目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

名犬勇者エクスギャリワン⑦

 モンスタンク「サダイタン」は眼下がんかのボン達をにらみながら、ゆっくりと足を踏み出す。あまりの重量に一歩歩いただけで周囲の地面が振動する。


「やべえなアレ」

「いや」


 ニッケルは歩くサダイタンを見上げながら話す。


「これ相当無理してるぞ、二足歩行。どこか小突こづいたら弱い部分があるはず」


 そう聞いてカリオはサダイタンの各部を観察する。このような時、ねらう部位として鉄板なのは――


「……関節かんせつ部はどう思う? 動きが少しだけぎこちなく見える。無茶な変形を仕込んだせいかも」

「カリオもそう思うか。足首の関節は装甲がかぶさっていてあまり露出ろしゅつしていない。最初に試すならひざ股関節こかんせつだ」




 二人はそう狙いを決めて武器を構える。その時、サダイタンの両の手のひら中央がまばゆむらさき色の光を放ち始める。


(攻撃……!)


 カリオとニッケルは地面をって横に跳ぶ。紫色の光は手のひらから飛び出して地面をえぐる!


 ピギャーオン! ゴゴゴ!


「つぁっ……!?」


 カリオのクロジとニッケルのコイカルは思わぬ規模の爆風を受けて真横に体勢を崩して吹き飛ぶ! 周囲に激しく砂埃すなぼこりが舞い、地面には直径二十メートル以上のクレーターが出現した!


威力いりょくがやべえ! こんなんじゃこれ以上街には近づけさせられねえぞ!」

「ボンはどうした!? 無事か!?」


 ニッケルが周囲を見回したその時、砂埃の中からボンが飛び出す。


「やらいでか!」


 ボンは背中のビームキャノンをサダイタンへと向ける。その時、サダイタンの肩部から何かが飛び出して、ボンのエクスギャリワンに向かっていく。飛んできたそれは自身の下部に装着された小型のビームガンで、ボンを狙って射撃を始めた!


バシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッ!


「ぬわー! 護衛ごえいドローン!?」


 慌ててボンは横に退いて回避する。




「数が多いな、三十基ぐらいいるか?」

「それだけじゃない。あのデカブツ、体のあちこちに迎撃げいげき用の火器を搭載とうさいしてやがる」


 ニッケルは二の腕や太ももに無理やり配置したかのような砲台を目にして言う。


「簡単にふところもぐり込ませてはくれないという事か。痛打つうだ見舞みまうには……やはりおとり作戦」


 ボンがそう話すとエクスギャリワンの緑のカメラアイが光り、カリオのクロジを見つめる。


貴公きこう! 囮!」

「なんでだよ!」

「貴公の連れよりちょこまか動けそうだし」

「それ言ったらこの中だと四足歩行のお前が……うわっ!」




 ドタタタタ! バシュッバシュッバシュッ!


 サダイタンの火器が容赦ようしゃなく攻撃を仕掛けてくる。


 ガァン! ガァン!


 後方からリンコが、サダイタンの護衛ドローンを狙撃して数機落とす。


 ガァン!


 続けてリンコはサダイタンの膝関節を狙って撃つ。ビームは命中するも、関節部は少しげたぐらいで大きなダメージを受けてはいない。


「関節自体の強度はかなりありそうだねー、私じゃ時間かかりそう」

「リンコのでもキツイか。俺が注意を引き付ける、カリオとボンで強めの一撃を叩きこんでくれ」


 ニッケルはそう言って囮役を引き受けることにした。リンコのビームスナイパーライフルの出力でも破壊できない部位を、ニッケルのコイカルに搭載された装備で破壊するのはより難しい。逆にチョークを装備したニッケル機であれば、一機で三人分の囮役もできなくはない。


「まあ貴公がそこまで言うなら……」

「そんなに必死にうったえたつもりはねえけど!?」

「すまねえがたのむニッケル、行くか」


 ボンへのツッコミもほどほどに、一同はそびえ立つサダイタンに向かい合う。




 ニッケル機の背中からチョークが射出される。まずサダイタン本体に対して牽制けんせい射撃を行う。


 バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ!


 上空へ飛び上がったチョークから放たれたビームは、サダイタンの腰部に命中する。ビームを受けたその装甲はほぼ損傷を受けていない。恐るべき強度の合金。


 サダイタン本体への攻撃を感知した護衛ドローンが、ニッケルのチョークに狙いを定めて動き始める。


(ドローンの方は釣れたか、自動タイプで助かったぜ。ただ本体側装備の迎撃砲はダメか……)


 ドローンの動きを確認したカリオとボンは、速度を上げてサダイタンの足元に向かって飛びこむ。


(アレはニッケルに任せられそうか、チンケな砲台ぐらいなら……っていてっ!)


 不意に動かしたカリオの左腕に強い痛みが走る。カリオは思わず足を動かす速度をゆるめてしまう。


 ドタタタタ!


 カリオに向けて迎撃砲から射撃!


「ギャリワン・テツザンコウ!」

「のわっ!?」


 ボンは思いっきりカリオのクロジに体当たりする。機体が迎撃砲の射線から外れ、弾を浴びることなく地面に転がる。


「ぐうぅ、助かった……いや助かったけど体当たりて!」

「ひょっとしてどこか怪我けがをしているのか!? やれるか? 今やれるのか!?」

「大丈夫だ、同じヘマはしねえ」


 体勢を整えて二機は再びサダイタンへ突っ込む。




 サダイタン内部の玉座で、ハライータは複数の巨大なモニターをながめる。


「……正直、サダイタンの戦い方を真剣に考えたことがなかったな。使う機会も少ないし、使ったときはデカすぎて大体圧勝あっしょうしてしまうしな。こいつらはそうじゃないらしい」 


 ハライータはモニターの内の一つに視線を移す。敵側の狙撃手――リンコが小さく映るモニターだ。


「あやつ相当サダイタンに撃ちこんどるな……装甲があまり削られ過ぎるとマズい。それに護衛ドローンも落とされとるし」


 ハライータは部下に手を挙げて合図を出す。




 ガァン! ガァン!


 遠距離からリンコは一機ずつ、落ち着いて確実に護衛ドローンを落としていく。


(本体への狙撃も続けているけど効果うすいなぁ……カリオに任せて私はニッケルとドローンの対処を……ん?)


 リンコはサダイタンの頭部から光が発せられていることに気づく。


「え? ビーム? ひょっとしてこっち見てる?」


 サダイタン頭部前面、人間でいう口の辺りに装備された高出力ビーム砲がうなりを上げる。


「まっずい!」


 ギュコォーン!


 サダイタンの口からリンコがいる場所へ向けて、さながら怪獣かいじゅう映画のように太い黄色のビームが放たれる! リンコは思いっきり横に飛び退く!


 ゴゴォン!


 地面を横にゴロゴロと転がりながらビームを回避したリンコ。先ほどまで彼女がいた場所にはまたも大きなクレーターが出来ていた。


「イタタ……変な盗賊のクセになんでそんなヤバい威力の兵器ばっかり!」

「無事かリンコ! 無茶せず安全な位置に移動しろ!」


 ニッケルが護衛ドローンと迎撃砲の相手をしながらリンコに叫ぶ。


(こりゃリンコと俺で長々と注意引き続けるのは厳しそうだな……カリオとボンは間に合うか……?)




(名犬勇者エクスギャリワン⑧へ続く)

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?