出現した分身がニヌギルの四方から突撃する。左右の手型兵器は指を広げ、分身たちを叩き落としにかかる。
ボォン! ボォン!
手型兵器に叩かれ、爆散していく分身。それでもなお、十体以上の分身がサタデを追いかける。
(『ビッグハンド』の破壊は
ニヌギルは自らの背後に注意を向ける。地上から飛び上がり剣で斬りかからんと迫る白い機体――レイラのアカトビだ。
「やはりお主か」
バババババ!
ニヌギルは右手のサブマシンガンでレイラを撃つ! ビームはアカトビの頭と胸に何発も命中する。
ボゥン!
「む……」
撃ち抜かれたアカトビは爆散――せずに煙のように霧散した!
(こやつも分身か!)
ニヌギルはすぐにそこから動いて周囲を確認する。
――左斜め後ろから飛んでくる鋭い殺気。
(速い! 間に合うか!)
ニヌギルはすぐの
「惜しかったな
レイラの左右から手型兵器が急接近してくる。そして、
バァアン!
羽虫を潰すように、指を広げてレイラを挟み、叩き潰す!
ボゥン!
「……! まさか!」
左後ろから飛んできたアカトビも煙のように霧散した。これもまた分身!
(バカな、アレは殺気を飛ばしてきたぞ。分身がそんなものを)
ビュン! ビュン! ビュン!
分身の間からクナイが連続して、降下するニヌギルの着地を狙って飛来してくる!
「ちょこざいな!」
バババババ!
着地したニヌギルはサブマシンガンでクナイを撃つ。着弾した瞬間、クナイに装着された煙玉が破裂し、ニヌギルの周囲を煙が
(ぬう、このタイミングで――)
ズバァン!
「!?」
勢いよく何かが削れる音とともに、ニヌギルの乗るサタデのコックピットを激しい振動が襲う。ニヌギルはコックピットで3Dディスプレイを確認する。背中へのダメージを知らせる警告が赤く表示される。
「貴様……!」
ニヌギルは背後を見る。レイラのアカトビがその美しい剣で、サタデの背中を斜め上から斬りつけていた。
(浅い……! もう一撃!)
レイラはもう一歩、強く踏み込み、振り下ろした剣を今度は斜め上に振り上げる。ニヌギルは左手のサブマシンガンを前に構えて後ろに跳ぶ。剣閃がサブマシンガンの銃身を斬り落とす!
後方の空中に飛び上がるニヌギル。レイラはさらに一歩、地面を強く蹴り、上空のニヌギル向かって剣を突き出す!
刺突!
ガギィイン!
「!?」
レイラの剣はニヌギルに届かなかった。
右側の手型兵器が、ニヌギルに攻撃が届くより先にレイラの剣の前に立ちはだかり、手の甲の部分で刺突を防いでいた。
「チッ」
レイラは、そしてニヌギルも思わず舌打ちする。
(こやつ、自分の分身の死角に隠れ、そこから殺気を放って注意を引いたか。
左側の手型兵器が、指を開いたままビンタするように激しく動き、複数の分身を叩いて霧散させていく。
「アカン、今ので押し込めへんか!」
ショウはヒート忍刀を前に構える。
ビビッ
「む……」
サタデのコックピットに電子音が響く。
「時間じゃと?」
ニヌギルは浮遊したまま大きく三人と距離を取り、左右の手型兵器を隣に戻す。
「なんや?
ナスビは負傷していない右手でクナイを構える。それを無視するかのように、浮遊する直方体の三つのハッチが開き、ニヌギルと手型兵器が吸い込まれていく。
ショウとレイラが逃がすまいと直方体に接近を試みると、直方体の側面で小さなハッチ開いた。ビーム砲だ。
バシュシュシュシュシュッ!
ビーム砲は短い間隔で激しくビームを連射する! たまらずショウとレイラは接近を諦め、ジグザグに回避行動を取る。
「クソッ、逃げられる!」
ハッチの真下でニヌギルが三人を見下ろす。
「安心せい、もうここには来ん。お主らみたいな奴らと、この先ずっと
着地したショウが見下ろす敵に叫ぶ。
「おいコラ逃げんな! 山ほど聞かなあかんことがあんねんぞ!」
「お主とてワシ相手に余裕というわけでもあるまい。お互い無理はよそうぞ」
二基の手型の兵器が直方体に格納され、ハッチが閉まる。
「言ったじゃろう、〝イニスアの囚人〟と。名乗っとるんじゃから、後々追いかけてくるつもりなら好きにするがよい」
ニヌギルがそう言い残すと、サタデが直方体にすっぽりと格納されて、三つ目のハッチが閉じる。そして周囲に駆動音を響かせると、直方体は目にも留まらぬ速さで飛び去って行った。
「……行ってもた」
ナスビはその場に足を伸ばして座り込んだ。空を見上げてふーっっと息を吐く。
「……初のビッグスーツ任務でようやったな」
「え、急に
「……ブン
レイラは剣をしまうと二人の方へ歩み寄り、ナスビの左腕を見る。
「治療が必要ですわね。さっきの様子からして相手もすぐには戻ってこないでしょう。一旦引き上げましょう」
(ファスト・フィスト・ビースト⑦へ続く)