◇ ◇ ◇
夕陽が照らす荒野を走る地上艦「スキッパーキ」の甲板の上で、四機のビッグスーツが前方を見つめる。
その一番前に立つ金色のビッグスーツ、「ハオク」のコックピットでユデンは
「……ああん? なんかいっぱいいるじゃねえか、先客かよ」
「一億の賞金首だからな。他にも狙う奴がいるのは当然」
ユデンと緑のビッグスーツ、「レギュラ」に乗ったチネツが話す横で、青いビッグスーツ、「ユト」に乗るフリクは、
「おいユデン、アイツらアレじゃねえのか。どこだ、カガミ……違う、ミ……いや」
「あぁー! ツツミシティであーしの大事な鎌、ぶっ壊した奴らじゃん!」
「そう! ツツミ! あんときのカスども!」
フリクと巨大なビーム
「おぉ、マジだな。サムライ兄ちゃん達じゃねえか」
「ブリッジ、甲板ビームシールドの展開急げ」
唐突にブリッジに指示を出したチネツの顔をユデンは見る。
「向こうにはスナイパーがいる。無策で接近は危険だ」
「そうだったっけ? そりゃ危ねえじゃん、ってかしっかりしてる奴がチネツしかいねえなこの艦」
◇ ◇ ◇
タタタタタ! ズガァーン!
「ぬおおお!! クソッ、アイツらだって!?」
フロガーは間断なくカリオ達を狙って射撃してくる。レトリバーの三人は回避行動を取り続ける。
「あーもう! なんでこんな時にあんな奴らが来るのよ!」
リンコは機体背部にマウントしていたビームスナイパーライフルを手に持つ。
「
「わかった!」
バシュゥ! バシュゥ!
ニッケルはフロガーをビームライフルの射撃でけん制する。カリオはそれと同時にフロガーの横へ回り込むようにして接近を試みる。
フロガーは機体を左右に振ってビームを回避するとカリオの方へ左腕のシールドを構える。
カリオのビームソードが斜め上から振り下ろされる。特殊なコーティングを
一方、リンコはスコープを
ガァン!
独特の発射音と共に、緑色のビームが荒野の空気を切り裂いて飛ぶ。その二キロ先のスキッパーキの甲板前方で、一対の棒状の部品が立ち上がる。
ビィーン……
それぞれの棒状の部品の先端から、紫色のビームシールドが展開される!
ビギギッ!
ビームシールドにスナイパーライフルのビームが衝突、独特の接触音を鳴らす。スナイパーライフルのビームは消滅し、ビームシールドには
「ちょっ、うそー!? 勘弁してほしいんですけど!」
狙撃を妨害され、リンコは思わず大きな声を上げる。スキッパーキがどんどん接近してくる中、ニッケルは必死に頭を回転させて考える。
「……リンコ、治安部隊と一緒にフロガーを頼む! カリオと俺で金色連中を相手する!」
「……!」
「えぇっ本気!? 二対四って無茶で――」
リンコはそう言いかけたものの、すぐに言葉を引っ込める。今この状況で取れる選択肢は多くない。どの敵も億単位の賞金首で、一人も無視することは出来ない。治安部隊だけにフロガーを任せ、ユデン達相手に三対四の形をとる策もあるが、先ほどの戦闘のことを考えると、治安部隊だけでフロガーを撃破、ないし足止めするのは難しいかもしれない。
ユデン達相手に足止めできるギリギリの戦力を
カリオはフロガーのシールドからビームソードを離し、ジグザグに三回バックステップしてフロガーと大きく距離を取った。そしてほんの一瞬、ニッケルとリンコとアイコンタクトを取ると、視線をスキッパーキに向ける。
「無茶しないでね二人とも!」
「そっちも気をつけろ」
「よしカリオ、二手に分かれるぞ」
「よーし、いい感じに接近できたじゃねえか」
スキッパーキはビームシールドの展開を停止し、紫色の光の幕が消滅する。チネツはビッグスーツの集団から別々の方向へ飛び出す二機を確認する。
「敵は散開したか。ユデン、俺達は――」
「待ってチネツ。あーしがもうちょっと楽な仕事にしたげる」
スキッパーキは走行を停止した。タヨコはユデンに後ろに下がるように手でタッチし、甲板の一番前に立つ。
タヨコは舌なめずりすると、足を開き両手を甲板につけて、四足歩行する獣のようなポーズを取る。
「この新しい武器、結構クセになるのよね~」
彼女のゼルディの背部に取り付けられた、尻尾のようにしなる装備が上へ持ち上がる。その先端には一対の刃とそれに挟まるような形で銃口のような部品が取り付けられている。
尻尾の先端が緑色の光を放つ。次の瞬間。
キュゥウウウウウーン!
尻尾の先から直線状のビームが、ビッグスーツの集団目掛けて放たれる! タヨコはそれで薙ぎ払うように尻尾を左右に振り回す!
「やべえ!」
カリオは咄嗟に転がり、ビームを回避する!
「避けて!!」
治安部隊に
「くそっ!」
ニッケルも半ば転倒するかのような状態でビームを回避!
キュゥウウウウウーン!
周辺一帯の全てを切り裂くかのように、ビームが大地に波打つような線を描きながら走っていった!
シュゥーッ……
ビームを出し切り、赤熱して音を立てる尻尾の先を見ながら、タヨコは小さくため息をつく。
「すぐ熱くなるのだけちょっと残念なのよねコレ。出力は調整しながら使うしかないか~」
「
「俺は大丈夫だ」
「私は大丈夫」
レトリバーの三人は声を掛け合い、無事を確認する。
「――でも……あー、ニッケル、カリオごめん。味方が……」
リンコの声にニッケルとカリオが反応して目を向ける。二人はすぐに状況の悪化を
地面に倒れ伏す治安部隊のビッグスーツ達。無事に回避して立ち上がる機体もあるが、半数の十機近いビッグスーツが破壊されていた。腰から上が切り離された機体、首のなくなった機体、肩口から斜めに切られた機体など……タヨコの尻尾が放った光線は、たったの一振りで
「……お前達の味方というわけではないみたいだな」
そこから少し離れた場所でフロガーは姿勢を低くしている。無傷のようだ。
一瞬で半数近く殺された味方。無傷の敵機。
思わずニッケルはハハッと笑ってしまった。
「もしかして最悪じゃねえのかコレ」
(魔人血戦④へ続く)