目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

ファスト・フィスト・ビースト⑥

 出現した分身がニヌギルの四方から突撃する。左右の手型兵器は指を広げ、分身たちを叩き落としにかかる。


 ボォン! ボォン!


 手型兵器に叩かれ、爆散していく分身。それでもなお、十体以上の分身がサタデを追いかける。


(『ビッグハンド』の破壊はあきらめてワシ本体に的をしぼりに来るか。分身を出した青いのと橙色のがまぎれて攻めてくるか――否)


 ニヌギルは自らの背後に注意を向ける。地上から飛び上がり剣で斬りかからんと迫る白い機体――レイラのアカトビだ。


「やはりお主か」


 バババババ!


 ニヌギルは右手のサブマシンガンでレイラを撃つ! ビームはアカトビの頭と胸に何発も命中する。




 ボゥン!


「む……」


 撃ち抜かれたアカトビは爆散――せずに煙のように霧散した!


(こやつも分身か!)


 ニヌギルはすぐにそこから動いて周囲を確認する。


 ――左斜め後ろから飛んでくる鋭い殺気。


(速い! 間に合うか!)


 ニヌギルはすぐの迎撃げいげきあきらめ、大きく体を倒し、そのまま重力を味方につけて急降下する。レイラの振り抜いた剣が彼がいた場所で空を斬る。


「惜しかったなお嬢さんフロイライン!」


 レイラの左右から手型兵器が急接近してくる。そして、


 バァアン!


 羽虫を潰すように、指を広げてレイラを挟み、叩き潰す!




 ボゥン!


「……! まさか!」


 左後ろから飛んできたアカトビも煙のように霧散した。これもまた分身!


(バカな、アレは殺気を飛ばしてきたぞ。分身がそんなものを)


 ビュン! ビュン! ビュン!


 分身の間からクナイが連続して、降下するニヌギルの着地を狙って飛来してくる!


「ちょこざいな!」


 バババババ!


 着地したニヌギルはサブマシンガンでクナイを撃つ。着弾した瞬間、クナイに装着された煙玉が破裂し、ニヌギルの周囲を煙がおおって、視界を奪う!


(ぬう、このタイミングで――)




 ズバァン!


「!?」


 勢いよく何かが削れる音とともに、ニヌギルの乗るサタデのコックピットを激しい振動が襲う。ニヌギルはコックピットで3Dディスプレイを確認する。背中へのダメージを知らせる警告が赤く表示される。


「貴様……!」


 ニヌギルは背後を見る。レイラのアカトビがその美しい剣で、サタデの背中を斜め上から斬りつけていた。


(浅い……! もう一撃!)


 レイラはもう一歩、強く踏み込み、振り下ろした剣を今度は斜め上に振り上げる。ニヌギルは左手のサブマシンガンを前に構えて後ろに跳ぶ。剣閃がサブマシンガンの銃身を斬り落とす!


 後方の空中に飛び上がるニヌギル。レイラはさらに一歩、地面を強く蹴り、上空のニヌギル向かって剣を突き出す!


 刺突!




 ガギィイン!


 「!?」


 レイラの剣はニヌギルに届かなかった。


 右側の手型兵器が、ニヌギルに攻撃が届くより先にレイラの剣の前に立ちはだかり、手の甲の部分で刺突を防いでいた。


「チッ」


 レイラは、そしてニヌギルも思わず舌打ちする。


(こやつ、自分の分身の死角に隠れ、そこから殺気を放って注意を引いたか。攪乱かくらん役に回っとる二人組も上手く合わせてきおる)


 左側の手型兵器が、指を開いたままビンタするように激しく動き、複数の分身を叩いて霧散させていく。


「アカン、今ので押し込めへんか!」


 ショウはヒート忍刀を前に構える。




 ビビッ


「む……」


 サタデのコックピットに電子音が響く。


「時間じゃと?」


 ニヌギルは浮遊したまま大きく三人と距離を取り、左右の手型兵器を隣に戻す。


「なんや? 撤退てったいか!?」


 ナスビは負傷していない右手でクナイを構える。それを無視するかのように、浮遊する直方体の三つのハッチが開き、ニヌギルと手型兵器が吸い込まれていく。


 ショウとレイラが逃がすまいと直方体に接近を試みると、直方体の側面で小さなハッチ開いた。ビーム砲だ。


 バシュシュシュシュシュッ!


 ビーム砲は短い間隔で激しくビームを連射する! たまらずショウとレイラは接近を諦め、ジグザグに回避行動を取る。


「クソッ、逃げられる!」


 ハッチの真下でニヌギルが三人を見下ろす。


「安心せい、もうここには来ん。お主らみたいな奴らと、この先ずっとりあってても飽きるし、老体にこたえるしのう」


 着地したショウが見下ろす敵に叫ぶ。


「おいコラ逃げんな! 山ほど聞かなあかんことがあんねんぞ!」

「お主とてワシ相手に余裕というわけでもあるまい。お互い無理はよそうぞ」


 二基の手型の兵器が直方体に格納され、ハッチが閉まる。


「言ったじゃろう、〝イニスアの囚人〟と。名乗っとるんじゃから、後々追いかけてくるつもりなら好きにするがよい」


 ニヌギルがそう言い残すと、サタデが直方体にすっぽりと格納されて、三つ目のハッチが閉じる。そして周囲に駆動音を響かせると、直方体は目にも留まらぬ速さで飛び去って行った。




「……行ってもた」


 ナスビはその場に足を伸ばして座り込んだ。空を見上げてふーっっと息を吐く。


「……初のビッグスーツ任務でようやったな」

「え、急にめてくるのキモッ。当然やん、試験はアンタより良かったって言うたやろ」

「……ブンなぐったろかおまえ」


 レイラは剣をしまうと二人の方へ歩み寄り、ナスビの左腕を見る。


「治療が必要ですわね。さっきの様子からして相手もすぐには戻ってこないでしょう。一旦引き上げましょう」




(ファスト・フィスト・ビースト⑦へ続く)

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?