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名犬勇者エクスギャリワン⑥




 ◇ ◇ ◇




「なんだ、そっちも終わったのか」


 ビッグスーツを低空飛行させて移動するニッケルとカリオは、リンコから戦闘終了の連絡を受ける。


「割とすんなり終わったが丁度ちょうどいい。その左腕は今のうちに船医ヤムさんに診てもらった方がいいだろ」

「あんな変なの相手になんか俺だけ怪我ケガしてんの恥ずかしいんだけど」


 一度レトリバーへ戻ろうとするカリオ達に、そのレトリバーから通信が入る。


「レーダーに不審ふしんかげが映ってる。大きさは百メートル四方……かなりデカい、時速百キロメートルでそちらへ移動中」


 カリオとニッケルは顔を見合わせる。


「タイミング的に嫌な感じがするな。ブリッジ、距離はわかるか?」

「リンコのいる位置にあと二、三分で着く見込みだ」

「マジかよ」


 ニッケルがブリッジとやり取りする横で、カリオはリンコとボンがいる方向を見やる。


「早いとこアイツらと合流しちまおうニッケル」




 ◇ ◇ ◇




「ちょっとちょっとワンコワンコ!!」

「ワンコじゃねえボンだ! お前だって自分の名前じゃなくて人間って呼ばれたらいい気はしな――」

「ゴメン、ボン! いやとりあえずアレヤバくない!? 近づいてくるんだけど! アレ何ー!?」


 ボンと通信を取りながら、コイカルのコックピットでリンコは、カメラをズームして見えてきたモノに驚き、声を上げる。


「ってかひょっとしてアレってさ、アレって……」


 コストも耐久性たいきゅうせいも全く考えていなさそうな無意味な形状とつのまどなのか何なのかよくわからない不気味な光を放つ半透明はんとうめいのパネルが沢山たくさん。まるで角の生えた悪魔のような――


「さっき映像で見た敵さんの要塞ようさいじゃない!? え、アレって動くの!?」




 その通りであった。時速百キロメートルで突き進むソレは、ゴロゴロ団の要塞そのものである!


 大量のフワリニウム(電気エネルギーにより斥力せきりょくを発生させる惑星マール産の物質)をもちいた、地上艦と同じ仕組みのホバー機構により大地を走る巨大要塞。その内部、広々とした操縦室で、アルミホイルの帽子を被ったゴロゴロ団首領、ハライータ・フック二世は玉座ぎょくざに座り頬杖ほおづえをつく。


「ゲイリーとベンピがやられた……あの駄犬だけん傭兵ようへいを雇うという事態を想定できていなかった。私のミスだ」


 ハライータのほおを一筋のなみだつたう。


「奴らの無念は私が果たす。ゴロゴロ団の頭領とうりょうの務め。残りの兵力の全てを以てアキタタウンを占領せんりょうし! 世界を手中に収める!」




 向かってくる要塞の足元を見ると、ハライータの部下が搭乗していると思われるビッグスーツが複数体、随伴ずいはんしている。


(……とにかく勢いをがなきゃ。このままかれるのだけはカンベン!)


 リンコは音声操作でビームスナイパーライフルの出力を上げる。そしてスコープをのぞいて、照準しょうじゅんを要塞の底部前面に合わせて引き金を引く。


 ギュガァン!


 いつもより強めの反動で、ビームが少し揺らぎながら長い銃身から飛び出す。雷鳴のような音を立ててビームが衝突すると、要塞底部の外部装甲は破損はそんし、崩れ落ちた部分から内部機構が顔を出す。


 ハライータは右手を上げて、要塞を操縦する部下にその進行を停止させる。


「大した威力いりょくよ。迂闊うかつに攻め込めば先にこちらがつぶされるという事か。全戦闘員、先にエクスギャリワンとそれに味方する機体を撃破げきはせよ」




 要塞は前進を停止、それとは逆に随伴していた部下達の機体は速度を上げ、ボンとリンコの方へ向かってくる。


牽制けんせいが効いた。アレ、何発も撃てないから、バレて前進再開されるとマズそうだけど取り敢えずは……)




「おいアレ例の要塞じゃねえのかよ!?」

「うわっマジじゃねえか。もう今日はドン引きすることばっかりだな」


 リンコのコイカルが乗る大岩の隣に、カリオのクロジとニッケルのコイカルが着地する。


「ギリギリで合流できたか、ボンは?」

「ここだ」


 カリオは右のふくらはぎに何か触れているのに気づいてそちらを見る。ボンのエクスギャリワンがクロジのふくらはぎ部分にじゃれるようにまとわりついていた。


「何してんのお前……」

「無事全員合流できたわけだ。勇者の俺には作戦がある。それは」

「リンコは要塞に牽制かけ続けられるか? その間に俺とカリオとボンでビッグスーツ連中を片付ける」

「俺の話に割り込んだな!」


 吠えるボンをスルーして、レトリバーの三人の傭兵は敵集団の方向を見やる。


 ギャオン! ギャオン!


