


 カリオはひざをついてフロガーの方へ向き直る。


(今たたみかける! これ以上好きにはさせないよ!)

(手強いが数の上では有利だ。時間が経つほどその差は効いてくるはず)


 リンコとニッケルは再び引き金に指をかける。


(一億の賞金首、流石にキツイな)


 カリオは剣をグッと握り、構え直す。


(けど……勝てねえ相手じゃねえ!)






「十二時の方向三キロ先にこちらへ接近中の機影あり、地上艦と予測! 七十秒でそっちへ到着しそうだ!」






 突然、後方で待機しているレトリバーの通信士から一報が入る。三人の傭兵は思わず動きを止める。


 タタタタタ! ズガァーン!


 フロガーはそれを見逃さずにビームキャノンとサブマシンガンを撃つ。慌ててニッケルとリンコは横へ跳んで回避する。


「何だって……?」


 カリオはフロガーに注意を向けながら、一旦後ろに跳び、距離を置く。


「迷子の船とかじゃなくて?」

「ブリッジ、もう少し情報――」


 ニッケルが言い終えるより先に、通信士が追加で情報を伝え始める。


「地上艦の色は黒、甲板に四機のビッグスーツを確認。機体の特徴から恐らく――」


 三人はレトリバーから見て十二時の方角を見やる。


「――ツツミシティで交戦した奴らだ!」




(魔人血戦③へ続く)









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