その城はまるで地獄から来た巨大な悪魔に見えた。
コストも耐久性も全く考えていなさそうな無意味な形状と角。窓なのか何なのかよくわからない不気味な光を放つ半透明のパネルが沢山。嵐の中、ガンメタリックの外壁が雷に照らされる。
雷鳴は城の中にも響く。無機質な床と壁に囲まれた広大な空間、その中央を渡るように敷かれた長大な赤絨毯。その先にあるのは角と髑髏という悪趣味な装飾が施された玉座。座るのは頭にアルミホイル製の帽子を被り、白衣を纏う男だ。
「また奴の仕業か、ゲイリー」
玉座に座る男に名前を呼ばれたモヒカンヘアーに肩パッドの男――ゲイリーは、赤絨毯の上で片膝をつき、頭を垂れている。
「暗黒ロボ三体は『エクスギャリワン』に全て破壊されました。申し訳ございませんハライータ様。私、腹を斬ってお詫びを」
「よい」
玉座のアルミホイル男――ハライータ・フック二世は右手を前に上げ、ゲイリーを制止した。
「今貴様を失えば、それこそゴロゴロ団の壊滅は必至。誠意はエクスギャリワンの首を以て示せ。ベンピ!」
ハライータがその名を呼ぶと、一陣の風とともに、赤絨毯の上にもう一人、ドレッドヘアーに肩パッドの男――ベンピが片膝をついて現れた。
「ベンピ、参りました」
「ゲイリーとともにエクスギャリワンを討伐せよ。一度段取りを練るがよい。必要なものがあれば用意する。ゲイリーもよいな?」
「かしこまりました」
ゲイリーとベンピは闇に溶けるようにその場を後にした。
ハライータは頬杖をついて、雷鳴が響く暗い玉座の間でひとりごつ。
「駄犬が……今に見ておれ」
◇ ◇ ◇
「どう思う?」
「いやー」
「だって、ねぇ」
地上艦「レトリバー」。いつも通り食堂にたむろしているカリオ・ボーズ、ニッケル・ムデンカイ、リンコ・リンゴの三人の傭兵は、タブレット端末に表示されている傭兵募集の求人票を見ている。
〝世界征服を企む悪のゴロゴロ団との戦闘の補助業務。経験豊富な勇者が同行します。報酬八千万テリ、加えて気分でボーナスあり――カブーム博士〟
「いや……本当に怪しい求人ってのはもっと上手に怪しさを隠してるはずだ。例えば簡単な運び屋業務かつちょっと高めの報酬で、一見オイシイ仕事だけど、実は中身が都市トップレベルの重鎮の機密情報とかですごい危ないとか……つまり怪しさしかないこの求人は……アリなんじゃないか!?」
「なるほど!」
「何もナルホドくねえよ!?」
ニッケルの考察に納得しかけるリンコにカリオがすかさずツッコミを入れる。
仕事の忙しさというのは、時折予想だにしないタイミングで乱高下することがある。原因不明の客の減少。知らぬ間に経営不振に陥っていた取引先。
東へ進むレトリバーの傭兵達は、赤い機体――フライデと激しく戦い、シノハラシティで休暇を取ってから五日、まだ次の仕事を取れていなかった。フライデとの戦いの後、三週間近く無収入の状態になっている。
「この辺一帯の求人全部埋まってるとはなあ。なんか同業者が集まるような話でもあったか?」
ニッケルが顎に手を当てる。貯金こそまだあるが、流れとしてはよくない。食費・維持費で削れていけば、艦やビッグスーツの運用に大きな支障をきたすことになりかねない。
「……一応、面談はあるのか」
「顔合わせだけでもしてみる?」
カリオとリンコも眉間にしわを寄せて画面を睨みながら考えている。そこへ艦長のカソック・ピストンがやってきた。
「調べてきた。近辺のマフィアと街の間で緊張がかなり高まっているみてえだな。両者大量に傭兵を雇って睨み合いが続いている。規模の小さい他のワルどもは迂闊に手を出せねえほどらしい。大方の予想では大規模な交戦にはならず、そのうち沈静化するとは言われちゃいるみてえだが……」
「そっちで手一杯になってるから他の依頼を出している余裕はないって感じか」
ニッケルはカリオとリンコと目を合わせる。
「……一回、会ってみるか。カブーム博士」
「他にないんだったらなぁ」
「ダメだったらどこかのレストランで皿洗いでもしよっか」
三人はそう決めると、ため息をついてテーブルに突っ伏した。
◇ ◇ ◇
「ボン! 面談に来てくれることになったぞ!」
白髪は黒焦げ、顔は煤だらけになっている白衣の男――カブーム博士が部屋の奥から誰かを呼ぶ。
ヘッヘッヘッヘッヘッヘッ……
その声に応えるように、フワフワの白い毛に包まれた小型犬が姿を現した。
(名犬勇者エクスギャリワン②へ続く)