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名犬勇者エクスギャリワン②




 ◇ ◇ ◇




 燦々《さんさん》と降り注ぐの光を、銀色の金属きんぞくの壁とき通ったガラスが反射してきらめく。


 テエリク大陸中部の小さな町、アキタタウンへ到着とうちゃくしたレトリバー。先の求人を出したカブーム博士はかせがここにいるという。


 一見して他の大きな都市と比べると、人口は半分にも満たないのではと思われるほど小さな町だが、並ぶ建物はどれも小奇麗こぎれい頑丈がんじょうそうなモノばかりで、通りでは最新モデルの車やドローンが行き交う。


随分ずいぶんハイテクな感じの街だな」

「時間あったらマヨも散歩させるか」

「なんかみんな宇宙人みたいなファッションだねー」


 車を運転できる人間がいないので、いつものようにカソックとカリオ・ニッケル・リンコの四人は、歩いてクライアントの元へ向かう。




 十五分ほど歩いてこの辺りのはずと、周りを見回した時だった。


 KABOOOOOOM!!


 突如、一軒の建物から強烈きょうれつ爆音ばくおんが聞こえ、その屋根やねが空中に飛び上がった! 屋根がなくなった建物の上側と側面の窓から煙と炎が噴き出す!


爆発ばくはつだーッ!?」


 数ブロック先で立ちのぼる煙を目の当たりにして、カリオ達四人は一斉に思わず叫んでしまう……が、不思議なことに周囲を歩く人々は何もおどろいた様子を見せない。おー、と言いながらのんびりながめる人もいれば、見向きもせずに通り過ぎていく人までいる。


「え!? なんでそんな平常運転!?」

「おお、ひょっとしてよそ者かい?」


 混乱するカリオ達に話しかけてきたのは、可愛かわいいデザインの三輪スクーターにまたがった宅配屋のおじさんだ。


「心配はいらんぞ。あそこはカブーム博士っちゅう変な科学者の研究所なんだ。日に三回は爆発するので、ああやって屋根が爆風でいい感じに浮き上がるようにできてるんだ」

「待ってその情報すぐには飲み込めないんだけど」


 リンコがそう話す横で、カリオとニッケル、カソックはポカンと口を開けて、ただただ建物から立ちのぼる煙を見上げている。


「……カブーム博士って言ったよな今」

「カリオがそういうなら俺の聞き間違いじゃねえな……やっぱやめねえか? オヤジはどうだ?」

「むう、流石に強烈だからな……」

「……ここから電話入れちゃう? いや待って待って、もう長いこと収入ないじゃん? もう少し我慢がまんして……」


 四人が顔を見合わせて相談する。傭兵ようへい生業なりわいとしているとあやしい人間や組織を目にする機会はいくらでもある。無害な市民をよそお盗賊とうぞく、情報を隠蔽いんぺいする企業……。だが近隣きんりんの住民が慣れてしまうほど、毎日爆発するクライアントは初めてだった。




「お前らカブーム博士に会いたいのか?」




 不意に誰かの声が聞こえた。おどろいた四人は周囲を慌てて見回す。こちらを気にせず歩く通行人と走る自動車しか見当たらない。


(気配がえ……! てきか!?)


「こっちだこっち」


 下から声が聞こえる。四人は足元を見た。カリオとニッケルの間に、白いふわふわした毛に包まれたポメラニアンらしき犬がいる。


「犬……」


 犬。どうしてここに。


 そんな疑問ぎもんを頭に浮かべながら、四人は再び辺りを見回し声の主を探す。


「おい! 俺で合ってる! 俺が話しかけてんだ、カブーム博士に会いたいのかって!」


 また下から声。四人は再度足元を見るが……やはり犬しかいない。




 ――声はその犬の口から飛び出してきた。


「そう、俺だよ俺。オレオレ詐欺じゃないが……カブーム博士の所なら案内できるぞ」




 四人の頭の中から全ての思考が吹き飛ぶ。脳を支配するのは虚無。


 足元の白いポメラニアンが、男前な声で流暢なマール語人間の言葉しゃべっているのだ。


「なんだ間抜けな顔してボーっとして……あ! もしかしてゴロゴロ団との戦いを手伝ってくれる人達か! そうだなそうだろう」

「待っ、その、ごめんなさい待って、ちょっと」

「付いてきな。VIP待遇たいぐうだ、間違まちがいない」


 リンコが制止するのを聞かずに、犬は尻尾を振りながら歩き始めた。


「……ヤバくないかヤバくないか」

「……どうするどうする」


 思考能力の落ちたカリオとニッケルが同じ言葉を繰り返す。大陸を駆け巡り、様々なモノを見てきた四人だったが、言葉を話す犬は流石さすがに初めてである。しかも依頼人いらいにんと関係があるようだ。もしかしたら、自分たちはとんでもなく混沌とした仕事ヤマに飛び込もうとしているのかもしれない。四人はそろって自分たちの頬をつねり、これが現実であるか確かめた。


「博士のこの前の発明が大ヒットしたからな。今回の依頼はボーナス確定だろうなぁ」


 犬は地面のにおいをぎながら話す。


「ボーナス」

「ボーナス」

「ボーナス」

「……ボーナス」


 ――四人は無言で見つめ合うと、犬の後ろについて歩き始めた。三週間収入無しの状況である。そんな中、喋る犬が口に出したボーナス。求人票の通りに報酬ほうしゅうが払われるなら、一億テリ近い報酬が期待できるかもしれない。期待と不安が入り混じる中、四人は白い小型犬のおしりを見つめながらついていく。


「お前らうでが立つな。戦っていなくても目と動きを見ていればわかる」


 三人とも犬に傭兵としての腕をめられるのは初めてである。というか、惑星マールで他に犬に人語で褒められた人はいるのだろうか。


「俺の名前はボン。オス。犬種はバトルポメラニアンだ。この街で勇者をしている」




(名犬勇者エクスギャリワン③へ続く)

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