◇ ◇ ◇
「この辺りか。ほんまにピンポイントで場所決めて襲っとるんやなあ」
地上艦「シバ」の甲板の上でビッグスーツに乗ったショウとナスビは、事件発生地点に到着し、辺りを確認する。ショウが乗る青い機体「オールリ」と、ナスビが乗る
「これだけ
シバの隣、地上艦「マルチーズ」甲板上で、レイラの乗った「アカトビ」のバイザーの奥で、光が点滅する。彼女の言う通り、回収する間もなく放置されたままの、襲撃を受けた地上艦やビッグスーツの残骸が辺り一面に散らばっていた。
「どうしよか。思ったより隠れられる場所はありそうやから、ビッグスーツに乗ったまま
「待ってショウ、何か動いたで」
ナスビは上空を見ていた。一見して雲だけがある青い空だが、よく見るとその雲が一瞬、ぐにゃりと歪む。
ショウとレイラもそれに気づく。青い空と雲の
「光学迷彩……例の円盤かいな!」
「……いえ、これは……より大きくてよ」
空の歪みから無機質な金属が徐々に抜け出てくる。中型の地上艦クラスの大きさの四角い
「爺や、速やかに艦を後退させて」
レイラはそう言ってすぐに甲板から地上に降り立ち、実体剣「ショパン」を
「こんな都合のいいタイミングで標的に出会うことはないと思ってんねんけど」
「でもアノ浮いてる見るからに変なん、他に考えられへんしな」
巨大な直方体の底部が開き、中から人型の機体が姿を現す。一対の大きな球体が左右に付いた頭部は金魚の一種、デメキンを思わせる独特な
「おお、三匹だけとは……今日は感じが違うのお。先のヒヨッコどもとは違う隠し玉ってところか」
やや細身の
「おまえで合ってるよな? この辺で騒ぎ起こしてんのは」
ショウはヒート忍刀を抜いて問う。空中からゆっくり下降してくる煤竹色の機体が着地すると、初老のパイロットはふん、と鼻を鳴らした。
「ピリピリしとるな。雑魚の何十人と死んだところで何もあるまいて」
「何者や」
問いを続けるショウのオールリを見て、初老のパイロットは目を細める。
「まあどうせワシに三分後に殺される奴等じゃ。なんぼ教えたっても問題ないじゃろう。ワシの名はニヌギル、この機体はサタデ……」
煤竹色の機体、サタデが両手を突き出す。その手には一対の大型ビームサブマシンガンが
「――〝イニスアの
バババババ!
ニヌギルのビームサブマシンガンが橙色の光弾を連続で放つ! ショウ・ナスビ・レイラの三人は散開して回避する。
ドン!
レイラは大地を強く蹴る。アカトビの右足が地面にめり込み、ヒビが走ったその刹那、ニヌギルの
ロマン流剣技、ロンド・エイト・S!
……手応えはない。ニヌギルはバックステップし、紙一重でレイラの八つの斬撃を避けた。紙一重、ならばギリギリの行動か。
「んむ、速く、そして
ニヌギルの左右でショウとナスビが飛び上がる。二人が両手で印を結ぶと、赤く輝く火の玉が空中に出現する!
「食らい!」
「さらせ!」
火の玉が左右から、地上のニヌギルを挟むようにして突撃する!
ボボボン!
(当たったか? いや……!)
ショウとナスビは空中に視線を移す。ニヌギルは寸前で上空に飛び上がり、火遁を回避していた。二人と同じ高度まで上昇したニヌギルは、両手のサブマシンガンそれぞれ一丁ずつ、ショウとナスビに向ける。
バババババ!
二人は横に飛行してこれを回避した。
空中に三機、それらをレイラが見上げる形で、全員の動きが止まり、
(〝イニスア〟って言うたなコイツ……それって……)
ナスビはニヌギルの発した単語について考える。思い当たるモノが一つ頭の中に浮かんでいた。一方でレイラは、今の攻防に違和感を覚えていた。
(……妙ですわ。確かに強いことは強いですが、スズカ連合の要人があれほど危機感を抱き、都市の
ピピッ
「……! レーダーに反応? 数多いな、何や?」
オールリのレーダーが反応し、ショウがそちらに視線を移す。数機のビッグスーツと、十機近い作業ロボの集団が近づいてくる。
「……スカベンジャー(スクラップを漁って生計を立てる人々)連中か! ここらの残骸
ナスビはすぐにクナイを六本、ニヌギルに向けて
(クソッ、意識を
ニヌギルは近づいてくるスカベンジャー達を見やる。
「ふーむ、戦士でもない雑魚どもか。どうとでもできるがチョロチョロされると
ブォン!
突然の風切り音。寸前で身構えたニヌギルのサタデの左前腕に、一筋の傷が入る。
レイラが一瞬で空中のニヌギルに急接近し、斬撃を放っていた。
「随分と簡単に殺すことをお決めになるのね」
「……ゴミ拾い連中じゃろう? どうでもよかろう」
「彼らが救うべき者か
「ハッ、他人の生かすか殺すかに口を出すか。
「そうですわね。あなたのようなゲス
レイラはニヌギルの真正面で剣を構える。ショウとナスビもクナイを構えて、ニヌギルを空中で包囲する。
「……あんなののために体張るとはのう。まあ残念ながら――無駄じゃがの」
ガコン!
ニヌギルのサタデを運んできた直方体の底面がまた開く。今度は別の位置にある二
「な、何や、アレ……」
ナスビは目を丸くして
「……! 来ますわ!」
二つの金属の塊は突然猛スピードで三人に向かって突進してくる! 慌てて三人が空中で回避行動を取る。
巨大な塊がすぐ近くを
「あれって……
ショウがそう
「さて、止められるかの。ワシの拳は見た目通りの
浮遊する巨大な拳の間で、ニヌギルはニカッと
(ファスト・フィスト・ビースト⑤へ続く)