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名犬勇者エクスギャリワン⑤

「調子に乗るなポメラニアン風情ふぜいが! 野郎どもかかれ!」


 ゲイリーの号令と共に、町に侵攻しんこうしようとしていたビッグスーツの群れがボンの方へと向き直り、武器をかかげておそい掛かる。


 ヒュルルルル……


 そこへ再びの風切り音。複数のロケット弾がビッグスーツの群れに降り注ぐ!


「ぬわああ!」


 ボボボボンボン!


 三機のゴロゴロ団ビッグスーツにロケット弾が直撃し、それらは大破する!


「アキタタウンの防衛設備ぼうえいせつびによる援護射撃えんごしゃげき……ずるいぞエクスギャリワン!」

「勇者はズルなどしない! これは友情アクションだ!」


 ダダダダダ!


 ゲイリーの部下達がボンを狙って銃火器を斉射せいしゃする! ボンはエクスギャリワンを華麗に左右に跳躍ちょうやくさせ、難なく回避。間髪かんぱつ入れず上空へ跳び上がり、眼下がんかの敵機達を見据える。その背中には――大型のビームキャノン!


「ギャリワン・サンダアアア!」


 ギャーオン!


 ボンの咆哮ほうこうとともに、エクスギャリワンの背中のキャノンから極太ごくぶとのビームが、敵集団を薙ぎ払うように放たれる! 扇状おうぎじょうの範囲を通過するビームに飲み込まれた、五機のゴロゴロ団ビッグスーツが大破!


「クソッ! 相変わらずイカれた装備だ!」


 おびえ始めた部下達の頭上を影が飛び越す。甲板から跳躍したゲイリーの二つ頭の機体が、エクスギャリワンとゴロゴロ団の部下達との間に降り立った。




「フン、使えん部下達だ。あっさり死におって」

「貴様の人材活用スキルの低さのせいで、奴らはギャリワン・サンダーの餌食えじきになったのだ。奴らには大人しくデスクワークでもさせておくべきだったな」

「ベラベラベラベラと本当に口やかましい駄犬だけんだな……しつけるのも面倒だ、ぶち殺してくれるわ」


 ゲイリーは機体に持たせているライフル状の兵器の銃口をボンに向けて、トリガーを引く。


ボォオオオオオ!!


 その瞬間、すさまじい炎がゲイリーの前方をおおいつくす勢いで放たれた! 原始的、しかし強力な火炎放射器!


「なんて威力いりょくだゲイリーさんの新武器……そうか! エクスギャリワンがいくら速くても周囲百メートルを一気に焼かれたらどうしようもねえんだ!」


 歓声を上げる部下達。




「そんなことはねえんだが!!」


 その言葉とともに、ゲイリーの目の前で荒れ狂う炎の嵐の中から、ボンが飛び出してくる。ボンは勢いそのままゲイリーを引き裂かんと、前脚まえあし特殊素材とくしゅそざいつめを展開して振り下ろす!


「ギャリワン・スラッシュ!」

「クッ!」


 ゲイリーは横に転がって、間一髪爪をかわす。着地したエクスギャリワンのコックピットでボンがグルルルとうなる。


「火炎放射なんぞすぐに貴様のふところに飛び込んでしまえば、ビームや実弾での射撃と違って大したダメージは受けんわ! まあちょっとは効くけど」


 装甲の所々が、熱でチリチリと音を立てるエクスギャリワンを前にして、ゲイリーはたじろぐ。


(攻撃を見てから行動を選択するまでの判断が早い! 相変わらず駄犬のくせにこなれてやがる……!)




「ふん、貴様あれか。いつものベンピとかいう相棒あいぼうがいなければそんなもんか」


 あおるボン。それを聞いて何故か笑みを浮かべるゲイリー。


「ククク……気づいておらぬようだな。ベンピならここではなく、町の別の方角から襲撃しゅうげきを始めておる!」

「何!?」

「俺はおとりなのだ! 貴様を釣り出し町から遠ざけて、その間にベンピの隊が町を襲うって寸法よ!」

「なるほど、アレはベンピの隊だったのか! 何なんだろうなアイツらと思ってモヤモヤしてたんだ!」


 ゲイリーの顔から笑みが消える。


「……えっ、もしかして気づいてた?」

「うん」




 ◇ ◇ ◇




「聞いていないぞ!」


 ズバァン!