「うわっ!?」


 突如、要塞からビームが放たれる。要塞の装甲のあちこちが開き、ビーム砲が出現していた。カリオ達は散開してビームを回避する。


「よし、行くか!」


 カリオとニッケル、そしてボンは敵集団の中へと突撃する。




「ハイヤーッ!」


 重装歩兵じゅうそうほへいのように槍と大きな盾を装備したビッグスーツがカリオに向かって突撃してくる。


 機体を隠すように前に出された大盾を前に、カリオは腰のビームソードの柄に手をかける。


 フォン!


「ヌワー!?」


 刹那せつな、青色の閃光がX字に宙を走り、大盾ごと敵ビッグスーツが四つに切断される! ウキヨエ流居合術・一瞬二斬バッテン!


「ヒィッ!」


 大技に味方が瞬殺されるのを目の当たりにしたゴロゴロ団達は、思わず後ろに飛び退いてカリオと距離を置く。カリオはちらりと血が流れる自身の左腕を見る。


(左腕は万全じゃねえが、コイツらぐらいなら右腕一本でどうとでもなるか……!)




 バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ!


 ニッケルは二基の浮遊砲台・チョークと連携れんけいを取りながら次々と敵機を落としていく!


「コ、コイツ!」

「速い、囲む間もねェー!」


 親となるコイカルと、子となるチョーク二基の合計三つの砲門。その内一つで相手の注意を引き、残りの二基で死角から撃ち抜く。シンプルな戦法だが、ニッケルは素早く操作し、一機ずつ確実に落としていく。


(コイツらもそれほど厄介やっかいじゃねえか……要塞本体は……)




「ギャリワン・サンダアアア!」


 ギャーオン!


「ヌワー!?」


 再び大型ビームキャノンでゴロゴロ団の機体達を薙ぎ払ったボンは、そびえ立つゴロゴロ団アジトを見上げる。


「ゴロゴロ団頭領、ハライータ・フック二世! あと三分で貴様の喉元のどもとに届くぞ」


 ボンは低くうなり声を上げる。


「……それは違うな駄犬よ」


 ガァン! ガァン!


 リンコの狙撃を装甲で受け続ける要塞の内部で、ハライータは指をパチン、と鳴らした。




 ズズズズズ……


「!? ……今度は何!?」


 リンコはスコープから目を離して、前方を見やる。狙撃を受け続けてボロボロになった、要塞の装甲ががれ落ちていくのが見える――だがそれだけではなかった。


 ガコンガコンガコンガコンガコン……


 装甲だけではない。要塞を構成する内部機構も含めたパーツが次々と外れていく。


「おいおいおい……」

「アレ一体何してんだ」


 ゴロゴロ団のビッグスーツを粗方あらかた倒し終えたカリオとニッケルも、その様子に目を奪われる。


「それは違うな駄犬よ。貴様は私の喉元には……たどりつけずに踏みつぶされる」


 ガコガコン!


 パーツを外し終わった要塞がゆっくりと動き出す――あろうことかそこには二本の腕と二本の足が生えていた。




「これがモンスタンク『サダイタン』の真の姿よ、終わらせてやるぞエクスギャリワン!」


 要塞の正体は、百メートルを超える身長の巨大な二足歩行型モンスタンクであった! 角の生えた頭部は周囲に威圧感いあつかんを与え、赤いカメラアイがボンたちをするどにらむ。


「来るがよいいエクスギャリワン! 死ぬ前にお気に入りのジャーキーを食べてなかったことを後悔こうかいすることだな!」


 ハライータは高笑いしながらあおる。


「……お気に入りは出撃する前にちゃんと食べてたが」


 ボンはエクスギャリワンのコックピットでブルブルと体をドリルのようにふるわせる。


生憎あいにくここで死ぬつもりは……ない!」




(名犬勇者エクスギャリワン⑦へ続く)




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