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名犬勇者エクスギャリワン③




 ◇ ◇ ◇




 さて、先ほど派手はで爆発ばくはつしていた建物の目の前までやってきた。三階建かいだての住宅にも見える、コンクリやら金属やらガラスやらトタンやら色んな素材に包まれたSFチックなデザインの建物。その周囲には先ほどの爆発のせいか、なんかいだことのない変な匂いがただよっている。




 ヘッヘッヘッヘッヘッヘッ……


 舌を出しながら歩いていた白いバトルポメラニアン――ボンは足を止めると四人の方へ振り返った。


「ちょっとそこで待っててくれ。……博士はかせ! 生きのいい人間が来た!」


「カブーム研究所」とすみで書かれた木の看板の下を犬が潜っていく。レトリバーの四人は建物の中に顔を突っ込んで覗いてみる。入口を入ってすぐの場所は、車を整備するガレージに似た広い空間となっていた。作業場のようだ。


「ボン! 散歩は終わったのか……生きのいい人間!? 新発明品の被検者か!?」


 建物の奥から、ボサボサの白髪しらがと白衣をすすだらけにし、ゴーグルを掛けた初老の男性が姿を現す。ボンは尻尾を振りながらその足下に進んで、彼を見上げる。


「違う! ゴロゴロ団と戦ってくれる生きのいい戦士だ!」

「なんと」


 男はゴーグルを上げると目を丸くして四人に近づく。目力が強い。


「私はカブーム博士。こいつはボン。えーと、なんだったかな……そうだ! レトリバーって船の傭兵さん達か! 案内する、こっちへ来てくれ」

「待っ、その、ごめんなさい待って、ちょっと」

「ミス・ズドン、四人分のお茶を用意してくれ!」


 リンコの制止を聞かずに、煤だらけのカブーム博士は作業場の脇にあるドアへと速足で進んでいく。


「……ここまで踏み込んじまったらヤケだな」


 言葉の通り、四人はヤケクソ気味にカブーム博士についていく。ドアの中へ進むと、ずらりとコミックが並んだ背の高い本棚ほんだなと、傷んだソファとテーブルがある。一応、応接室おうせつしつのようだ。




すわってくれ。何から話すべきか……」

「あの……じゃあもう少しあなた方の事を聞いてもいいだろうか」


 ソワソワするカブーム博士にカソックはそうお願いしてみる。横で三人の傭兵がブンブンと頭を縦に振ってうなずく。


「まずその……博士というのは……ここで何か実験などをしている感じ……なのか?」

如何いかにも! 私はここでテエリク大陸での人々の暮らしを守るべく日夜研究に勤しんでいる。衝突寸前でワープして事故を回避する車、輸血用の血液の不足をカバーする代替血液だいたいけつえき(緑色)、眠くならない風邪薬かぜぐすり噓発見器うそはっけんき……進行中のプロジェクトは現時点で二千九百三十五個ある」


 カソックからの質問に答えるカブーム博士に、ニッケルが続けてたずねる。


「じゃあさっきの爆発は」

「ああ、アレを見てたのか。砂漠さばく地帯で使用すると周囲に草木を生やすポータブル冷暖房機れいだんぼうきの実験中に発生したものだ。お恥ずかしいところをお見せしたようだな」


 ……四人は額に手を当ててうつむく。そこへボンが近寄ってきた。


「あー、そうだった……この犬」

「犬じゃない。いや犬だが、ボンだ」

「ああ、すまんボン。その……ボンはなんか普通に人の言葉を話してるんだが」


 質問するニッケルと横に座るカリオとリンコ、カソックの視線がカブーム博士に集中する。


「んむ、ボンは古代イニスア文明の遺跡いせきで、コールドスリープ状態となっていたバトルポメラニアンだ。いや、私もボン本人から聞いた話でしかないんだが」


 そう話す博士に続いて、ボンも話に加わる。


「俺はその時代の研究施設で誕生した人工ワンコだ。コールドスリープから目覚めた時、この世界に危機が迫っていることを察したのだ。そこでとなりにあったこの研究所を訪ね、カブーム博士に協力を依頼して、勇者になったのさ」

「勇者……ってか隣って言った今?」

「んむ、研究所の隣に穴がいっぱい開いてる空き地があっただろう。あれがボンの眠っていた遺跡だ」


 カブーム博士はかべの方を指さす。言われてみればこの壁の向こう側にはなんかしょっぱい空き地があったなあ、と思い出した四人はまた額に手を当てて俯いてしまう。




「オチャトオカシヲオモチシマシタ」


 テーブルにメイド服を着た白いボディのアンドロイドが、紅茶とクッキーを運んできた。どうやら彼女がミス・ズドンのようだ。


 レトリバーの四人はお茶とお菓子にはすぐに手を付けず、顔を寄せ合い小さな声で相談し始める。


(アウトだよな。カリオ、リンコ、オヤジ)

(アウトだろ)

胡散臭うさんくささが私の中で史上最高なんだけど)

(流石に断るか? どうやって断ろうか……)




「大変だカブーム博士! ボン!」


 研究所の外から博士とボンの名前を叫ぶ声が聞こえてきた。聞くや否やボンはそちらへ全力で走っていく。カブーム博士とレトリバーの四人も慌ててその後に続く。


「どうしたボブ、そんなに慌てて」


 ボンは声の主であるボブ、近所に住んでいる青年に尋ねた。


「トサタウンへ向かっていたウチの車列が悪魔ロボを見かけたらしい! 慌てて逃げたから怪我人はいないみたいだけど……こっちに向かってくるつもりかも!」


 それを聞いたボンはワン! とえた。


「場所はわかるかボブ!」

「車列にいた奴らが座標を記録してるよ! 画像データもある!」


 ボンは振り返り、カブーム博士と目を合わせる。


「博士、エクスギャリワンは出せるか?」

「いつでも出せる! ボブ! ワシにそのデータを送れるか、エクスギャリワンと共有する!」


 ボブは頷くと携帯通信機を取り出し、仲間に連絡する。


「悪魔ロボ? エクスギャリワン?」


 カリオは疑問形でそれらの単語を口にする。


「道すがら話す! ついてきてくれ! 船着き場までの地下シャトルポッドに乗る!」

「どうしよう。私、展開に頭が追い付かない」


 ボンは研究所内の地下への入り口に向かって駆け出した。




 ◇ ◇ ◇




「ベンピ、問題ないか」


 ビッグスーツのコックピットでハライータ・フック二世の部下、ゲイリーは仲間のベンピに無線で話しかける。


「問題ない。これであの目障めざわりな駄犬だけん勇者――エクスギャリワンの大切な町はおしまいだ」


 それを聞いたゲイリーの口角が少しつり上がる。


「そうだな。あの町の次は大陸全土だ! ハライータ様の帝国を築くのだ!」




(名犬勇者エクスギャリワン④へ続く)

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