 眼前で部下の機体が真っ二つにされるのを見ながら、ベンピは叫ぶ。ベンピの部下を斬ったカリオは体の力を抜いて、ベンピの黄緑色のビッグスーツと向き合う。


奇襲きしゅうしかけようとしててそりゃねえだろ」

「そんなことない! あの駄犬に味方がいる方がおかしい!」


 ため息をつくカリオの横に上空からニッケルが着地する。その後ろにはニッケルが撃ち抜いたゴロゴロ団の機体が転がっていた。


「てか俺らが居なくてもそこそこのレーダーが配備されてたら察知されるぞ、お前らがいた場所」

「そ、そ、それでもアイツ一匹だったら手が回らなくなるはずだったのに!」


 ニッケルの容赦ようしゃない指摘に、ベンピの声が裏返る。


「リンコは先にボンの援護に向かわせた」

「わかった。俺らもさっさと片付けよう」


 武器を構えるニッケルとカリオをベンピは血走った目でにらむ。


「ぶっ殺したらああ!!」


 ベンピの機体の両手には、とげ付き鉄球をくさりつないだモーニングスター。ベンピはそれを振り、カリオとニッケルに対して一つずつ鉄球を飛ばす。カリオとニッケルは横に跳躍して難なく躱す。




 ズババババ!!


「!?」


 鉄球が避けられた直後、それに付いていた棘が外れて飛び出し、ミサイルのようにカリオとニッケルへ向かって飛んでいく! 予想だにしないギミックにカリオとニッケルは思わず防御の構えを取る。


 ザシュッザシュッザシュッ!


「クソッ」


 ニッケルは飛んできた棘を、コイカルに装備された左腕のシールドで全て受け止めた。シールドには無数の棘が刺さっており、その危険性を物語っている。


「ってこりゃ……おい、カリオ! 大丈夫……そうじゃねえなぁ」

「あー痛え! ふざけやがって」


 ニッケルはカリオの乗るクロジを見る。盾を持たないその機体の左腕には三本の棘が刺さっていた。コックピットのカリオの左腕からは、少なくない量の血が流れ出る。


「クククッ。意表を突いた攻撃ゆえ、思わず腕を前に出してしまったみたいだな! 奇襲! アンブッシュ! それこそが老若男女種族問わず最大の武器とされた世界共通の必殺――」




 ズバァン!


 上機嫌で笑うベンピの首が、胴から離れて膝の上に転がり落ちる。カリオのビームソードの横薙よこなぎが、ベンピのビッグスーツの首を斬り落としていた。


「ア……?」

「ヤッパ抜いてる相手の前では喋りすぎない方がいい」


 頭部を失ったベンピのビッグスーツは仰向けに倒れ、動かなくなった。




「部下も残ってはいないみてえだな」

「左腕は大丈夫か?」

「クソ痛えが戦闘は継続けいぞくできる。ボンとリンコに合流しよう」


 カリオとニッケルはレーダーで位置を確認し、リンコに通信を入れる。


(にしても、思ったより敵が大したことねえな。かえって後で一波乱ありそうな気がしてイヤなんだが……)




 ◇ ◇ ◇




 ガァン!


 リンコの狙撃がゲイリーの部下の機体を射抜く。ボンとリンコの攻撃によって部下連中は全滅、残りは親玉のゲイリーのみだ。


「もしかして、私援護に来なくてもよかったっぽい? ワンちゃん」

「ワンちゃんじゃないボンだ」

「あはは、ゴメンゴメン」


 ゲイリーは絶体絶命のピンチに目を血走らせ、歯ぎしりする。


「クソッ! エクスギャリワンに味方のビッグスーツだと……」

「言ったはずだ。今日の正義は大盛だと」



 ボンとゲイリーから離れた位置の大きな岩の上で、リンコはビームスナイパーライフルのスコープを覗き、銃口をゲイリーに向ける。


「さて、降参する? 悪党さん。悪いけどアンタの顔面にもう照準は合わせ――」

「ギャリワン・トルネェエドォオオオ!!」


 ギュォオーン!


 リンコがゲイリーに降伏こうふくうながしている最中に、突如ボンの乗るエクスギャリワンがドリルのように高速回転! そのまま流星のごとくゲイリーに突進すると、鋭い爪がゲイリーのビッグスーツの胴体に風穴をあけた!


「ちょ――」


 ゲイリーは断末魔を上げる間もなく絶命。肉体は跡形もなく消滅し、穴のあいた機体は様々な箇所から火花を上げて崩れ落ちた。何故頭部が二つあったのか結局わからないまま。


「えー……容赦ようしゃなし」

「この勇者ボン、涙と甘さは地獄じごくに置いてきた」

「やっぱ私いらなかったっぽい?」




(名犬勇者エクスギャリワン⑥へ続く)



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